【#24】遭遇

「なあ、レットよ」


「どうした?」


「我のコメント欄にお主がライドモンスター"九尾の狐"を【レアドロップ】したと流れているのだが本当か?」


「ああ、あまり気にしていなかったが、そうだな」


「欲しい」


「?」


「我も欲しいのだあああ!! レットだけずるいぞ」


 一瞬理解に苦しんだが、そういうことか。


 サタンは空を飛ぶ翼竜ワイバーン系のライドモンスターしか持ってなかったな。

 地面を駆けるライドモンスターが欲しいのか。


 空を飛べる奴も良いと思うが、確かに一体は持っておきたい。

 細かい探索にも役立つだろうし。


「狼と狐、もふもふの過剰摂取になってしまうのだ!」


 どうやら少々違ったらしい。

 

 もふもふ、そっちの視点で考えたことはなかったな。

 ライドモンスターに対しての考えを改めないといけないかもしれない。

 愛でるという点では、毛が生えていた方がいいのか?


 まあ、サタンには力になってもらっているし、お礼に一体渡してもいいだろう。


 GHO2このゲームには、アイテムウィンドウ内にトレード機能というものがある。

 装備などの一部トレード不可のものを除いては、プレイヤー間で取引することが可能だ。


 基本的にライドモンスターは取引可能でガチャで消費するのはゲーム内通貨だし、レアドロも言ってしまえば無料タダだ。

 疾風狼スピードウルフ九尾の狐キュウビノキツネのどちらかをアイテムボックスで腐らせてしまうのであれば、大切にしてくれそうなサタンが乗ってくれていた方が断然良い。


「分かった、このクエストが無事にクリアできたら一体渡すよ」


「え!? 良いのか!? え、あ、じゃあ、我のブラック★ドラグーンと交換ということか……」


「いや、ブラック★ドラグーンは引き続き大切にしてやってくれ」


「れっとお……。 感謝する! 我はこの恩を忘れぬからな!」


 こんなに喜んでもらえると渡しがいがあるというものだ。


 九尾の狐を渡そう、実はこれでも疾風狼のことは気に入っている。

 ……もう一体、いるにはいるんだがな……。



 ◆



 現在、サタンと相談して一度町に戻ろうということになった。


 このまま当てもなく祠を探し続けても日が暮れてしまうからな。


 町に戻ることで何か起きないかと密かに期待していたが、今のところは何も起きていない。


「一旦、団子屋でも寄るか?」


「うむ。そうするのだ!」


 祠を見つけるきっかけになったのは団子屋の店員さんの一言が発端だ、何か起きる可能性は十分にある。



 

 おや、赤い布が被さっているベンチにプレイヤーが一人座っているな。


 サタンは外で食べたいらしいが、ベンチは一つしかないか。


「すまない、隣失礼してもいいか?」


「あ、どうぞ。 大丈夫ッス」


 ん? 今まさに三色団子を食べている目の前の女性、見覚えがある。

 というか、もしかして知り合いじゃないか? 特徴が完全に一致するのだが。


「なあ、レット! 我はみたらし団子が食べたい!」


「あ、ああ、好きに選んでくれ」


「どうしたのだ? ……あ! 先客がいたのか! 失礼した、我は偉大なる魔王、サタ……ン……って!? ……エンラ!? 久しぶりなのだ!」


「う、うッス! エンラッス! お久しぶりッス!!」


 やはりエンラだったか。

 茶髪のショートヘアで日に焼けたアバター、つり目で瞳は黒い、白い道着を着ていてお腹周りに黒い帯が結ばれている。

 靴は短いベージュの靴下が見え隠れする青いスニーカーを履いている。


〇 エンラさん!?

〇 エンラちゃんだ!

〇 可愛い

〇 サタンの次はエンラ!?

〇 レットさんおかしい

〇 ボーイッシュ好き

〇 サタ×エンありです

〇 ノブナガ行きてえよ

〇 この町どうなってるんだ

〇 至近距離エンラちゃんたまらない!

〇 次はレット、サタン、エンラある!?

〇 この後の展開楽しみ


 彼女はGHO前作では後期に参入したプレイヤーだが、現実で武道を習っているのと、その持ち前のセンスで瞬く間にトッププレイヤーへと昇り詰めた最強の籠手こて使いだ。

 エンラとはそこまで長い付き合いではないが、他のプレイヤーと比べると関係値はかなり高めのものだと自分では思っている。


 まあ、GHO2今作はレットとして活動しているので、その高い関係値はリセットされてしまう。

 寂しいが、いつか前作のように接することが叶えばいいな。


「自分はエンラと申すッス! お兄さんも宜しくお願いするッ……ス!!」


「宜しく頼む」


 ん? 俺の顔を見るや否や、一瞬、エンラの瞳の奥がキラキラと輝いていたように見えたが――気のせいか。


 というか、前作トッププレイヤーとの遭遇率が高いな、こんなに出会うものなのだろうか。

 だが、考えてみれば今の時点でノブナガこの町に着くことが出来るプレイヤー自体少ないのかもしれない。


 そう考えれば上位のプレイヤー達と出会う確率は必然的に上昇するのか。




「ああ!! ノブナガ様!」


「本当だ! ノブナガ様だ!」


 何だ、急に周りのNPC達が騒がしくなってきたが――ノブナガがなんとかとか言っている。



 左前方から歩いてきていた歓声を浴びる人物は俺達の前で歩みを止め、体を右に向かせ話しかけてきた。


「お主らが祠を探し回っておる武士であるか?」


 その髪型は"ちょんまげ"ではなく、黒髪で爽やかなツーブロック、パッチリとした目に赤と黒が混在する瞳、顎には三角形に見える立派な髭。

 戦国武将はこれだ! と言わんばかりの赤、黒、金色が使われた直垂ひたたれを着ていて、足元は裸足に下駄を履いている。


 目の前に立つと分かるが、その男はNPCとは思えないほどの威圧感を放っている。


 自然と俺達は赤いベンチから腰を上げ、粗相のないよう挨拶をした。


 が、若干一名、自分が王であるゆえか座ったままみたらし団子をむさぼる白髪の子供。

 ああ、口周りにみたらしがべったりじゃないか。


「む? 何なのだ?」


「はっはっは! 随分と肝が据わっている奴がいたもんだ! 俺の前でそんな態度をとるやつは初めてだ!」


 彼の頭上にはこう表示されている。


『"戦国武将"ノブナガ』



 ノブナガはあのノブナガなのか、何故NPCが称号を持っているのかなどを考えているうちに、その男は引き連れていた数人の侍と共にご機嫌で去っていった。


 去り際に放った、祠を引き続き頼んだぞという言葉とともに、メニューウィンドウの上から七本目のバー『マップ』上に残り三宇の祠の位置が示された。

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