第31話 ガーディアン大会② そして、招かざる客

 「なんだあれ?」ユリアンは思わずそう呟いたが、誰の耳にも届かず、バレンシアの解説が入る。


 「黒い猫は基本的には二息歩行で歩き回るが、飛行する事で高速移動が可能となる。 そして、魔法による遠距離からの攻撃が得意だ」


 バレンシアの説明通り、黒い猫は遠距離から魔法を撃つと簡単に大岩を砕いた。

 攻撃力と機動力は申し分ない。

 しかし、耐久性はどの守護者ガーディアンよりも劣り、行動力に関しても自由気ままに動くので少し難がある。


 村人達の評価ではアイアンゴーレムと同じく平均7点だった。

 見た目に関しては高評価だったのだが、遠距離攻撃が得意と言う点で、守護者ガーディアンとしての役割を果たせるのかと言う疑問を払拭出来なかったのがマイナス点となった。


 そして、いよいよユリアン達の順番が巡って来る。


 「それではー! 次はいよいよご主人様チームの番ですー!」

 「我等がご主人様チームの守護者ガーディアンなの! その名もイズラーイールなの!」


 イズラーイールが登場し、大きな歓声と拍手に包まれる。

 見た目は彫刻の石像の様で、下半身は破壊されて無くなったような見た目をしている。

 背中には大きな翼があり、常に両目からは水が溢れ出し、イズラーイールの周囲には四つのドクロが浮遊しており、本体も常に浮いている。


 「イズラーイールは攻撃を躱したり、接近するのが苦手なんだが、アンネの姉さんの魔力の特性で瞬時に移動する事が出来る。 浮遊するドクロはリンネ嬢の得意な攻撃魔法を遠隔操作していつでも放てるようになっている。 本体の方も目から色々な属性の魔法を放てるようになっているぞ!」

 「解説ありがとうなの! それではテストの結果なの!」


 イズラーイールの評価は全てにおいて高評価。

 見た目も斬新で、村人達の評価も高く、最高得点の9点をたたき出した!


 「さーて! 最後に私達マーメイドチームの守護者ガーディアンいくですー!」

 「待ってましたなの! 私達の守護者ガーディアンは二体! スキュラとカリュブディスなの!」


 最後も変わらず、スキュラとカリュブディスが登場すると歓声と拍手に包まれる。

 そして、二体共見た目がそっくりな可愛らしい少女の姿をしていた。

 見た感じ守護者ガーディアンには見えないその姿から、ユリアンはサポート系なのだろうと予想する。


 「正直、この二体の守護者ガーディアンに関しては、マーメイドの二人の魔力が特殊なせいで、突然変異を起こしちまった! 暴走したと判断したら速攻で全員で攻撃して畳み掛ける事を推奨するぜ!」


 大岩を砕くテストでは、スキュラの足元から大岩まで一直線に地割れを起こし、地中から伸びて出て来た六頭の犬の首が大岩を噛み砕いた。

 続いて、新しい大岩がセットされると、カリュブディスが近づき、足元から激流の渦を発生させ、大岩を粉々に粉砕した。


 耐久性に関しても、犬の首と渦で守られた二人の守りは固く、機動力も優れている。

 行動力に関しても、今の所はマーメイド達の命令に忠実に従っていて、臨機応変な対応も出来る。


 村人達からの評価も最高で、全員が10点満点をつけた。


 「最終結果が出たですー! 最優秀守護者ガーディアンに選ばれたのはー!」

 「私達マーメイドチームなの!」


 大きな歓声と拍手と共に、ユリアンは二人の元へ行き、優秀賞として欲しい物を二人に聞く。


 「海が恋しいのですー」

 「海は流石に持ってこれないな……」

 「入り江の様な場所でもいいなの!」


 「入り江の様な場所かー。 それなら地底湖に転移装置を置いて、湿地帯と繋げるか」

 「湿地帯ってどんな所ですー?」


 「綺麗な場所だけど、好みとかあるのか?」

 「深くて良い感じの岩場があると日向ぼっこ出来て気持ちいいの!」


 「わかった。 じゃあ、デライアに相談して作ってみるよ」

 

 マーメイドの二人はユリアンに礼を言い、ユリアン達は村人全員で闘技場でそのままバーベキュー大会を始める。

 大会と言っても司会などはなく、みんなで好き勝手に食べたり会話を楽しんだりしていた。


 夕暮れになると、空が赤く染まった頃、突然ユリアンの目の前の空間が歪み、そこから見知った剣士が飛び出して来た。

 その剣士の顔を知っている者は全員臨戦態勢を取り、その様子をみて他の戦える者も武器を手にその剣士を見つめる。


 その剣士の顔には冷や汗が溢れ出て来ており、気まずそうに苦笑いを浮かべながらユリアンに話しかけて来た。


 「こんばんわー…… ええっと、ただの通りすがりなんだけどって言っても、見逃して貰えないよね?」

 「当たり前だ。 俺達の前に現れたのは偶然ってわけでもないんだろ? ここへ何をしに来た?」


 「実は…… 僕個人としては何もないんだ」

 「そんな事はないだろ? じゃあお前個人じゃなかったら何か用があるのか?」


 「うん、アリスにこっぴどく怒られてね。 スパイ活動してこいってさ……」

 「ん? スパイ活動?」


 「僕は出来ないっていったんだよ? 顔も割れてるし変装出来る訳でもないし。 でも、アリスにスパイして来いって無理やりここへ飛ばされたんだよ」

 「やっぱりアリスは生きてるんだな。 にしても、俺達がそれを許すと思うか?」


 「思う訳ないだろう。 まあ、そう言う事だし、僕はこの場から離脱させて貰うよ」

 「悪いが、お前をみすみす見逃す程、俺は馬鹿じゃない」


 「じゃあ…… 鬼ごっこ、始めようか!」


 ノアは全力でこの場から走り出した。

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