第29話 長旅の始まり

 地下の牢屋には大部屋と小部屋があり、殆どの者が大部屋へと入れられていた。

 幸いな事に、他の小部屋は埋まっており、カルティナ達は四人揃って同じ小部屋へと閉じ込められた。


 「悪い、俺、中途半端な事しちゃったね。 でも、ジュリ姉がいればなんとでもなるか」

 「いいのよ別に、ジュリアの事、庇ってくれようとしてくれてありがとぉ! それに、ジュリアじゃなくってもなんとかなるわよん?」


 ジュリアがそう言って、カルティナを見ると「想定内ですわ」と言ってカルティナはエミリーを見つめる。


 「確かに想定内です。 姫様がお望みと言うのであれば、戦闘をしても構いません」

 「私達はまだ駆け出しですし、戦闘経験を詰んでおきましょう。 拘束具は外せますね?」


 カルティナがそう言うと、ジュリアとエミリーは問題なく拘束具を外して見せた。

 オースティンは「どうやって外すの?」と聞くと、エミリーがカルティナとオースティンに、丁寧に外し方を教える。

 カルティナとオースティンは傷を負いながらもなんとか自力で拘束具を外す事が出来た。


 「準備万端ですわね! それじゃあ、行きますわよ!」


 ジュリアが牢屋の扉を蹴り飛ばし、エミリーが先頭を行く。

 見張りの兵士達は手強いが、エミリーがしっかりと前衛を務め、オースティンの支援魔法と攻撃魔法によって蹴散らかしていく。


 カルティナもインビンシブルの能力によって透明化し、背後からの強襲を成功させていた。

 ジュリアは中衛で前衛と後衛のサポート役に徹している。


 カルティナ達が建物の外にでると、逃げて行った兵士達が味方を呼び、すでにカルティナ達は包囲されていて、硬直状態となった。

 上官の男が後からやって来て、カルティナ姫達に向けて言葉を投げかける。


 「暴れても無駄ですよカルティナ姫。 痛い目に合いたく無ければ、大人しく牢屋で過ごしていて下さい」


 そう言って下卑た笑みを浮かべる男に、カルティナはこう答えた。


 「私はもう姫ではないですわ! エミリー! 道を切り開きなさい!」


 エミリーはカルティナの指示に従い、出口方面にいた兵士の方へ突っ込み、オースティンが放った攻撃魔法と合わせて、突破口を開く事に成功する。

 そのまま全員で出口の方へ走っていくと、当然ながら出口となる門には衛兵が立っている。


 そのままの勢いで突破しようにも、門が閉じているので、カルティナ達はそこで足を止める事となってしまった。


 後から追いついて来た上官の男が「ここまでですな」と言い、今度は突破されないよう武器を身構えて警戒している。

 

 「ジュリア様、できるだけ私達で対処しますので、危うくなったら助けて下さい」

 「あぁん! 結構頑張るのねん! それじゃあ、ジュリアわぁ、砦の上にいる弓兵を片付けておくわねん!」


 そう言ってジュリアは高く飛び跳ね、見張り台などにいた弓兵達を瞬く間に倒していった。

 カルティナ達も足を使って上手く立ち回り、半分程兵を倒す事に成功する。

 しかし、不慣れな後衛の役割をしていたオースティンが兵士達に捕まってしまい、窮地に陥ってしまう。


 「その小僧の魔法なしでは、我等に太刀打ちできますまい」

 「私達にはもう一人仲間がいる事をお忘れで?」


 「あのジュリアとか言う色っぽい女の事か? あれだけ高く飛び跳ねていればすぐに体力も尽きて、今頃兵達に捕らえられているだろう」

 「あらん? そろそろ兎の手も借りたくなった頃かしらん?」


 「貴様! いつの間に儂の後ろに! 兎の手?」

 「こっちの話しよん」

 「ジュリア様! もう全部やっつけちゃって下さい!」


 「うふん! じゃあ、おねんねの時間にしましょうね!」


 ジュリアは電光石火の如く兵士達の間をすり抜け、それと同時に攻撃を放ち全ての兵士を気絶させた。

 そして、カルティナ達は閉ざされていた門を上げ、サリッドン王国領内へと進む。


 目的となる場所などは決めていなかったが、カルティナ達は、とりあえず王都を目指す事に決める。


 色々な場所を見たいというカルティナにとっては何処へ行っても良かったのだが、王都には港があると聞いた事があるので、そこから船の旅が出来たらと考えていた。


 国境を越えたばかりなので、王都までの距離はまだまだ遠く、カルティナ達はゆっくりと旅を楽しむ事に決めた。


 「そういえばさ、カルティナは旅がしたくて、エミリーはカルティナに着いて行きたいって感じだよね? 俺も自由気ままな旅には憧れてたから着いて来たんだけど、ジュリ姉はどうして俺達の旅に着いて来てくれてるの?」

 「ダーリンにぃ! お目付け役をお願いされたから着いてきたのよん!」


 「そういえば、そう言う感じだったね。 外でやりたい事とかないの?」

 「うーん…… 会ってみたい人なら何人かいるわよぉ」


 「会ってみたい人?」

 「大昔の友人。 それと、忘れられない想い人!」


 ジュリアは照れた様な仕草でわざとらしく、顔を両手で覆い体をクネクネと動かしていた。

 

 「それじゃあ、それも目的地に入れていいんじゃない?」

 「あらん? 結構偏狭な所だから無駄足になっちゃうわよん?」

 「それなら大丈夫ですわ! 私、何処へでもいってみたいですもの!」


 「そう…… それなら、ロスモア――ああ、今はアディン共和国だったかしらん?」

 「アディン共和国? 確か、別の大陸の国ですわね! それなら王都で船に乗って行きましょう!」


 「うふん。 カルティナちゃんは船に乗ってみたいのねん。 でもぉ、長旅になるから、しっかりとお金も稼がないと駄目よ?」

 「大丈夫ですわ! 冒険者のお仕事もしっかりと熟してみせますわ!」

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