第10話 黒髪から銀髪へ

私は、月に一度、髪を染め直す。

長続きしないが、これで精一杯なのだ。


しかし、不運なことに、殿下が滞在する日と被ってしまった。


夜、こっそりと抜け、ラドンの森の奥深く、泉のほとりまで来る。


けれど、私の運命は変わらないのかもしれない。


◇◇◇

夜道を散歩する中で、私は見つけてしまう。


「ジューク、あの娘は…」

「ああ、今日の服店の」


そうだ、だが、何をしに行くのだろう…?


「で、殿下!?」


ストーカーも同然だが、ついて行ってしまった。

自分でもこの行動は不可解だ。


今日の昼、どうしても気になることがあった。


あまりにも綺麗なその一礼は、そこらの平民がたった数日で取得できるものではない。

不自然なほどに美しいそれは、私の脳裏に焼き付く彼女ーーレティシアを見ているような気分で。


「かしこまりました」


そう言って一礼し去っていく彼女。


まるで同じーー。


彼女は、泉まで来ると持ち物を置いて、髪をとかし始めた。

その後すぐ、髪を洗い始める。


途端に黒髪から銀髪に。


間違いない。あれは、レティシアだ。


動揺してがた、と音を立ててしまった。


「どなたかいらっしゃるの?」


仕方なく、彼女の前へ出ることにした。


私の姿を見たレティシアは、悔しそうに、顔を歪めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る