【#22】恨みと怒り

「壊すぞ」


「ああ、頼む」


 現在俺は、サタンが発見した狐の石が祀られている祠の前に見つけた本人と共に立っている。


 前回ヤマタノオロチを討伐し、入手した称号【祠主】、このままでは使用できませんと表示されていたことから他の祠主を倒していけばきっと何かあるはずだ。

 神様には悪いが、一プレイヤーとしてこの先が気にならないわけがないだろう。


『魔王の剛腕』


 サタンが発動したスキル『魔王の剛腕』。

 それは宙に浮かぶ樹脂状結晶の形をした鏡、『魔王の手鏡サタンミラー』の表面に黒い魔法陣が展開され、そこから召喚される赤黒く筋肉質な大きな腕。


 手のひらを見せるその腕は目の前にある木造りの祠を掴み、まるで折り紙をくしゃくしゃにするかのように握り潰す。


 手を開くと、つい先程までそこに立っていた物は棒状になり、右へ倒れていく様は次の道を指し示すおまじないを連想させた。



 そして、棒が向く方向十メートルほど先に大きな光が出現し、頭の先からゆっくりと生物の姿が露わになっていく。



「サタン、いけるか?」


「無論だ」


 全身金色の綺麗な毛並み、頭からお尻辺りまでは一見大きくなった狐と変わりないが、お尻から先にはゆらゆらと揺れる九本の尾。


 体長4、5メートルはあるかという金色の狐はその鋭い目つきで此方をにらみつけている。


 犬と同じ座り方をしていても、神々しいためかそれはまるで玉座に鎮座する女王。


『"第二の祠主"キュウビノキツネ LV.640』


 ヤマタノオロチ同様、伝説級の妖だ。


 まずは様子見、『砂刃』で片が付くならそれでいい。


「サタン、お互い好きにやるぞ」


「うむ、我のこと良く分かっておるな。 まあ、我は魔王だからな! 知らないという方が無理である!」


 腰を落とし右足を一歩踏み込み前屈みになる。

 右手で左に携えた刀を握り、左手で鞘を抑え抜刀、いつも通りの初動だ。


『抜刀"砂刃"』


 刀を振り抜く動作とともに砂の刃をタイミング良く発生させることで普段より威力が増す。



 その狐月状の刃は鎮座する者を鼻先に触れようかとする寸前だった。


 どっしりと構える女王の前でそれは突然霧散する。



 なんだと!? スキルは完璧だったはず……であればキュウビノキツネがしたのか。


 少し思考を巡らせるが、初見のためだろう、頭の中に浮かんできたものは全て"似ていること"に過ぎなかった。


 だが、その悩みはすぐに隣の魔王様が解答を導き出すことになる。


「妖の使う術、文字通り『妖術』であろうな」


 ぽかんと一瞬思考が途切れた表情を見せた影響かそのまま解答の理由を説明してくれた。


ノブナガこの地で狩った妖が使ってきたのを覚えておるだけだが」


「いや、助かった」


 そうか、妖術は念力に近いものなのだろうか。


 ならば、操れないようなもっと強い力で攻撃すればいい。


「カバー頼んでもいいか」


「我を誰だと思っておる、そのつもりだ」


 やはり戦闘になると心強いな。

 俺は両手で刀を握り、右肩に担ぐよう振りかぶる。


 そして、未だその場から一歩も動かない金色の狐の元に走って近付いていく。


 何が起こるか分からない、警戒を怠るな。


 いつもよりそう自分に言い聞かせ、狐の左横腹辺りまで着くと、両手に力を込め刀を右上から左下へと振り下ろす。


『砂漠斬』


 その威力はただ斬っただけではサラサラと傷を癒してしまう砂漠に大きな傷跡を残すほどの斬撃だ。


 大振りなそれを察してか、女王はついに動き出す。


 ゆらりと体を後ろへ動かそうとする様はまさに妖艶ようえん

 その姿に何人もの男たちが心を奪われたことだろう。


 だが、目の前に一人ともう一人心を動かさなかった男がいた。


 男を惑わす狐の頭上に突如現れた六角形の鏡、そこに写るは美しき自分、ではなく巨大な男の拳。


 その拳は手を広げ、腕を伸ばして麗しき女性を下品にも上から掴み掛かり、無理矢理にと地面に押し付けひざまずかせる。


 押さえつけられた狐へ騙されてきた男の恨みと言わんばかりの無慈悲な斬撃が直撃した。


 しかし、全てを失った男の怒りはそこでは収まらない。


 振り下ろされた刀は横腹を狙い既に左上から右下へと再び振り下ろされる。


 避けようとはするが、下品な男のせいで動こうにも動けない。


『砂漠斬』


 砂漠を穿つほどのそれは恨みを晴らすには十分すぎた。



 キュウビノキツネの頭上に表示されている緑のバーは黄になり、残り体力四割といったところか。


 ここで忘れてはならないことが一つ、復讐は連鎖する。



「ガアアアアア!!」


 その妖は男の行動に怒り狂い、妖術を暴走させた。


 狐のように「コン」と鳴くような表情はそこには既に存在しない。


 暴走した妖術は周りを巻き込むほど、二人の男は咄嗟に後ろへと距離を取らざるを得ない。

 巻き込まれた木々や石は意思を持ったかのようにその場で浮遊する。



 どうやらキュウビノキツネの第二形態は怒り狂い暴走した姿らしい。

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