第15話 マーメイドは進化する

 奴隷商が次に勧めたのは羊の獣人だった。

 彼はおどおどしていて、まだ幼い見た目をしており、獣よりも人の特徴の方を強く持っている。

 獣人っぽさと言えば、立派な角と尻尾が生えているだけの様だ。


 顔も悪くないし、これなら女の子達も怖くないだろうと思い、ユリアンは交渉を始める。

 

 「君の名前を教えてもらえるか?」

 「ボク…… ロザリンド」


 「よし、ロザリンド。 性奴隷になる覚悟はあるか?」

 「経験はないけど、頑張ってご奉仕するつもりです」


 「その気はあるようだな。 こいつを買おう」

 「有難うございます。 この子がお気に入りになられたのでしたら、もう一人紹介したい奴隷がおりまして」


 「ほう、見せてもらおう」


 奴隷族が次に案内したのは小人族の奴隷。

 見た目は細身でスラっとした女の子みたいな顔立ちの美少年。

 少年にみえるが、小人族なのですでに成人している。

 金髪のショートヘアで、堀が深いと言う程でもないが目鼻立ちがはっきりしていて、絵本に出て来る王子様のような外見をしている。


 「名前を聞かせてくれるか?」

 「俺の事? オースティンだよ」


 「よし、オースティン。 性奴隷になる覚悟はあるか?」

 「構わないけど、そっちの経験はないけど、それでもいいの?」


 「そっちの経験? まあ、その気があるみたいだし、こいつも買おう。

 いくらになる?」

 「有難うございます。 二人合わせてこちらの金額になります」


 「大金貨三枚か。 いいだろう」


 ユリアンは大金貨三枚と引き換えに、ロザリンドとオースティンを奴隷として手に入れた。

 その後、街の外れまで連れていき、アンネの転移門で村へと帰った。


 転移門で転移した事に二人は驚いている。

 ユリアンは二人に村の案内を済ませた後、空いている家に彼等を連れていく。


 「ここはお前達の仮住まいだ。 もっとちゃんとしたのを作ってやるから、それまではよく寝て、よく食べて、性生活への準備をしておけ」


 二人はユリアンの言った事に頷き、しばらくの休暇を与えた。


 「ユリアン、性奴隷を買ってどうするつもり?」

 「俺一人じゃ身が持たないのもあるし、ライラとロラを抱く気にはなれないからな。

 二人にその役目をやってもらう」


 「そう、子供が出来るかもしれなけど、いいの?」

 「それは対策しないといけない。 思いつきで行動したからあまり考えては無かった。 魔法で解決できないかな?」


 「避妊する魔法は魔族だと聞いた事はない。 魔法の技術が高いエルフ達に聞いてみれば?」

 「わかった。 エルフ達に聞いてみるよ」


 ユリアンはエルフ達の元へ行き、避妊する魔法について聞いてみた。

 ミレーユが使えるそうなので、早速ミレーユを連れて二人の元へ行く。


 「ミレーユ、この二人だ」

 「避妊の魔法…… 一生子供を作れなくなるけど、いい?」


 一生子供を作れないとなると、また話は違って来る。

 しかし、奴隷として二人を買ったユリアンは二人に選択を問う。


 「一生子供を作れない体になって、この村で性奴隷として生きるか、外の世界で自由な人生を送るか、選んでくれ。

 ここで暮らすなら、楽園と言っても過言ではないくらいに良い暮らしが出来るとだけ言っておこう」


 二人は悩みながらも、ユリアンの問に返事を返した。


 「ボクは、ここで暮らしたい」

 「俺も同じかな」

 「いい返事が聞けて何よりだ。 そう言う訳で、ミレーユ魔法を頼む」


 ユリアンは二人からかなり距離を取った。

 ミレーユが避妊する魔法コントラセプションを使う。

 当然だが、見た目にはなんの変化も現れない。


 「主、これでもうこの二人は子供を作れない」

 「よくやってくれた。 二人にはまた声を掛ける。 それまでは休んでいてくれ」


 ミレーユにも別れを告げ、ユリアンはアンネと一緒に地底湖へ行く。

 地底湖へ行くのは、マーメイドの二人を連れて来た時以来だなと、ユリアンは思い返す。


 転移門を抜けて、到着すると見知らぬマーメイドが二人いた……。

 

 「ああっ! やっと来てくれたー!」

 「遅いなの! ずっとご主人様が来るの待ってたの!」


 「ああ、悪かった。 それにしても、二人の見た目変わっていないか?」

 「変わりましたー。 ここの水や食べ物の力でー、高位のマーメイドになったのですー!」


 「高位のマーメイド?」

 「千年に一度現れるスーパーマーメイドになったのですー」

 「そうなの! 私達は伝説のスーパーマーメイドになったの!」


 「何か凄い事が出来るようになったのか?」

 

 ユリアンがそう聞くと、二人は地底湖の中へと潜って行き、しばらくしてからザバーン! と天井付近までジャンプしながら「高く飛べるですー」「なの! なの!」と特に役に立ちそうにないことをユリアンに伝えた。


 身体能力が高くなったと言う事であれば、高位のマーメイドになって良かったなと心の中でユリアンは思った。


 「それにしても、見た目が変わるとは思ってもいなかった。

 四六時中この水に浸かって、地底湖の食べ物を食べてたんだから分からなくもないけどな。

 お前達は性欲旺盛になっていないのか?」

 「性欲?」


 「性欲分からないか? 子作りとかしたくなってないか?」

 「してないけどー?」

 「きっとアレの事を言ってるなの! スケベってやつなの!」


 「ああ、人族の繁殖こーどー。 マーメイドはそう言うのしないからー、そう言う気持ちにもならないー」

 「それじゃあ、どうやって繁殖するんだ?」


 「たくさん泡をブワ―って出してもらって、泡の中を泳ぐと、その中に赤ちゃんがいるから、大切に育てるの!」

 「泡は誰が出すんだ?」


 「……知らないおじさん、なの?」

 「知らないおじさん!?」

 「たぶん、泡を出しているのは海の神、アワオジの事ね。 マーメイドに関わる文献で見た事がある」


 「よく分からないけど、そういうものなんだなって思っておく。

 そう言えば二人の名前を聞いて無かったな。 聞かせて貰えるか?」

 「私はー、アフロディーテ」

 「私はビーナスなの!」


 「わかった。 俺達に伝えて置きたい事とか、特にないか?」

 「あるー!」

 「あるなの! あるなの!」


 「わかった、わかった。 何があるんだ?」

 「お家作ったから見に来て欲しいー」

 「私達が作ったお家! 素敵なの!」


 マーメイドの二人にそう言われたからには見に行ってあげたいと思ったユリアンだが、地底湖の水はユリアンにとってあまりに冷たすぎるし、あまり息も続かないのでマーメイド達の申し出をやんわりと断った。


 「大丈夫ですよー」

 「私達に任せてなの!」


 マーメイドの二人は水の加護アクアブレッシングの魔法を使い、ユリアンに地底湖に入る様にせがんだ。


 ユリアンはおそるおそる地底湖の水に足を付けると、冷たい水が気持ちよく感じる。

 大丈夫そうなので、そのまま全身で浸かると、不思議な事に水の中でも呼吸が出来た。


 ユリアンの様子を見ていたアンネも、ザブンと水の中へ飛び込む。


 「凄い魔法だな。 それじゃあ、お前達の家を見せてくれ」

 「はいー、どうぞこちらへー」

 「こっちなの!」


 二人のマーメイドが水流を作ってくれているのか、すごいスピードで泳ぐ事が出来る。

 地底湖の奥深くまで潜ると、光が見えて来た。

 どうやらあそこが二人の住処らしい。


 「頑張ってここに穴をあけましたー」

 「そうなの! 頑張ったなの!」


 洞穴の中を覗くと、綺麗な貝殻や綺麗な石で飾られている。

 人族のユリアンにはこれと言って魅力的には映らなかった。


 「いい住処だな!」

 「頑張ったですー」

 「自慢のお家なの!」


 ユリアンとアンネはその後、じっくりと二人の家を見た後、地底湖の地上へと帰って来た。

 

 「また来てくださいー」

 「ああ! 忘れてたなの!」


 そう言ってビーナスが地底湖に潜り、浮上して来ると、手に何か持って帰って来た。


 「これなの! 地底湖の底で見つけたなの!」

 「これは…… 指輪か」


 こんな場所で指輪を落とした人物。

 ユリアンの中で心当たりのある人物は一人。


 「ありがとう。 たぶん持ち主は分かってるから返しておくよ」

 「はいなのー! また来てなのー!」


 マーメイド達と別れを告げ、ユリアンはアリエッタ元へと向かった。

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