第12話 ぶつかる二人

彼は口をつぐんだ。

当たっていたらしい。


唐突に怒りが込み上げる。


「それは…つまり、それほど私のことが嫌いだったということですか!?」

「断じて違う!」


一瞬で拒否された。


拒否する理由が分からない。あなたは私に深い拒絶を示した。それが、婚約破棄の証拠だ。


そうでなければ、なぜ、あなたは私との婚約を破棄し、新しい令嬢を隣に並ばせて。


私がどれだけ傷ついたか。


「ああ、そうでしたわ」


思い出した。

あなたは、毎回言っていたわね。


「「愛せない」からでしたっけ」


「私はあなたを愛せない」と。幾度も幾度も言われて、流石の私も傷つかなかった訳じゃない。

本当は泣きたくて、止めたくて、でもそれは叶わなかった。


「っ…それ、は」

「殿下は、知らないでしょう!?」


私がどれだけ愛してきたか。

どれだけ傷ついて、でも愛すことをやめなかった。


「違う、そういうんじゃ、」

「ならば、なぜ、私以外の数多の令嬢には優しく微笑むんですの!」

「っ…!」


誰よりも、あなたを愛してきた。

けれど、それはあなたに届くことはなかったのだ、一度も。


「ミレーゼ伯爵令嬢、ファニィ侯爵令嬢…他の方には愛を囁くくせに…!」


どちらも過去に、殿下の隣に並ぶのを許された方々。

恨むとすれば、彼女たちではない、殿下だ。


「それは、そう、だが…!」


ああ、もういや。

それでも私は彼に恋するのだ。


「殿下」


私は敬語が外れるほど混乱する殿下を止めた。


「私を連れ帰ったとして、何をなさるおつもりで?」

「え…」


あなたはきっと、何をしても私の心に傷をつける。

帰って傷つくなど、もう耐えられない。


ならば、一思いにーー。



私は最後に、涙でぐちゃぐちゃになった顔で精一杯に笑って、

自ら足を地から離す。


私の後ろには、泉があるでしょうから。

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