第38話 無力

「ああ」


パトリシア嬢は、何かが分かったかのように、声を上げた。


「悪魔がついております。悪魔は、特に若く美しい女性を好みますが…」


彼女の説明をまとめると、

逆に今までレティシアに憑かなかったのが不思議で、恐らく罪人がつけさせられる「魔封じの腕輪リング」によるものが大きいという。


魔封じの腕輪は、一定の加護が受けられなくなる。

その影響で弱った隙に、悪魔が取り憑いたのだと…。


「レティシア」


呼んでも反応しないのは分かっている。けれど、呼ばずにはいられないのだ。


「助かる見込みは?」

「…」


パトリシア嬢は首を横に振る。


ーー嘘だ。


信じられないーーなぜならば、それだとレティシアは「死」を迎えることにーー。


「強力な悪魔です…よほどレティシア嬢より気に入る女性が現れないと…」


すぐに、「婚約を破棄して欲しい」と告げた自分を悔いる。


もう彼女に話は通じないーーだからこそ、あの時を思い出すのだ。


「婚約破棄させていただきます」

「…かしこまりました」


「殿下は、私を連れて帰って、何をするおつもりで?」


あの時の、礼。

あの時の、顔。


私が思い出すのは、いつも彼女を傷つけた記憶ばかりでーー。


私は、何度傷つけただろうか。


そして、今回もーー。


「私は、何をしているのだろうな」

「え?」


パトリシア嬢が聞き返してくる。


無力な自分を恥じることしかできない私もまた、無力だ。





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