第8話 毎回の悲劇は夜会から

毎回、婚約破棄をしてきた。


彼女を守るために、「愛せない」などと理由をつけて。

彼女は泣くわけでも、怒るわけでもなく、ただ唇を噛み締めて「かしこまりました」と言って去っていくのだ。


あれは、1粒の涙を流しても、何も咎められることなどなかっただろうに。


そして今回も、またその夜会はやってきた。


◆◆◆

隣には、誰も連れない。

私は1人で入場する。


レティシアは体調不良、ということになっている。


「殿下ぁ」


ルビィ嬢がよってきた。


「今日はあの方、いないのですねっ!」


こうやって男性に媚びを売ってくる。

私が無視したままだと


「何か言ってくださいよぉ」


と頬を膨らませて怒っている…つもりなのだろう。可愛いと思ってるのだろうが、これに落ちるのは愚かな男だけだ。


いつもはここで、婚約破棄していた。


罪悪感はやはりある。それで寝付けないでいると、いつもーー。


「ジューク、私は外へ行く」


庭に出て、いつも通る道を辿る。


常に無表情のレティシア。淑女はそうあるべきだと思っているのだろう、だが婚約者である私の前では表情を見せて欲しい。


けれど、未だ敬語を使う私が面と向かって言えることでもない。


向こうは「殿下」呼びだし、私も去年までは「レティシア嬢」と呼んでいた、と記憶している。


縮まらない距離は、そうやって、婚約破棄をもたらしたのだ。



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