第39話 仲違い

 しばらくしてアンネが一人で帰って来る。

 送り届けるだけだと言うのに、少し時間が掛かった事を少しユリアンは不安に思った。


 ノアを救ってくれと頼んだのもアンネだし、二人は仲がいいのだろうか?

 別れ際に二人は何か話したりしたのだろうか?

 そんな疑問が生まれ、ユリアンは少し苛立ちを覚え、そのままの気持ちでアンネに言葉を掛ける。


 「けっこう時間が経ったみたいだな」

 「ああ、アリスの本体を封じ込めた近くと聞いて、私は行ったことが無かったから少し手間取った。

 あの変態は無事に近くまで送り届けたから心配はない」


 「あの変態?」

 「ああ、すまない。 あいつはもう手遅れだった。 まあ、ユリアンのお陰で救われたみたいだし、これで夜、一人啜り泣く事もないだろう」


 「手遅れって…… なんの事だ?」

 「大丈夫だ。 ユリアンがそうなる事は無いし心配はいらない」


 ちょっと意味が分からない。

 ユリアンは頭を悩ませる。

 しかし、答えは見つからず、アンネを信用する。 

 それで全部解決するのだと言い聞かせ、深く考えるのを止めた。


 「そう言えば、あいつアリスの元へ戻って大丈夫なのか?」

 「正直に言うと危ないと思う。 心配なら様子を見に行く?」


 様子を見に……。

 アンネの言う危ないってのは、やっぱり考えを改めたノアがアリスにその事を話して、仲違いすると言う事だろう。

 それなら、やっぱり様子を見に行く方が良いとユリアンは考える。


 「そうだな。 様子を見に行こう。 一応アリスには和解すると言うか、考えを改めて貰いたいし、手土産を持って行った方がいいかもしれないな。

 ちょっとエルフの所へ行って来るからここで待っていてくれ」


 ユリアンはそう言ってアンネを置いて森の中へ入り、ミレーユのツリーハウスの扉を叩いた。

 すると、中からミレーユが出て来て、ユリアンを部屋へと招き入れた。

 部屋の中は以前見た時よりも小さな小物やぬいぐるみが増えていて、エステルもいる。


 「ミレーユ、いきなりで悪いんだが、小さな女の子にプレゼントを一つ持って行きたいんだ。 何か譲って貰えないか?」

 「ん? 小さな女の子にプレゼント? それじゃあ……」


 ミレーユは大きな熊のぬいぐるみをユリアンに手渡す。


 「主様、小さな女の子にプレゼントをお渡しになるの?」

 「そうだ、このぬいぐるみならきっと喜んでくれる。 そうやって聞いて来ると言う事はエステルからも何か喜んでくれそうな物をくれるのか?」


 「喜んでくれるかどうかは分かりませんが、小さな女の子であれば色々と心配もあるでしょうし、これなんかはどうでしょうか?」

 「これは…… お守り?」


 「そうです、セレスティアルエルフとなってから色々な力に目覚めたので、加護の効果は確かなものです」

 「ありがとう! それじゃあ、これ持って会いに行って来るよ」


 「はい、お気をつけて」


 エステルとミレーユは手を振ってユリアンを送り出した。

 そして、村に戻ったユリアンはアンネと共に、ノアを送った場所まで行く。


 「断崖絶壁だな…… 俺、ぬいぐるみ持ってるんだけど大丈夫か?」

 「ノアはあっちの方へ向かった。 隠れ家がバレるとまずいしフェイクかもしれないけど」


 「んー、あいつそう言う所ありそうだし、俺の勘で逆方向を探した方がいいと思う。 崖下へ転移する事は出来るか?」

 「ええ、お安い御用よ」


 アンネの転移門で崖下へ行き、しらみつぶしで探っていくと、大きな岩陰に隠れた洞窟を発見する。

 ユリアンは案外近くにあったのでハズレかとも考えたが、そう簡単に居場所を明かす事もないだろうと言う事で、ここに入ってハズレなら引き返すかと言った思いで、中へと入って行く。


 洞窟の中は広いが一本道なので、迷う事なく二人は奥へと進む。

 しばらくすると人工的に作られた階段があったので、ここが二人の隠れ家の可能性は高いと判断したユリアンは階段を下り、どんどん奥へと突き進む。


 すると、更に奥の方から声が聞こえて来た。

 その声は洞窟内で反響して、何かを言ってるのかまでは分からなかったが、雰囲気的に何かを言い争っているのだとユリアンは感じた。


 そして、突如としてアリスが「ピャーーー!」っと甲高い声で叫んだのを聞き、急いで二人は洞窟の奥へと向かう。


 洞窟の奥に入り口は無く、広い空間に出ると、そこにいくつもの部屋があるのが分かった。

 しかし、ユリアンはこの広い場所の一点を見つめ、悲壮感に駆られて一言呟いた。


 「し……しんでる……」


 ユリアンの目の当たりにした光景は、血塗れになって倒れているノアの姿と、血に濡れた岩をそっと放り投げたアリスの姿だった。

 ユリアンは二人の様子から、互いの思想が衝突し、それが悲劇を招いたのだと想像する。


 アリスの顔色は悪く、明らかに衝動的にやってしまったと言う顔をして、その後悔からか、大きな声で「うわーん」と泣き叫び「どうして避けなかったのよ!」と泣きじゃくり始めた。


 ユリアンはこうなる事は予測出来たはずだと、自分をさげすみ、声を掛けるのを戸惑っていると、アンネがアリスの元へと近づき、彼女を抱き上げた。


 アリスは抱き上げられた事に驚いたが、急に表情が明るくなり「抱っこしてくれるの? あなたは誰?」とアンネに問いかける。

 その問いに、アンネも「魔軍司令官のアンネ」と名乗り出ると、ユリアンはそう言えばそんな肩書があった事を思い出し、アリスは「抱っこしてくれるアンネ大好き!」と言ってアンネに抱き着いた。


 ユリアンは我に返り、アリスに問いかける。


 「気持ちは分かるんだけどな、やっぱり聞いておかなきゃならねえって思うから聞く。 アリス、なんでノアを殺したんだ?」

 「アリス悪くないもん! ノアが悪いんだよ! アリス怖かっただけだもん!」

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