【#23】魔王様

 現在、第二形態へと変貌を遂げた『"第二の祠主"キュウビノキツネ』を前に動けないでいた。


 目には見えない"何か"をひしひしと感じ、無策で戦うのは危ないとの判断だ。


 そして、一見無害そうに周りを浮かぶ木々や石はその中心に佇む金色の狐に近付くと、背後を取られるように配置されている。


 もちろん対処のしようはあるだろうが、ここで神経を擦り減らすとこの後に影響が出てしまう。


 少なくともキュウビノキツネここで終わりというわけではないはずだ。


 しかし、その問題は隣に立つ子供によって全て解決されることになる。


「我とレットで猛襲したら、それを耐えられるモンスターなどそうそうおらぬであろうな」


 突如自信満々と口にしたその言葉は彼の表情を見ればあながち間違いではないらしい。


「ああ、そうだな。 サタン、その目は……」


 目が合った小さき魔王は右手の人差し指と中指でVサインを作り、指の腹を眉の高さに合わせ間から右目を覗かせる。


 つい先程まで赤く染まっていた瞳は、蒼く光る瞳へと変化していた。


 一見、厨二病とも取れるような仕草はある力を使うためだったのだな。


「ああ、これか? 気付いているとは思うが、【未来眼】だ」


 【未来眼】、サタンの持つ称号の名だ。


「【未来眼】はモンスターが次に行う動きを完璧に予測する瞳だ。 その代償として、予測する度に回復不可が付き、最大体力の二割が削られる。 あと、意思を持つ相手と戦う対人戦PvPでは何の役にも立たぬな」


 回復不可はその戦闘が終わるまで回復効果を受け付けないデバフだ。

 【未来眼】は体力二割が削られるので、最大四回まで使用出来るということだな。


 もちろん、被弾すれば使える回数が減るし、命を賭すことをいとわないのであれば最大五回使える。


 それでも、モンスターの次のモーションが分かるという破格の性能だ。


「まずは、周りの木と石が邪魔である」


「仰せのままに魔王よ」


 刀を右から左、左上から右下と何度も振るうことで放たれる斬撃。


『砂刃』


 狙いは金色の狐ではなく、魔王が仰る宙に浮かぶ木々と石全てだ。


 自分以外に向けられた攻撃、ましてや木や石に対してだからだろうか、頭上を舞う斬撃に怒り狂う女王は見向きもしない。


 それよりも無駄なことをしていると判断してか、此方へ突進してくる。


 今更ただの突進? そんなもの簡単に避けられるぞ。


 その瞬間、感覚でしかないが、頭上から目には見えない"何か"が押さえつけようとしているのを感じた。

 しかし、タイミングまでは分からない。


 上から押さえつけようとしてくるとは……デザーディアンと同じだ、"学習"したのか。


 だが、それは無駄なんだ。


「レット! 右だ!」


 そう言うと、魔王は左にステップし、俺は体を右に大きく動かした。

 そして、押さえつけようとして不発した"何か"は地面を抉る。


 凄い威力だな、もし、上から押さえつけられていたら危なかった。


 避けたのを見るや否や、金色の狐はその巨体に急ブレーキをかけ止まる。


 

 さて、ここからは魔王様の時間だ。


 全ての木々と石を破壊し、砂と化した刃を【砂の主】で再び『砂刃』に戻す。


 形を取り戻した何十本もの狐月状の刃はその中心に佇む者を狙い定める。


 キュウビノキツネお前を守っていた兵士たちはお前に楯突く反逆者へと変貌したわけだ。


 一直線に向かっていくが、もちろん、このままでは霧散して終わりだ。


 妖術が砂刃を捉える瞬間をその右の瞳で予測した魔王様は大きさも速度もバラバラの刃その全てを魔王の手鏡サタンミラーを用い、反射させ瞬時に空高く打ち上げた。


 一つも零さず拾ったその様はまさに神技だ。


 何故今にも自分に向かってくる刃を"全て"無駄にしたのか謎だろう。


 だが、その答えはすぐ分かることになるぞ、自分自身の体でな。


 

『砂漠斬』


 砂漠を穿つ刀を右後ろに大きく振りかぶり、これで決めるかのように金色の狐へと一直線に向かっていく。


 第一形態の失態を見越してか、今回は避けようとはせず、妖術を目の前に集中させた。


 とにかく高威力の砂漠斬を当てようとする一心で立ち向かう男を演じているが、その勢いは本物だ。


 大袈裟に振り下ろしたその刀は、空中と、いや、妖術と激突した。


 とにかく今は目の前に集中する、意識をなるべく俺へ。


 妖術が集まり終えた瞬間、さらに出力を上げ、背をがら空きにする。



 そして、視界の上端に砂刃の雨が降り注いでくるのが見えた。


 魔王様が【未来眼】で最終確認を終え、完璧なタイミングで空高く打ち上がっていた砂の刃を全て撃ち落とすように反射させたのだろう。


「すまないな」


 完全に守る術がなくなったキュウビノキツネの背に砂刃の雨が斬り裂いていく。


 それはみるみるうちに黄のバーを赤へ、赤から無色へとゲージを減少させた。


 体力が尽きた金色の狐はその場に倒れ、光の粒となってサラサラと消えていった。


『"第二の祠主"キュウビノキツネの素材を入手しました』

『称号【祠主・二(このままでは使用できません)】を獲得しました』

『【レアドロップ】ライドモンスター"九尾の狐キュウビノキツネ"を入手しました』


〇 ナイス!

〇 狐も強かった

〇 ナイス~

〇 神連携だった!

〇 トッププレイヤーこええよお

〇 サタンくんかっこいい!

〇 レットさん相変わらず強すぎる

〇 考えることが天才だ

〇 え!? しれっとレアドロしてない!?

〇 ライドモンスター"九尾の狐"だと!?

〇 めっちゃ羨ましい!!

〇 うえあおおおおお

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る