第5話 レティシアの過去

私は、人形令嬢と呼ばれるときがあった。


何度目の時だっただろう、侯爵令嬢ルビィ嬢は私を呼び出した。


「…ねぇ、なんとか言ったらどう?」

「なんのことでしょう?」

「ふざけないで!私の方が可愛いし、男性に好かれるし、家だってお金持ちよ!なのに、なんであんたが殿下の婚約者なのよ!?」


それはそうだ。

イライザ帝国建国時に、大きく貢献したとされる「エリオット侯爵家」、つまり私の実家。


貢献しただけで殿下の婚約者なのは、他の令嬢には嫉妬を受けても何も言えないので、じっと黙っていた。


それがかえって火に油を注いだ。


「馬鹿にしてるの!?」


ルビィ嬢は、ばちん、と扇子で私の頬をぶった。


貴族令嬢に傷をつけるなんて、と人だかりができる。


その時、誰かが言ったのだ。


「私、幼い頃に、お人形に傷をつけてしまったことがございますの」


私は無表情で有名だった。もちろん、淑女はそうあるべきだと教えられてきたから。


しかし、それが人形=無表情という概念と結びついたことで、私は人形令嬢と呼ばれるようになった。


殿下は、別に何も言わなかった。

訴えても、何もしない。

この人は、私のことなど興味が無いのだと、改めて思い知った。


私が、もう彼を頼らないと決めたのは、その時だった。

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