第43話 提案

〈魔王よ。この皇帝に憑くことはできるか?〉


魔王とて、「悪」だが神であり、精霊。流石に馬鹿にされたことに苛立ったのだろう、彼は頷いた。


【簡単さ】


すんなりと皇帝に入る。


〈素晴らしい、流石だ〉


女神リディアは褒め称える。


〈愛し子にこんなことをした罰よ〉


女神リディアは私の膝元で倒れているレティシアの頭を、そっと撫でた。



「おい、聞いたか?」


女神リディアが「愛し子」と言ったのを、民衆はきちんと聞き取っていた。

そして、瞬く間に噂は広がる。


「イライザは安心だ」


そう言って。


しかし、今のレティシアは残念なことに、気を失っている。

女神リディアと魔王を呼ぶのに体力を消耗したのだろう。


「レティシア」

「…殿下?なぜ」


ああ、そうだ。

彼女は多分、取り憑かれている間は記憶がなかったのだろう。つまり、彼女が覚えているのは私が婚約破棄を突きつけたところでーー。


「すまない。婚約破棄の件はなかったことにしてくれないか」


私はそう言って頭を下げる。


「ダメですわ」

「…え」


まさか、そんなに怒って…


「皇族は軽々と頭を下げてはいけませんわ。それに、婚約破棄は書類上行われたものではないのですから。心配はしなくて大丈夫ですわ」


彼女は昔ではありえないーー笑顔を見せた。

ああ、よかった。

今までのレティシアに戻ったことが、これほど嬉しかったことはない。


そして、貴族からの反響ーー以上に、民衆からの反響も大きい皇帝。

父は、皇帝の座から引きずり下ろされるだろう。

しかし、名分がない。


そう、これが、私が抗えなかった理由ーー父を、失脚させられなかった原因なのだ。





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