第41話 おままごと
テオドラがアリスを「可愛いお嬢ちゃんだなー!」と言って抱き上げると、アリスは「キャー」っと甲高い喜びの声を発した後、テオドラの放漫な胸に顔を埋めて首を横に振って甘え始めた。
テオドラが「よしよし」と言ってアリスをあやしていると、土塗れだったテオドラに、アンネが
すると、アリスがアンネの方を見て「匂い消えた」と言って、悲しそうな表情を向ける。
アンネは「汚れていたからつい……」と言って、その後「ごめんね」と謝っていた。
よく分からないが、アリスは汚れたドワーフの匂いが好きらしい。
今度、泥遊びにでも誘ってやるかと、ユリアンが考えていると、アリスは、今度はままごとがしたいと言い始めた。
「それじゃあ、俺は父親役でもしてやるかな」とユリアンが言うと、アリスが「それは駄目ー!」と言って、エルフのエステルを父親役として選び、ドワーフのテオドラを母親役として指定した。
「じゃあ、俺は?」とユリアンが告げると、アリスは悩んだ末、「ペット! 犬!」と言ったので、付き合ってやるかと思ってしゃがみ込むと、横からノアが「その役は僕がやるよ。 ワン!」と吠えた。
ユリアンはなんとなく気持ち悪さを覚え「それじゃあ、俺はアンネと見守ってるから、三人で遊んでくれ」と言って三人から少し離れた場所へアンネを連れていって見守る事にした。
しばらくアリス達は普通におままごとをやっていて、ユリアンは微笑ましくそれをアンネと共に眺める。
時折アリスがノアに辛辣な言葉をかけるので、大丈夫か? と不安を抱いたが、ノアはワンワンと喜んだ犬の演技をしているので、それ程気にはならなかった。
「ねえ! ママはパパのどこを好きになったのー?」
この瞬間、場に冷ややかな空気が流れたようにユリアンは感じた。
一緒の村に住んではいるものの、エルフとドワーフの住んでいる所は距離があり、互いに接点はあまりない。
それに、エルフとドワーフは仲が悪いと言う程ではないが、互いに避けている節がある。
出会うのを避けているのは、村の事を思って本格的に仲違いしないようにしているのだろうとユリアンは感じ取っていた。
そんな二人は、アリスの投げかけた質問に、お互い目を合わせて苦笑いを浮かべた。
適当に答えればいいのだが、テオドラはじっくりとエステルを眺め、真剣な面持ちでアリスに伝える。
「最初見た時は何処にでもいるヒョロイエルフだと思ってたけど、結構しっかりしてる所あるんだぜー、パパはよぉ。 それに一緒にいて楽なんだ、だからこいつとなら一緒に居てもいいやって思ってな。 ママはパパのそう言う所が気に入ったんだ」
テオドラが照れているのか、両腕でパタパタと自分の顔を扇ぎ、それを聞いたエステルも表情を固めていたが、少し耳が赤く染まっている。
そして、先手を打ったエステルは、アリスの口を手で覆ってしまう。
アリスが目をウルウルとさせて、エステルを見つめると、しぶしぶと言った感じでエステルはアリスの口を解放した。
「凄くママっぽかった! それじゃあ今度は、パパの番! パパはママのどこが好きになったのー?」
エステルは「私も真面目に答えなきゃ駄目ー?」とアリスの頬をプニプニと抓って聞くと、アリスは「真面目じゃなきゃいやー!」と言ったので、覚悟を決めたのか、エステルはテオドラの方をしばらく見つめた後、アリスの方へ向けて気持ちを伝える。
「えっと、本当はアクセサリーとか小物を作るのが得意なのに、採掘ばかりやってるのは、実は仲間の為だったりして…… そう言う強い女性って感じの所が、ママの良い所かなーってパパは思うんだけどなー」
「ん-、パパっぽくない!」
アリスはエステルの回答にご機嫌斜めだ。
そこで、演技指導が入り、パパっぽい仕草や言葉使いなど、細かな設定をエステルに付け加える。
「そんなの難しいよぉー」とエステルが泣き言を言ったので、「ママのどこが好き?」に対しての正解をエステルに告げる。
「パパはねー、ママのどこが好き? って聞かれたらこう答えるんだよ!
【古き言い伝えにより、エルフとドワーフは終末の化身を生み出した。 しかし、それは森を奪った怒りによって、我等が犯したドワーフへの罪でもある。 終末の化身は神々の手によって滅ぼされ、世界は再び
だよ! わかった?」
この時、更に場の空気が凍る。
エステルとユリアンは感づいた。
そして、テオドラもなんとなく分ってそうな雰囲気を出している。
ユリアンが察したアリスの正体とは、いつの日かエステルから聞いた“エルフとドワーフが交わる事は禁忌とされている” と言う言葉。
その後の話しからエルフとドワーフが争い合った末に世界が滅亡の危機を迎えたと言う話しだと思っていたが、恐らく二つの種族が交わり、子供が生まれるとそれはアリスの様な魔人が生まれると言う事なのだろうと確信を得る。
パパのセリフで既に禁忌とされている事から、少なくともアリエッタやカインゴモスの生まれる以前の話しであるとユリアンは断定した。
気まずい空気のまま三人のままごとは続き、その空気を読み取って飽きて来たのかアリスはユリアンの方へ向かって走って来る。
抱っこでも要求されるのかと思い、ユリアンが身構えていると、手招きをされたのでアリスと一緒に奥の方へと行く。
そして、みんなとの距離が離れた所で、アリスはまたユリアンに向けて手招きをする。
今度は耳打ちがしたい様子だったので、ユリアンが顔を近づけると、アリスはとんでもない事をユリアンに要求した。
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