帝国に復讐を誓った勇者。魔王と手を組み、王族を滅ぼす!(仮)

ジャガドン

第1話 プロローグ 魔王との戦い

 薄暗く、物静かな廊下は仰々しい程に広く美しい。

 埃一つないよく手入れの行き届いた場所であるにも関わらず、人の気配が感じられずに不気味な場所だった。


 静寂に包まれた薄暗い廊下に、足音が鳴り響く。

 足音を立てたのは勇者一行。

 

 彼等がここへ辿り着けたのは奇跡。

 まさしく、天運と呼べる程に、奇跡の連続によって辛うじて辿り着く事が出来た。


 彼等はその奇跡の数以上の犠牲を代償にここに立っている。

 もう恐れるものなど、何一つない。

 勇者一行は魔王がいるであろう最奥の扉を開いた。


 巨大な玉座。

 そこに在るのは恐ろしい姿をした魔王。

 禍々しく巨大な闇の衣を纏わせ、勇者一行が部屋へ入っているのを眺めていた。


 「あれが……魔王」


 そう口に出したのは勇者ユリアン。

 自らの命すら投げ出す覚悟を決めていた彼が、魔王を見て真っ先に抱いた感情は恐怖だった。


 屈強な戦士バルトスの鎧がカタカタと音を鳴らし、賢者ハーベルが震える様に息を吸い込んだ。

 僧侶メリル小さく神に祈りを告げた。


 魔王の持つ絶大な魔力は、目の前の空間を歪ませるほどであり、ただそこに在るだけで絶望的な力の差を勇者達は感じ取った。


 だが、勇者達は前に走り出すしかなかった。


 勇者達は同時に動き出し、問答無用で魔王に対し、戦闘を仕掛けた。

 勝利を確信している者など誰一人いない。

 ただ……仲間を信じた。


 ユリアンはこの戦いに不要な物を全て捨て去った。

 必要な物……それは、勇気と剣、そして仲間を信じる心。


 動き出した勇者達に向けて魔王の魔法が放たれる。

 あまりに強大な魔力を圧縮させて放った魔法。

 あたれば脆弱な人の体など塵一つ残らないだろう。

 

 しかし、ユリアンは躱さない。

 避ける動作一つで、魔王が次の一撃を放ってくると判断したから。

 

 必要な情報だけが入って来る。

 扉を開いた瞬間から聞こえていた賢者ルーベルの詠唱魔法。

 聞いた事の無い詠唱だが、ユリアンは幾度となく窮地を救ってくれた彼を信じた。

 

 それは魔王の魔法が届く直前になってようやく発動する。


 「――捧げるは、我が御霊なり!」


 最後の一文を理解出来たユリアンは頬を伝う一筋の雫を流した。

 ルーベルの魔法はユリアンとバルトスに力を与え、燃え盛る彗星の如きオーラを纏わせた。

 

 ユリアンと並走するバルトスが一歩先を行き、賢者ルーベルの魔法によって強化された肉体を盾に魔王の魔法を跳ね返す!

 

 跳ね返った魔法は魔王に向けて放たれ、魔王はそれを新たな魔法を使い、相殺した。

 バルトスの体は塵となり、「託した」の一言と共に霞のように散っていく。

 

 ユリアンは止まらない!

 魔王まであとほんの僅かな距離!

 100分の1秒もあれば辿り着ける!

 

 だが、その距離があまりに長く、魔王に取ってその時間は十分対処可能な時間であった。


 魔王は新たな魔法を解き放つ。

 無情にもそれは、勇者ユリアンを包み込み、体は消滅する。

 

 そのはずだった。

 

 次の瞬間、ユリアンの足は、地面を蹴っていた。

 崩壊した体が瞬時に再生し、死力を尽くし、魔王の体に刃を突き立てる。 

 ユリアンは確かな手応えを感じ取り、無我夢中で剣に込められた力を解放した!


 究極封印魔法アルティメットシール

 人族の叡智の集大成である究極の魔法剣。

 それに込められた魔法を発動させた。


 「勇者様……メリルはその雄姿、見届けました」


 勇者ユリアンが振り返ると、塵となっていく僧侶メリルの姿があった。


 「身代わりの魔法……」


 その言葉を口にした勇者ユリアンは息をするのを思い出し、貯め込んでいた息を吐き出した。


 「我を封じたか、勇者ユリアン……見事であった。

 そして、賢者ハーベル、戦士バルトス、僧侶メリル。

 お前達が我に勝利する事など万に一つもなかった。

 だが、奇跡を起こした。

 その奇跡に免じ、この戦争の負けを認め、我等は撤退しよう。

 勇者ユリアン。

 我はお前を見逃してやろう」

 「魔王、俺は再びお前の前に現れる。

 覚悟しておけ!

 お前の封印を解き、今度こそ必ず滅ぼしてやる!」


 「それは楽しみだ。

 しかし、100年だ。

 この封印を我は100年あれば解く事が出来る。

 お前がどれ程力を付けようと奇跡は二度も起こらん。

 我がこの封印を打ち破るその時まで、震える夜を過ごすがいい」


 全ての力を使い果たしたユリアンはその場で横たわった。

 限界を超え、立っている事すらできず、今更仲間の死を受け入れて、昂る感情のままに泣き叫んだ。


 「おいたわしや、魔王様」


 突如現れた気配にユリアンは警戒する。

 だが、立ち上がる事すらままならず、ただうずくまって見上げる事しか出来なかった。


 「お前は、魔王軍の……」

 「魔軍司令官のアンネだ」


 「どこから現れた?」

 「私は転移門の魔法を使えるからな、何処にでもいけるさ」


 「くそっ! これまでか……」

 「魔王様が撤退を命じられたのだ。

 貴様への攻撃も禁じられている。

 私は封印された魔王様を連れて撤退する為に来ただけだ」


 「後悔するぞ!」

 「死にたがり……いや、子供の様に虚勢を張っているだけか。

 今は貴様などに興味は無い。

 それじゃあ、さようなら」


 アンネは転移門を開き、真っ黒で濁った石に封じられた魔王と共に去って行った。


 静寂が訪れる。

 安堵したわけではない。

 だが、ユリアンは気が狂う程の疲労感に襲われ、癒える事の無い傷跡の痛みも忘れて安らかな眠りについた。


 それから数刻程時は流れ、時が止まっているのかと錯覚する程静かだった魔王城の廊下が騒がしくなる。

 威勢の良い戦士達の声が鳴り響き、その声の主によって最奥にある扉が開かれた。


 ユリアンが目覚めると、すでに多くの兵士達に囲まれている。

 そして、兵士達は割れんばかりの歓声を上げた!


 「よくぞやってくれましたユリアン殿!」

 「ベリス将軍……」


 横たわるユリアンを抱き上げ、声を掛けたのはグルターク帝国の将軍ベリス。

 見知った顔を見たユリアンは、顔を覆い、息を殺す様にむせび泣く。


 涙を浮かべた勇者ユリアンをは強く抱き締めた。

 

 「今は、勝鬨かちどきを上げる時ですぞ! めそめそしていると、勇敢に戦い、散って言った者達に笑われます。

 戦士バルトスも心配になって安らかに眠れないでしょう」


 ユリアンはベリスに連れられ、魔王城からグルターク帝国へと帰還した。


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