第19話 終戦の時まであとわずか
砦を占領したユリアンは魔王軍に待機を命じる。
後は城を落とすだけなので、魔族達は開戦前よりもテンションは下がっていた。
一応、他の砦や拠点にも兵が残っているので、城を攻めている間は外で防衛戦があるとユリアンが伝えると、魔族達は「任せろ!」と意気込んだ。
アンネがアリエッタを連れ、転移門から現れる。
「随分早い決着だったな」
「ああ、まだ魔王軍の残党を倒そうとして、出ている兵士が多いんだろう。
敵の数はそれ程でもなかった」
「そうか、戦況は悪くない。 だた、お前、復讐に囚われた目をしているな。 何があった?」
「俺が勇者としてお前に挑んだ時に一緒に戦った奴等がいただろう」
「ああ、僧侶メリル、賢者ハーベル、戦士バルトスの事だな」
「そうだ。 俺が戦ったのは、どう考えても本物としか思えないそいつ等だった」
「そうか。 ならやはりあいつがいるのだな」
「あいつ? それに…… アリエッタ、何を知っている?」
「お前の見たもの。 それは一応本物だ。 詳しく聞きたいか?」
「ああ、教えてくれ」
「この世界に在るもっとも古い神が一柱。 名前は発音する事も聞き取る事もできない故にわからん。 その神は、この世界で死んだ者の記憶を保存するだけの神であり、それ以外の事はわからん。
だが、魔法でそいつの保存した記憶を奪い、死者を蘇らせて扱う者がいる。
分かっているとは思うが、体はお前にやった馬と同じ魔法で作られている」
「本物の記憶を持った偽者ってわけか」
「そうだ。 その魔法を使う奴の事は私に任せろ」
「わかった。 俺は皇帝をやろう。 ああ、一つ聞きたい事がある」
「なんだ?」
「その魔法ってのは記憶の
「出来るが、辻褄が合わなければならないはずだ。 疑念を抱けば利用されている事に気が付いてしまうからな」
「辻褄か…… 僧侶メリルが俺以外の奴を勇者だと言っていたんだ」
「お前に成りすましている誰かがいると言うだけだ」
「そんな簡単な事なのか。 俺が倒すべき相手がもう一人増えたな。 誰かは知らねえけど」
「そうか、知らぬ間に我が倒しているかもしれんな。 もし出会わなければ、我が倒したのだと思っておけ」
「わかった。 それじゃあ、行くか」
ユリアン達は砦からグルターク城へ向けて、進軍する。
その途中にあるベチルカの街はガランとしていて、もぬけの殻の様になっている。
僅かに人の気配はあるが、建物の中でひっそりと息を潜めていた。
街の人達には用はないので、ユリアン達はまっすぐ城を目指し、何事もなく城の前へと辿り着いた。
魔王軍にはここで外から人族の兵士達が戻ってきた時の為に置いていく。
アリエッタが魔法を使うと、街を覆う程の巨大な結界が現れた。
その結界は、徐々に外側から城を中心にして、新たな結界が幾重にも展開されていく。
準備が整い、アリエッタとユリアンは城の中へと入る。
その後、アンネがユリアンを追って着いてきたので、ユリアンとアンネは行動を共にする事となった。
城を少し入った所で、アリエッタが「皇帝はそっちにいる」と指さしたので、ユリアンとアンネはその指示に従う。
アリエッタは、その逆の方へと歩みだした。
ユリアンは何度もここへは着た事があったので、その先にある場所が皇帝の私室だという事を把握する。
そして、皇帝の部屋の前に一人の男が立っていた。
帝国近衛騎士団、団長のヴァイ。
腕は確かだが、歳のせいで全盛期と比べれば、その腕も衰えている。
ユリアンの相手ではない。
だが、ユリアンには僅かな迷いがあった。
皇帝を守ると言うのなら容赦するつもりは無い。
しかし、ユリアンにとってヴァイは、この城で唯一よくしてくれた人物でもある。
特に思い出などはないが、生き残る道を選らんでくれた方が、ユリアンにとっては幸いであった。
ユリアンはそんな風に考え、道が違えばもっと良好な関係でいられたのだろうと、記憶を思い返してみていた。
ユリアンは覚悟を決め、彼の前に立つ。
「暗黒騎士殿…… ついにここまで乗り込んで来たか」
「皇帝の護衛はお前一人なのか?」
「降伏したら見逃してくれるのか?」
「見逃すつもりはない」
「そうだろうな。 なら、儂の作戦勝ちだな」
「作戦勝ち?」
「グルターク帝国の敗北は必至。 近衛騎士団なら殺される前に逃がしたよ。 この城に残ってるのは儂と王族くらいだ。
「俺は王族さえいれば構わない。 お前も逃がしてやろうか?」
「儂はここで戦うよ。 実はこういう戦いにずっと憧れてたからのう。 儂は元近衛騎士団、団長のヴァイ。 参るぞ、暗黒騎士殿」
「ああ、俺は名も無き暗黒騎士。 元近衛騎士団の団長と言ったな? 今はなんのヴァイなんだ?」
「別に何者でもない。 ただ、勇敢なる者だ」
「そうか」
互いに剣を構え、ヴァイが飛び込み、
ヴァイは果敢に攻め込むが、実力差は明白。
「強いな…… 暗黒騎士殿、儂は最後まで勇敢な剣士だったか?」
「ああ、一人で皇帝の命を守ろうとしたお前は勇敢だったよ、ヴァイ。 いや、勇者ヴァイと呼んだ方が良かったか?」
「そう呼んでもらえたなら…… 死んだ息子にも、お前と同じ……勇者になったのだと自慢できる」
「お前…… 今何といった?」
ユリアンがヴァイを抱き上げた頃には既に事切れてしまっていた。
この男は確かに言ったはずだ。
死んだ息子が勇者なのだと……。
ユリアンは孤児だったので両親の事は知らない。
今更親が現れたとしても、自立した自分にとっては関係の無い人だと思っていた。
「せめて、事切れる前に言ってくれ」とユリアンは寂しそうな声で呟いた。
これで、ユリアンを阻む者はいなくなり、王族の私室が連なる廊下へとやって来た。
皇帝の私室は廊下の一番奥にある。
一応、手前にある部屋から順番に見て周り、見つけた王族は全て始末した。
残っているのは皇帝とカルティナ姫のみとなる。
ユリアンが最後の扉を開き、部屋の中へ入る。
心ここにあらずと言った感じで、部屋に入って来た
「グルターク三世」
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