第13話 目が覚めて

あたたかい。

水の中にいるのが嘘のように、私は包まれている。


もしかしたら、殿下が助けてくれているのかもしれない。


ーーそんなはずはない。都合のいい、妄想だ。


◇◇◇

「殿下!お待ちください、私がーー」


ジュークの声を無視して私はすぐ飛び込んだ。


全てを諦めたように、でも私への怒りと悲しみを込めたあの微笑みを、私は一生忘れることは無いだろう。



「殿下、そろそろお休みになっては…」


ジュークがレティシアの部屋に呼びに来る。


けれど、私は横たわるレティシアの手を離さない。

レティシアの考えーー死ぬ、のは賛成できない。


私はまだやり直したいのかと、我ながら呆れる。


「でん、か…?」

「レティシア」


レティシアの目が覚める。


「ありがとうございます、ですが…」


そこに、微笑みも悲しみもなにもなかった。

なぜ助けたのかと問いもしなければ責めもしない。

無表情のレティシアに戻ったのだ。


「私はこれで失礼します」


自分も自分だ。


大丈夫かと問いもしない。

責めたことを謝りもしない。

最悪だ。


でも、1度表情を柔らかく見せたレティシアがもう一度無表情に戻った理由は?


私には、分からない。


「へぇ、分からないの?」


声がした。

知っている、この声を…。


そこには、私を、レティシアを殺したーー正体の分からない、黒いローブの男がいた。




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