第11話 未来の街の姿

 ユリアンは寝不足気味だった。

 ジュリアとの行為の後、アンネとリンネの相手もする事になったからだ。

 ヘトヘトなユリアンだが、朝食を取るとシャッキリして元気を取りどす。


 朝食を終えると、ユリアンは街の外れへ石材を運び、小さな社のようなものを建てる。

 石碑には共に戦った賢者ハーベル、戦士バルトス、僧侶メリルの名前を刻み、形見として取っておいた生前の彼等が愛用していた品を箱に詰めて石碑の下に埋める。

 完成した石碑の前で、ユリアンは何も言わず、ただ祈りを捧げる。

 

 その様子を見ていた、村の皆も何かを察したみたいで、ユリアンの後ろで祈り始めた。



 「偉大なる英霊に祝福を」


 そう口にしたのはいつの間にかユリアンのそばまで来ていたアリエッタだった。


 「こいつらも、まさか殺した張本人が哀悼あいとうの意を表して拝んでくれるとは思ってなかっただろうな」

 「我は邪魔だったか?」


 「そんな事はない。 あいつら…… 可愛い女の子は好きだったし喜んでると思うよ」

 「そうか、これでも少しずつ成長はしてるのだがな」


 ユリアンは恐るおそるアリエッタの頭を撫でると、特に気にする様子はなく「村を見て周る」と言ってテクテクと歩み始めた。


 アリエッタと分かれたユリアンは、村の今後についての相談するため、魔族達に声を掛け、広場に集める。


 「この村は俺とアンネの子供の為と言う事で、アリエッタから街を作れと言われて開拓をしてきた。

 村が発展して俺もちょっとは責任感を感じている。

 そこで、本格的にこの村の未来の姿がどうあるべきなのかを相談したいんだけど、みんなからの意見を聞かせて貰えるか?」


 ユリアンの質問にデライアが口を開く。

 デライアは魔族では珍しく、無口で職人っぽい気質の女の子。

 無駄を嫌う彼女は自分で髪を切り揃えており、美しい黒髪だがハサミでバッサリとカットしている為、おかっぱ頭になっている。


 「色々と調べた。 多分ここは人工的に作られた楽園」

 「どういう事だ? ここには元々何もなかっただろう?」


 「この土地を守る様に広大な湿地帯があったり、鉱山は自然でもこっちと反対側全てがより険しくなっている。

 森も外周は綺麗に真っ直ぐな針葉樹で覆われていた。

 地底湖の形は自然では作られない構造になっている」

 「そんな事が分かるのか。 人工的に作られたとして、どうやって作ったんだ?

 あれだけ大きい木が育つのも結構時間が掛かるだろう」

 

 「針葉樹があれだけの大きさになるには60年は掛かる。

 最も古いと思われる大木は推定で5000年から8000年前から生えていて、同じような大木は他にもあった」

 「なるほどな。 それで、この村の未来にそれが何か関係あるのか?」


 「多分、この楽園は魔王様が気の遠くなる様な年月を費やして作った。 だから、魔王様に相談するのがいい」

 「そう言う事か。 その事に関しては何も助言してくれないと思うぞ。

 前に一度、この場所がアリエッタにとってどういう場所なのかを聞いたけど、大した事はないの一言で済ませたからな」


 「それじゃあ、私はお手上げ」


 デライアが匙を投げた事で、次にジルペットが口を開いた。

 ジルペットは金髪ツインテールの女の子で、アリエッタが紹介してくれた三人の魔族の中では一番明るい性格をしている。


 「魔王様がこうしてくれって言ってるわけじゃないんでしょう?

 それなら、私達で好きな街にすればいいのよ。

 希少なものもいっぱい取れるし、色々な種族と交易とかもバリバリやって、この世のありとあらゆる楽園を体現した街にすればいいんじゃない?」

 「そうなると、この環境を荒らす奴等も出てきそうだし、あんまり賛同できないな。

 希少なものも、今は全く問題ないけど、大勢の人の手なんかが加わったら圧倒言う間に底を尽きるぞ」


 「それもそうね。 私は楽しければなんでもいいわ!」


 楽しい事か。

 娯楽なんかも取り入れていく必要はありそうだな。


 ジルペットの話しが終わったので、今度はアンブリースが口を開く。

 アンブリースは三人の中では一番大人っぽい見た目をしている。

 スタイルが良く、髪は色が独特、黒髪だが3割が銀髪で、長いロングヘアの途中から、その色が反転したミステリアスな雰囲気をもつ女性。


 「私達の好きに街作りをすればいいと言うのは私も同意見だわ。

 アンネとの子供、つまり魔族と人族のハーフの為に街を作る。

 そして、他の種族を移民として受け入れる提案も魔王様がしたと言う事は、そう言う街を魔王様は望んでいるというだけの事よ」

 「ああ、なんとなく分る様な分からない様な感じだけど、要するに、異種族による街作りがしたかった。

 もしくは、本来受け入れる事のないハーフなんかの種族が安心して暮らせる街を作りたいとかそういう感じだろ?」


 「そうだと思うわ。 しかも、その熱意は相当なものよね。

 少なく見積もっても、6000年かけてこの楽園を作り上げたんだから」

 「そうだな……思ったより責任は重大と言うか、俺には背負いきれそうにない。

 もう一度アリエッタに相談してみた方が良さそうだな」


 「私もそうした方がいいと思うわ」


 とりあえず話が纏まり、ユリアンはアンネの転移門でアリエッタ元へと向かった。

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