第25話 勝利?

 「アリスをここまで追い詰めるとは流石ね」

 「観念している顔には見えないな。 何を企んでいる?」


 「ノーア! アリスの事、凄いと思った?」

 「うん、凄いね。 まさか本当に、アリエッタが僕達を追い詰めるとは思わなかったよ」


 アリエッタは二人に対して、何処かおかしい事に気が付く。

 追い詰められている割には余裕があり、かと言って無事というわけでもない。

 そんな印象を受けた。


 「アリエッタ! 本気でいくわよ!」

 「望むところだ」


 アリスは宣言したとおり、これまで抑えていた魔力を惜しみなく解放し、高火力の魔法を次々にアリエッタに放った。

 魔力をここまで温存していたアリエッタは、アリスの放った魔法を魔法で迎撃しつつ、更に攻撃の手も加える。


 元々魔法の攻撃力ではアリエッタの方が強く、アリスはやられては奥の部屋から湧いて出て来てを繰り返していた。


 途轍もない魔法の応酬おうしゅうが繰り返される中、ユリアンの仲間達は、動ける者達で倒れている仲間達を避難させ、瓦礫に押しつぶされない様に防御魔法を張った。


 アンネとエステルが手分けして回復魔法を使い、全員がある程度回復する。

 ユリアンも立ち上がってアリエッタとアリスの様子を見て、そこでユリアンはノアがいつの間にか、いなくなっている事に気が付く。


 辺りを見回しても何処にもいない。

 他にノアの行方を知っている者がいるか聞いてみるが、知る者はいなかった。


 ユリアンは色々と考えようとするが、考えた所でも無駄だと思い、アリスが湧いて出て来る奥の部屋へと走る。

 その姿をアリスにも見られてはいたが、特に気にする様子もなく、アリエッタとの戦いに集中している。


 ユリアンが奥の部屋に行くと、魔法陣があり、中からアリスがピョンと飛び出して来たので、即座に斬り殺した。

 アリスを斬り殺すと、即座に次のアリスがピョンと魔法陣の中から出て来てユリアンに文句を言って来る。


 「んもぅ! アリエッタと戦ってるんだから邪魔しないでよね!」


 そう言ってアリスはアリエッタの方へ走って向かって行った……。

 ユリアンは奥の部屋を調べてみるが、このアリスが復活してくる魔法陣意外には何も見当たらない。


 どういう魔法なのかよく分からないまま、魔法陣を破壊するのはよくないと考え、ユリアンは大きな声でアリエッタに問いかけた。


 「アリエッタ! アリスが復活してくる魔法陣がある! 破壊した方がいいのか?」

 「破壊しても無駄だ。 アリスの魔力が尽きない限り、それはその部屋に現れ続ける」


 「じゃあ、復活して来るアリスを倒し続けるのはどうだ?」

 「それも無駄な事だ。 それだと殆ど魔力を消耗しない」


 ここでユリアンはアリスを倒すには、アリスの魔力を枯渇させなければならない事に気が付く。

 ユリアンは己の出る幕はもうないのだと悟り、皆の元へと戻り、二人の戦いを眺める。


 勝負はそう長くは続かなかった。

 アリスの魔力が尽き、身にまとっていた衣すらだせなくなり、湧いて出て来たアリスの体が小さくなって、小さなアリスにアリエッタが止めを刺すと、完全に出て来なくなった。


 アリエッタが「完全にアリスを滅ぼした」と宣言した事で、ユリアン達は勝利を確信して喜びの声をあげる。


 「本当に倒せたのか? また、どこかで湧いて出て来るんじゃないだろうな?」

 「もうアリスの魔力は感じられない。 だが、妙だな。 あいつが我と本気で戦ったにしては手応えが無い。 8000年前はもっと強かった」


 「ノアもいないし、もしかして逃げられたんじゃないか?」

 「我の張った結界からは逃れられんはずだが…… いや、やはりおかしいな」


 「今度はどうした?」

 「随分衰えたなと思っていたんだが、それにしてもノアが弱すぎる。 ノアが本気を出していれば、もう少し苦戦していただろう」


 「あいつそんなに強いのか……」

 「強いぞ。 アリスも本来の姿であればもっと強い」


 「本来の姿であれば?」

 「そうだ、アリスは8000年前に我とノアで本体を封じ込めた魔王だ。 それから3年程経った後、ノアが行方を眩ませ、あの姿のアリスが暗躍するようになった」


 「色々とよくわらねえが、今は勝ったんだし、それでいいんじゃないか?」

 「それもそうだな。 仮にアリスが復活したとしても、我との戦いで相当な魔力を使って弱体化している。 見つけしだい叩き潰せばいい」


 ユリアン達は、アリエッタと共に村へと戻った。

 そして、祝勝の乾杯をして、食事を取りながら、アリエッタから説明してなかった事をいくつか伝えられた。


 アリスは8000年前にいた魔王であり、種族は不明。

 本来の姿だった時は、もっと巨大な体を持ち、強大な魔力を持っていた為、神に近い存在であるのではないかと言う理由で、魔神と言う種族なのだと定義した。


 アリスはあの通りの性格なので、この世界にありとあらゆる物を手にするべく、世界を支配しようと企み、破壊の限りを尽くし、魔王と呼ばれる様になった。


 誰にも止められない程の力を持ったアリスに、アリエッタは人族の英雄ノアと共にアリスを倒す。

 二人がアリスを倒す事が出来たのは、当時のアリスがあまりに馬鹿だったので幾重にも罠を仕掛けて、ようやく倒せたと言う事だった。


 「そうなのか。 それじゃあ、その後、アリエッタとノアは結ばれたんだな?」

 「知らん。 あんな男の話しはしないで欲しい」


 「ああ…… それもそうだな。 それじゃあ、どうしてアリス側に着いている事も分から無さそうだな」

 「あれが何を考えているのかは分からんが、あの二人の目的は分かる」


 「アリスの本体を復活させる事だろ?」

 「その通りだ。 その為には我を倒す必要がある。 いきなり復活する事はない」


 「それなら安心だな。 ノアも封印に関わっているのか?」

 「ああ、あいつは自分でアリスに掛けた封印を解いたのだろう。 だからあの姿のアリスが現れた。 そして、あいつは人族の裏で暗躍し続け、我を倒せる程の勇者が現れるのを待っていたのだろう」


 「魔族と人族の戦争って、もしかして、その辺りが原因だったりしそうだな」

 「まぁ、人族は戦争が好きだからな。 どの道、人族と魔族は戦争をしていただろう」


 ユリアンは人族って野蛮だなと思いつつ、アリエッタの話しを聞いているうちに眠たくなってきたので、フラフラと立ち上がり「ちょっと寝て来る」と言って、家のベッドで横になった。



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