第三章 再び夜会で

第21話 死はいつも

◆◆◆

黒いローブの男は、毎回夜に現れた。

ーーそれも、婚約破棄を告げた日の。


そして持ち物も同じ。


月の光に反射して、美しく銀色に輝く剣と、瓶に入れられたーー誰かの血。


「…それは、誰の血だ」

「ああ、これか?レティシア・ティアナ・エリオット嬢のだ」

「…!彼女を殺したのか?」

「ああ」


なぜ。

私はともかく、レティシアを殺す理由などないのでは…?


「お前に機会チャンスを与えるために」


恐ろしく冷たいその目は、私を睨み、見下ろしていた。


「可哀想に、お前に裏切られなどしなければ」

「裏切るなど、人聞きの悪い」

「ほう?」


裏切ったんじゃない。レティシアは私を愛してなどいないから、それに応えただけだ。

ーーなんて、都合のいい言い訳だが。


「だから死ぬ時は、さぞ悔しかっただろう」

「…死ぬ時は、お前の名前を呼んでいた」

「は…?」


そんなわけがないと、自嘲する。

とうとう、耳までおかしくなったのか、私は。


彼は瓶の蓋を開け、剣に流した。意外に、さらさらしていた。


「リベンジ、できるといいな」


いつの間にか、刺されていた。

歯向かう隙も与えずに。


流れていたのはーー私の血と、愛する人の血。

走馬灯のように、幾度も記憶に流れ込んできた、私の愛するレティシア。


無表情でも愛おしく思われた時だって、何度もあったのに。


「…守りたかった」


涙が流れる。

やがて、血と混ざってぐちゃぐちゃになる。


それでいつもは人生を終えていたのだが。


「仕方ない、お前は選択を間違えた」


最後ーー前回のループの時だけ、彼の言葉まで聞き取れた。


やけに大きく聞こえたそれは、私に衝撃を与えたのだった。






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