第37話 カインゴモスの長いお話し②

 「ユリアン君、この世のありとあらゆる生命は寝床や住処などを作り、求める習性を持っている。 正確に言えば全ての生物がそうというわけではないんだけど、食物連鎖の上位にいる生物程その傾向は強い。 頂点捕食者より上位の生物で住処を持っていない生物を吾輩は知らない。 どうしてそのようになっていると思う?」

 「どうしてって…… 寝床や住処をもっている理由だよな? やっぱり居心地がいいし安心するからじゃないか?」


 「そうだね。 居心地が良いから安心する。 安心できるから居心地がいいとも言えるね。 では、なぜ安心出来るのかな?」

 「雨とか風とか、寒さとかを凌げるし、暑い日差しからも身を守れる。 それに、自分より上の捕食者からも隠れる事が出来るし、寝込みを襲われない様にも出来るとかかな?」


 「うんうん、その通りだね。 でも、吾輩はそれだけじゃないと思っている。 生態系の中で一際強い生物がいるだろう?」

 「一際強い生物? ドラゴンの事かな?」


 「そう、ドラゴン。 ドラゴンはこの世界が始まって以来一度も討伐された事はない。 きっと道端で寝転がっていても誰もどうする事も出来ないだろう。 それでもドラゴンは住処を作っている。 それは何故かな?」

 「んー、話の流れからすると、ドラゴンは最強だから何処でも安心出来ると言うか、たぶん不安に感じる必要がないって事だよな? 実はドラゴンにも不安になる要素があるとか?」


 「その可能性は大いにあるけど、吾輩はそれを見つける事が出来なかった。 だからこう結論付けた。 神様の真似をして安心している、もしくは、その神様を見ない様にしている」

 「ちょっとどういう事か分からないな。 どうしてそうなるんだ?」


 「それじゃあ、なぜドラゴンは神様を見ないようにしているのかと言う事から話そうか。 ユリアン君がもし、神様をみたらどうなると思う?」

 「見た事がないからわからないけど、偉い人に会えたら嬉しいって思うかもしれないかな? ちょっと怖いけど」


 「うんうん、どうして怖いと思うのかな?」

 「俺は神様の事を何もしらないからな。 どう対処していいのかもわからないし」


 「未知への恐怖だね。 どんな生命でも未知に恐怖し、好奇心が恐怖を乗り越え、知識、またはそれに伴う力を得る。 神様に会って無事だったらきっと凄い知識を得られると思うよ」

 「それなら、神様を恐れる必要はない? いや、無事だったらって前提か」


 「その通り。 吾輩は、もし神様が目の前に現れたらどうなるのかと言う予測をいくつか立てている。 神様とは何か? 吾輩は情報量の塊だと思っているよ。 ありとあらゆる知識の集合体。 計算式だけでこの世界を作り出し、必要だからあらゆる物質を生み出した。 神様の求める計算は一つの世界だけでは不十分だ。 だから更なる次元を生み出し、無限の次元へと至る。 そんな神様を見たらきっとこの世界の生物達は耐えられないと思うよ。 具体的に言えば、一瞬で脳がパンクして膨大な情報量で爆発する。 吾輩はそう考えている」

 「どうしてそうなるのか、いまいち分からないけど、カインゴモスがそう言うのなら、俺なんかが考えるより、よっぽど正しいんだろうな。 神様を見て無事でいられるわけがないってのは、とりあえず分かったよ」


 「うん、それで大丈夫。 ドラゴンにも恐れるものがあるとすれば、それは神様だと言う事が伝わったね。 それじゃあ、ドラゴンが住処を作る理由、もう一つあったね」

 「ああ、神様の真似ってやつか」


 「ちゃんと覚えてくれていたね、偉いよ。 神様の真似。 それは神様が住処を必要としているのかは定かではないけど、住処を求めていると仮定できる証拠があるんだ。 それは何か分かるかな?」

 「証拠? 全然わからないけど、今までの話しにそのヒントがあるってわけだな。 なんだろうな…… そう言えば、“支配者” の話しが関係あるんじゃないか? 神様が一人じゃないのだとしたら…… あれ? やっぱり全然わからないな、教えてくれ」


 「おしかったね。 もう少しで、吾輩の伝えたい所まで行く事が出来たと思うよ。 それじゃあ、続きを吾輩からお話しよう。 ユリアン君は神様が一人じゃないならって仮定しようとしたね。 吾輩も神様は一人じゃない可能性を考えているけど、何しろ神様が情報量の塊だからね、複数在る一人と言う可能性もある。 まあ、それを話すとまた長くなるから、その話はまた今度するとして、“支配者” がなぜ生態系を破壊するような行動を起こすのかと言う事を考えようか」

 「ああ…… なんかそれ、俺が聞きたかった事だった気がするな。 “支配者” は滅んだ方が世界の為になると俺は思ってたけど、神様がそれを求めている?」


 「ユリアン君、偉いねー。 ちゃんと覚えていた。 まさにその通りだと吾輩は思う。 神様は“支配者” が生態系を破壊するように作り上げた。 それは何故なのかわかるかな?」

 「確か、神様の住処の話しをしていたと思うし、神様が“支配者” に住処を作らせる為に生態系の破壊を? 全然繋がらない気がするけど……」


 「それじゃあ、一度、神様が一人ではないと仮定して話を進めようか」

 「ああっ! それなら分かったぞ! 生態系を破壊した所が居心地の良い神様がいるんだろ? それなら“支配者” が生態系を破壊する理由にも繋がって来るし、滅びずに残っている意味もあるって事なんじゃないか?」


 「凄いじゃないかユリアン君。 吾輩の伝えたかった事の殆どを言い当てた。 補足として、実際に神様がそこを住処にしているのかと言う所だけど、神様の住処は何処にあると思う?」

 「そういえば、実際に神様が住んでいるわけじゃないな…… いや、もしかして、よくわからないけど、生態系が神様によって作られているんだったら…… 本能とか?」


 「いい答えだ。 吾輩の話した事はどれも真実ではないのかもしれない。 けど、考える事で閃きを得る。 吾輩はそれが正解だと思うよ」

 「なるほどな! ありがとうカインゴモス! 俺、何かつかめた気がするよ! これからはカインゴモスじゃなくて、先生って呼ばせてもらうからな!」


 「うんうん、そう思ってくれたなら、吾輩も嬉しいよ」

 「そう言えば、俺はここへ何をしに来たんだったか……」


 「吾輩に頼みたい事があって来たと言っていたね」

 「ああっ! ノアを救うのを手伝って貰いに来たんだった。 アンネもずっと外で待ってくれているし、先生! 俺に着いてきてくれるか?」


 「あの子が来ているのかい! それなら今の服装じゃ怒られるな…… すぐに支度するから少し待っててね」


 カインゴモスの慌てた態度にユリアンは少し驚きつつも、カインゴモスが広範囲に清潔にする魔法サニタリーブレッシングを使った事で、そう言えばこの家がものすごく臭かったのを思い出し、自分の鼻がいつの間にか激臭にも慣れていた事に気が付いて、その事に衝撃を受けたユリアンは、他の事が一瞬、頭から抜け落ちた。

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