第35話 反逆罪

「待って、違うんです!話を聞いてーー」

「残念だ、レティシア嬢」


皇帝の目は、冷たく私を見下ろしている。


私は、無表情とは遠い、焦りの顔で必死に縋る。


「せ、精霊女王はーー」

「女神リディアだと?笑わせるな。神への冒涜罪だ」


ああ、もう無理だ。

うっかり口を滑らせてしまったせいでーー。



ことの始まりは数時間前。


月に一度、行われる皇族の会議ーー皇帝、皇后、皇太子、婚約者の私で構成される話し合いで、女神リディアに救いを求めようという話になってしまった。


精霊女王は遣わしてくれるだろうか。


そういう疑問点から、話が進んでいったのだけれど…。


「お待ち下さい。精霊女王に備えものを?」

「ああ」

「女神リディアには?」


ーー要らぬだろう。


陛下はそう答えた。


それはつまり、対応の差ーー精霊女王と女神リディアがイコールである以上、それはバレてしまい、人間への不信感を抱きかねない。


かえって怒りを買うかもしれない。


しかし、その時の説得法でーーうっかり言ってしまったのだ。


「精霊女王と女神リディアは同一人物だからです」


たちまち捕えられ、今に至る。


「ア、アルフォンス様…」


違うんです。

そう言おうとして、彼の冷たい目に体を震わせる。


「やはり、間違いだったか…」


ああ、失望させてしまった。

これはつまり。


「反逆罪だ」


国にはいくつか宗教団体がある。国が正しいとしているのは精霊女王が女神リディアを派遣した、という考え方だが、宗教団体には事実と同じ、精霊女王と女神リディアは同じとするもの、女神リディアは存在しない、と考えるものも多くある。


そして、これらは反逆罪だ。


「5番牢へ」


私は、投げ込まれた。


「未来の皇太子妃様が、堕ちたものだな」


そう言ってーー。



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