第16話 魔族の少女アリエッタと進軍準備
アリエッタの元を尋ねたユリアンは、早速マーメイドから受け取った指輪を見せた。
すると、その指輪を見たアリエッタの翼が小さく揺れ動く。
「これ、アリエッタの指輪だろ?」
「確かに、それは我の所有物だったものだ」
所有物だった。 と言う事は地底湖に投げ捨てた可能性もあるとユリアンは考える。
しかし、ユリアンの頭の中では、アリエッタが指輪の所有者だった時点で、それは誰かからの贈り物なのだと確信をする。
そう結論づけたのは、アリエッタは着飾る事に興味があるようには見えない。
いつも同じ飾り気のない、ただ黒いだけのワンピースを着て、装飾品などもつけている所を見た事がないからだ。
屋敷の中も
貰い物でもなければアクセサリーなんて持っているとは思えない。
「だってって事は…… 森の中に投げ捨てたって事だったりするのか?」
「ああ、その通りだ。 その指輪は好きにしろ」
ユリアンが森で捨てたと鎌をかけたのは、本当にアリエッタが捨てたのかどうかを確認したかったからだ。
本当は地底湖に落ちてあったので、この場合、アリエッタが自ら捨てたと言うのは嘘の可能性が高く、相対的に、いつの間にか無くしていた可能性が高くなる。
「俺の好きにしていいんだな。 それじゃあ、これはアリエッタに返すよ」
「いらん。 我は指輪に何か付けているのが苦手だからな。 手袋もつけているだけで気持ちが悪くなる」
「そうなのか? それじゃあこの指輪を持っていた時はどうしてたんだ?」
「紐を通して首から下げていた」
「そうか。 そんじゃ、ちょっと待っててくれ」
ユリアンはそう言い残し、アンネと共にドワーフの作業場へ向かった。
作業場にいたドワーフはマルティナだけで、他二人は鉱山で採掘でもしてるのだろう。
マルティナは何か作業をしている様子だったが、急ぎの用なので、ユリアンは構わずにマルティナに話しかける。
「忙しい所悪いが、急ぎの用がある」
「ユリアンの旦那! 今日は夫婦そろって来たんだな。 急ぎの用ってのはなんだい?」
「指輪があるんだが、その指輪にチェーンを通してネックレスにしたい。
出来るだけ丈夫にして、品のある感じのを頼みたい」
「付けるのはアンネの
「いや、つけるのはアリエッタだ」
「魔王の嬢ちゃんか。 それじゃあ飛びっきり品のあるやつにしてやる」
「ああ、よろしく頼む。 本人はあまり聞かざるのは好きじゃないみたいだから、ゴテゴテしたやつは駄目だぞ? シックな感じでやってくれ」
「心得た!」
「丁度良いのがあったんだ~♪」と変な歌を唄いながらマルティナは作業に入る。
「ネコッノアッシオット♪ メスッノヒゲ! クマッノケンニ♪ ウオッノイキ♪ トリッノ、トリッノーーーーーツバ!」
ユリアンはマルティナ延々とリピートする、その歌を聞き取ろうとしたが、結局よく分からなかった。
一時間弱でマルティナはチェーンを完成させた。
丈夫に作ってくれといったのに、ただの綺麗に編まれた紐に見える。
確かにシックで品のある感じではあるので、ユリアンはこれで良しとした。
「ありがとう。 大切にして貰えるよう伝えておくよ」
「ああ、魔王の嬢ちゃんに宜しくな! それと、一応安全の為に太めに作ってるし、負荷がかかると
「ん? 普通に編みこまれただけの綺麗な紐に見えるんだけど、丈夫なのか?」
「旦那がどんなに頑張っても、まず引きちぎれないだろうな!」
そう言われたら試さずにはいられない。
ユリアンは思い切り紐の輪の中に手を通して、引っ張り上げる。
紐は伸びる事すらなく、ビクともしない。
更に、自身の力を集中させ、全身が震える程の全力で紐を引きちぎろうとしたが、それでもユリアンの筋肉が
「この紐、凄いな。 何で出来てるんだよ……」
「それは秘密。 ドワーフだけの専売特許ってやつな!」
「専売特許なら仕方ない。 今日はありがとな!」
ユリアンはマルティナに別れを告げ、アリエッタの元へと引き返す。
「待たせたな」
「正直、少し待ちくたびれた」
「それは悪かったな。 でも、気に入ると思うぜ。 それじゃ、指輪を返させてもらう」
ユリアンはそう言って、マルティナに作って貰った紐に指輪を通した。
そして、その紐をアリエッタの首に着けてあげようとした。
その時、アリエッタの方が小さく跳ね、驚いた表情を見せた。
目を丸く大きくして、アリエッタはユリアンを見つめる。
いつでも無表情で、たまに冷ややかに笑む程度だったアリエッタが、見た目相応の少女の様な驚く顔を見せたので、ユリアンも思わず「おおっ……」と口にした。
指輪のネックレスを首に掛け「似合うじゃないか」とユリアンが言うと、アリエッタはまんざらでもない様子ではにかみ「ありがとう」と呟いた。
アリエッタはすぐ元通りになり、ユリアンに語りかける。
「ユリアン。 もう
「本当か! 俺は何をすればいい?」
「そう焦るな。 グルターク帝国の城を攻める前に、邪魔な砦を攻め落とす。
攻めるのは城の最も近くにある大きな砦だ」
「ああ、たぶんベチルカ砦の事だな」
「まあ、名前などどうでもいい。 間も無く我の物になるのだからな」
「強気だな。 実際アリエッタが直接乗り込んだら直接城に出向いても一瞬で片付くだろうと思うけどな」
「我が直接動くのは、砦を落としてからになる。 それに…… 我が乗り込んでも確実に勝てるとは限らんぞ」
「そんなわけないだろ。 お前の魔法に耐えられる人族なんていないだろうし、あんなに強力な攻撃魔法をあんな速さで放たれて対応出来る奴がいるとは思えないんだが?」
「そうか。 なら、気にする事はない。 ユリアン、お前は自分の敵を見定め、それだけに集中するといい」
「なんだよ、腑に落ちないな。 何かあるなら言ってくれ。 俺はお前に仕える忠実な
アリエッタは
「我は魔力を温存したい。 故に、砦への進軍は暗黒騎士。 お前に任せる」
「おいおい、俺は軍の指揮なんてできないぞ? それに、魔族にも参謀とかいるだろ?」
「勇者ユリアン。 お前は魔族と戦って、魔族が誰かの指揮の元で動いている様に感じた事があるのか?」
「ん? 魔王軍とは何度も戦った…… そういえば、幹部でしかも魔法使いのシェイドが一人孤立していたり、突然一騎打ちを挑まれたりした事はあったけど、策略の様な戦術を使われた覚えはないな」
「その通りだ。 あいつ等は戦争をすると言ったらそこに集まり、戦いたいから戦っているだけだ。
ついでに言っておくが、魔王軍幹部や、アンネが魔軍司令官などと名乗ったりしているが、これは自分で気に入った役職を勝手に名乗っているだけだ。
そもそも、魔王軍と言う言葉自体がそれぞれで勝手に所属している事にしているだけだからな」
「なんだそれ? 魔族はみんなその場のノリみたいな感じで戦っていたのか?」
「そうだ。 以前に伝えたが、我も魔王とされているだけで普通の魔族の女だからな」
「そう言えばそんな事いってたな。
じゃあ、俺は先陣を切って戦えば、みんな勝手について来てくれるって認識でいいんだな?」
「それでいい。 すでに砦付近には軍を待機させてある。 皆には暗黒騎士が来るまで待てと命じた。 場所はアンネが知っているはずだ。 好きな時に行くと良い」
「わかった。 村のみんなに挨拶してから乗り込んでやる」
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