【#10】イベントクエスト

 有難いことに登録者、視聴者が増えた影響で他にも増えていたものがある。


 何もない目の前を人差し指と中指の二本で二度タップすると展開されるメニューウィンドウを開く。


『アイテム』

『装備』

『スキル』

『ステータス』

『クエスト』5

『コミュニティ』99+

『マップ』

『配信機能』

『オプション』


『ログアウト』


 メニューバーの右についた数字、そして増えたというのがコミュニティ。

 これは『フレンド』『チャット』『メール』を管理するメニューなのだが、99+と表示されている通り三種類含めてカンストしているようだ。


 コミュニティは一度も触れていないし、もちろん設定すら行っていない状態で放置してあった。

 なので、俺に対してフレンド申請やチャットを飛ばし放題という状況。


 まずはコミュニティこれを軽く整理してからだな。


 コミュニティバーをタップし、コミュニティウィンドウを開かれる。

 コミュニティはプライバシー保護のため配信には載らない。


『フレンド』

『パーティー』

『フレンド申請』

『フレンド承認』99

『チャット』99+

『メール』99+


 ……やめておこう。

 数分程度で終わることかと思っていたが、どうやらそんな上手くはいかないらしい。


 これは配信でやるべきことではないな。


 メニューウィンドウをそっと閉じ、昨日に引き続きGHO2このゲームを進めていく。



 ◇◇◇



 俺は今一輪の花を求め、疾風狼スピードウルフに乗り砂漠を駆け回っている。

 何故こうなっているのかというと、それは砂漠の街サウザに伝わる伝承を読んだ影響に他ならない。


 それはサウザであるものを探していた時に遡る――。




 一見何の変哲もない正方形に立っている全面砂漠色の石碑。

 俺も現実であったとすれば景色の一部として捉え、そのまま通り過ぎていただろう。


 しかし、ここはゲームの世界だ。

 どんな些細なことでもクエストを引くトリガーになる可能性がある。


 そして、俺はこの石碑に目を付けた。


 一度遠目で観察してみたが、プレイヤー、NPCすら見向きもしなかった。


 だが、たった一人おじいさんのNPCが石碑に手を合わせる。

 その瞬間、組んでいた腕を解き急いでその人の元へ駆け寄った。


「すみません、この石碑には何かあるのでしょうか?」


「あ、ああ。 君のような青年がこの石碑に興味があるのかね?」


「ええ。 ぜひ、お話をお伺いしたいです」



 聞いた話によると、サウザには昔、守り神がいて街をあるモンスターから守っていたらしい。

 その後、守り神の手によってモンスターは封印された。


 しかし、守り神はモンスターと共に姿を消したのであったと。


 興味深いと感心しているうちに、俺は石碑へと目をやる。


『この地を守り抜いた彼に永遠の安寧を

 私たちは敬意を表しこの花を贈ろう

 この花が咲く限りこの地は彼に守られるであろう』


 うーん、この文だと守り神さんは役目が終えてもまだ守れと言われているみたいだ。

 これでは――と考えるが、俺に守り神さんの気持ちは分からない。


 何も発生しなかったのは残念だが、守り神さんがいたという事実を知れてよかったかもしれない。

 それだけで、サウザこの街に対する気持ちは変わった。


「しかし、砂漠を守り抜いた英雄とは会ってみたかったな」


 その時、何故そう呟いたのかは俺自身理解出来なかったが、あえて理由をつけるとしたら――長年GHOを続けてきた勘とでもいうのだろうか。


 その不確実性の高い勘とやらが本当にあるのか――だが、これは無いと言い切れるものではないかもしれない。


『砂漠の守り神に会いたいですか? YES/NO』


『YES』




 とまあこんな感じで当てもなく砂漠を駆け回っているわけだが、本当に何もない。

 花どころか草すらないぞ。


 これは所謂イベントクエストだ。

 イベクエ自体は多々あるが、今回のような隠しは少なく、街に一つが基本。

 そして、そのだいたいが今の俺みたいな感じで当てもなく彷徨うことになる。


 ……二日目にしてこれは非常にまずい。

 一度保留しておくことも出来るが、それはプライドが許さないだろう。

 例え、他のモンスターを狩っていても頭の中にはいつも過ってしまうことが容易に想像可能だ。


〇 隠しイベクエだと……

〇 マジで何もないな

〇 考えるんだ! 俺も!

〇 攻略速度どうなってるんだ

〇 初見です

〇 初見です

〇 チャンネル登録しました

〇 私も砂漠駆け回ります

〇 サウザへ急げ!

〇 守り神さんどこ

〇 初見です

〇 狼たんお疲れだよお


 幸い視聴者はまだ見飽きていないが、このままだと減っていってしまうだろう。

 薄々感じていたが、このイベクエは俺には無理な部類だ。


 モンスターと戦って進んでいく系では明らかにないから。


 こうなったら形振り構ってられるか! ここで俺は使ってしまうのか――。


 メニューウィンドウからコミュニティバーをタップし、さらにメールバーをタップ。


『ノータ様へ


  初めまして、レットと申します。突然のメール失礼します。

  ノータ様にどうしても手伝って頂きたい案件がございまして……。

  その案件というものなのですが、私見つけてしまったのです。

  隠しイベクエを。

  お手数ですが、私の配信をご覧頂けたら真偽が分かります。

  どうかご検討のほど宜しくお願い致します。


                                レットより』


 しっかりと書けているだろうか。しかし、俺にこれ以上の文章力はない! 送信!




 数分後、返信がきた。


『レットへ


  いいよ、今行く。

  サウザで合流する。


      ノータより』


 よ、よし‼︎ レットとしては初めましてだったが、どうやら来てもらえるみたいだ。


 これでイベントクエストの第一段階はクリアしたと言っても過言ではないだろう。

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