第2話 またループして

目が覚める。


「おはようございます、お嬢様」


侍女、アンナの声で意識がはっきりとする。

ああ、また戻ってきたのだと、私は即座に理解する。


何度目だろう、この朝に戻ってくるのは。

もう疲れて、数えるのも諦めてしまった。


毎回婚約破棄されて、殺されて、気づけば婚約破棄の半年前に戻っているのだ。


「おはようございます、お父様、お母様、お兄様」

「おはよう、レティシア」


既に家族は食卓に揃っており、皆にこにこと笑っている。


「おはよう、よく眠れたかい?」


優しい父の声は嘘だと知っている。


「あら、今日の髪型似合ってるわ」


母の褒め言葉も。


「今日もレティシアは可愛いな」


兄の言葉も、全部嘘だ。


あの時は、あんなに残酷に見放したというのに。

私は常に都合のいい道具でしかないのだ。


「今日は皇太子殿下がいらっしゃるそうだよ」


殿下は婚約者であるから、月に一度、侯爵邸を訪れる。


「ようこそお越しくださいました、殿下」

「ああ」


相変わらずそっけない。


どうしてあなたは、いつもそんなに冷たいの…?


「殿下?」


いつの間にかじっと見つめられていた。

昔なら、それにときめくだろうが、今はそこまで馬鹿じゃない。


「ああ、いや。なんでもありません」


そもそも、幼い頃からの婚約だと言うのに、どうして未だ敬語なのか。

私に心を許すのが、そんなに嫌なの?


侯爵邸では、特に話すこともなく、そこでお開きになった。



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