第38話 救われる勇者
くすんだ緑色だと思っていた肌の色が、健康そうな褐色の肌になり、苔が生えていたみたいな頭頂部にも、ボリュームがなくなって黒い髪の毛が姿を現す。
そして、ほぼ全裸に見えた体は、実は服を着ていてボロボロの衣服が付着していた事にユリアンは気が付く。
カインゴモスは新しい服を着て、出発の準備は整ったのかユリアンに「行こうか」と一言、声を掛けた。
元々カインゴモスが不潔な人物だと認識していたユリアンは、カインゴモスが想像以上に不潔だった事を知り、少し気持ちが遠のいたが、先生は先生なのだと言い聞かせて、玄関の扉を開き、外に出た。
長話をして待たせてしまったアンネにユリアンが近づくと、アンネは即座に
当然の反応だろうとユリアンは納得して、長い間待たせた事をアンネに謝る。
アンネはそれを「気にしてない」と言い、視線をユリアンからカインゴモスの方へとやった。
カインゴモスは既に
その姿を見たカインゴモスは再び自らに
既に
しかし、アンネはユリアンに「何故連れて来た」と質問を投げかけられる。
「ええ? まあ、臭いのは分かるけど、もう臭わないと思うし、ノアを救う為には先生が必要なんだ」
「先生? まあ、知識があるのは認めるけど…… うん、先生の方がいいか」
アンネの様子にユリアンは少し違和感を覚えるが、同行を許してくれたと解釈できるので、気にしないでおく事にした。
「おい、ハゲ親父、ぶくぶく太りやがって、ちょっとは人様に向けられても失礼のない容姿くらいは保て、見てるだけで臭いんだよ。 くっさ! 視線を私に向けるな。 見られているだけで臭いんだよ。 ああ、ユリアン、吐き気がしてきた。 さっさとこのハゲ親父とノアと合わせて、肥溜めにでも落として消臭しよう」
ユリアンはあまりに暴言がすぎるアンネを見て、目を丸くして言葉を失う。
アンネの態度からカインゴモスを嫌っているのだとは思っていたユリアンだが、想定していたよりもずっと嫌っている様だった。
そもそもアンネは優しい性格をしていて、きつい言葉を投げかける事はあるが、人の悪口を言うような人物ではない。
アンネが最初にハゲ親父と罵った事、そして二人の髪と肌の色が同じだと言う事から、もしかしてこの二人は親子なのではないかと、ユリアンは考えた。
それに、先生の方がいいかとアンネが言ったのは、夫であるユリアンが大嫌いな父親であるカインゴモスへ向けてお父さんと呼ばれる事がきついと思ったのかもしれないとユリアンは考える。
もし本当に親子であったなら、相応の挨拶をする必要があると思ったユリアンだったが、今はアンネの機嫌も悪そうだし、一度二人で話し合う必要があるのだと思い、この場ではそれを気にしないで置く事にした。
アンネが転移門を出したので、カインゴモスと共に、村へと転移し、早速ノアの元を尋ねる事にする。
性奴隷宮殿の前で立ち止まり、カインゴモスはユリアンに告げる。
「ユリアン君、吾輩は説得に協力するけど、彼と深い関りがない吾輩では彼の心を動かせないだろう。 だから彼の心を動かすのは君だ。 いいかね?」
「ああ、分かっている。 俺もそれ程ノアと深い関係じゃないけど、同じ勇者と呼ばれた身だし、あいつの気持ちはなんとなく分かっているつもりだ。
あいつも憎くてこの世界を滅ぼしたいわけじゃないと思うし、先生がいればきっと説得できると思う!」
「説得? 何をするつもりかは分からないけど、サッといってスッと助けてあげればいいだけだと思うけど? まあ、彼の事は貴方達に任せる」
ユリアンはアンネの意図が読めなかったが、もしかしたら殺して救ってやれと言う意味だったのかもしれない。
そう思うと、ユリアンは少し悲しい気分になった。
ロザリンドがユリアン達を性奴隷宮殿の中へと招き入れ、ノアのいる部屋へと案内してくれた。
アンネは余程カインゴモスを嫌っているのか、外で待っていると言い、宮殿の中へは入って来なかった。
部屋の扉を開き、中へ入ると、ノアが「ユリアン!」と大きな声で呼びかけて来た。
そして、続いてカインゴモスも中へ入ると、ノアは後退りを初め「なんのつもりだ!」と大きな声で叫んだ。
ユリアンは考える。
多分ノアは、俺達が客だと思って演技に入っているのだと。
どういうコンセプトなのかは分からないが、そう言う事をしにきたわけではないので、ユリアンはノアに「今日はお前を救いに来たんだ」と声を掛ける。
ユリアンの目には、それを聞いてもノアは演じ続けているように映った。
体を震わせて、怯えていて、庇護欲をそそるような視線を向けて来る。
どうしたものかと、腕組みをして眺めていると、カインゴモスがノアの方へ近づく。
「来るな! 僕に何をするつもりだ! 頼むから、それ以上僕に近づかないでくれ……」
涙を流しながらそう訴えて来るノアに、カインゴモスは近くまでいき、優しく声色で話しかけていた。
「可哀想に、怯えなくてもいいよ。 ホラ、吾輩これ以上は近づかないから。 安心して」
「嘘だ! あの悪魔のように僕を…… 僕の体を! こんな化物まで連れて来て! どうするつもりなんだ……」
「何もしない。 大丈夫、怖がらなくていい。 ホラ、手の平を見せている。 安心出来たら勇気をだして触れてみて、きっと何もしないから」
カインゴモスは魔法を使い、ノアに掛けられている全ての拘束を解いた。
そして、ノアに手を差し伸べる。
長い時間、ずっとそれは続いた。
そして、観念したのか、ノアはゆっくりと、恐るおそる差し伸べられた手に振れると、カインゴモスはニコリと笑みを浮かべ、それをみたノアはビクッと肩を竦ませ、体を震わせたままカインゴモスをじっと見つめる。
そんなノアに向けてカインゴモスは口を開いた。
「吾輩はカインゴモス、君のお名前も聞かせてもらえるかな?」
「ノアだ……」
「そう、ノア君。 今日は君にユリアン君がお話したい事があって来たんだ。 吾輩はそれに協力しに来ただけ。 二人の事を応援しに来ただけだから、吾輩の事はあまり気にしないでね。 ユリアン君の話し、聞いてもらえるかな?」
「僕を救いに来たって言ってたね…… 拘束も解かれているし、もう救われてはいるんだろうけど……。
ユリアン、僕に話したい事があるのかい?」
もう救われていると言ったのは、拘束をとかれ、軟禁状態から解かれた事を意味するのだろうとユリアンは考え、本当の意味でまだ救われていないノアを救う為、ユリアンは彼に語り始めた。
話は長く、カインゴモスに捕捉として説明もして貰いながら、生態系の事などをユリアンはノアに話していく。
そして、この世界が不条理で理不尽である事を話し、それでも巡り巡って対等を築き上げているのだと説明する。
「えっと、なんでそんな話をしているのか分からない。 けど…… そうだね。
少し興味深い話しだ。 この世界は神様の手によって救われているのだとしたら、きっと僕は間違った事をしようとしているんだろうね」
「そうだよ。 お前は細かい事気にしないで、この世界で好きなように生きればいいんだ。 楽しい事とかいっぱいあっただろ?」
「楽しい事?」
何故かノアはユリアンを睨みつけた。
しかし、その後、ため息をつき「あれが楽しい事? まさかね」と呟き、続けてユリアンに言葉を伝える。
「この世界を滅ぼす事が、間違っていると言うのはなんとなく分ったよ。 でも、一人になった時に僕自身がどう考えるのかは分からない。 だからゆっくりと自分を見つめ直す事にするよ。 きっと本当は、もっと受け入れられる事だったのかもしれない。 色々な可能性があるんだよね、きっと。 ありがとう、ユリアン。 僕はアリスの所へ行って色々と考えるよ」
「可能性かー、いいんじゃないか? 色々考えると先生も褒めてくれるんだぜ! アンネに言えばきっと近くまでは送ってくれると思う。 お前を救うって話はアンネがしたんだ。 お礼くらいは言っておけよ」
「そう、彼女が僕を…… わかった。 僕の気持ちを彼女に伝えておくよ」
ノアと共に宮殿を出て、アンネが転移門を開き、ノアと共に去っていく姿をユリアん達は見送った。
そして、カインゴモスも自ら転移門で魔族の街へと帰って行った。
ユリアンはカインゴモスと別れる際に頭を下げて礼を言い、ユリアンはアンネが帰って来るのを待つ事にした。
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