【#25】砂の牢獄

 残り三宇の祠主を全て倒せばクエストが次に進む可能性が大いにある。


 三宇ということは後三体もLv.500前後のボスモンスターがいるのか。


 ――とてもとは言わないが、時間が掛かるな。


 三体、三体かあ……。


 ふと左側に視線をやると、この状況に最も適しているであろう人物が視界に入る。


 そうか! エンラなら高レベルモンスターをで討伐できるじゃないか。


 忙しいと思うし、ダメ元にはなるが聞くだけ聞いておいて損はないだろう。


「なあ、エンラ」


「どうしたッスか?」


「今、時間あったりするか?」


「? ええ、まだノブナガこの町に来たばかりなんで特にやることは決めてないッスけど」


 お、出だしは好感触だ。

 ここからが本題になる。


「よかったらなんだが、俺達が今進めているクエストを手伝ってくれないか?」


「⁉︎ それは嬉しい限りなんスけど、逆に途中まで進んでいるクエストに自分が参加しても大丈夫なんスか?」


「ああ、もちろんだ。 エンラが居ればとても心強い」


「なっ⁉︎ そ、それじゃあ、お願いするッス‼︎」


 道着を着た少女は頬を赤らめながら、恥ずかしそうに了承してくれた。


「ありがとう」


「む? よふわはなふは、えふは、よほひふはほは(よく分からぬが、エンラ、宜しくなのだ)!」


「宜しくッス!」


 未だに何かを頬張っている男の子は嬉しそうな表情を見せ、すぐに咀嚼に神経を注ぎ直す。


 おいおい、さっき食べ終わっていたような――まるで、頬に餌を貯めたハムスターじゃないか。

 あれ? 両手に片方ずつ持っている物が茶色く香ばしそうな丸い物に変わっている。


 せんべいか――まさか、追加注文したのか⁉︎ 食欲ありすぎだろ……。




『ステータスオープン』


 祠に行く前に、エンラに了承を得てお互いのステータスを確認する。


名前……『エンラ』


武器……『格闘賢者の籠手』

防具……『格闘賢者の道着』


体力……『3700』


攻撃力……『2400』

防御力……『2300』


称号……【痛い所を突く】


 流石のステータスだ。

 称号【痛い所を突く】は弱点を狙いやすくする類いのものだろう。


 あと、気になる箇所はこれだな。


「なあ、この、格闘賢者ってどんなモンスターなんだ?」

 

「あ、それは格闘賢者ファイティングゴリラっていうボスモンスターッス! 超ムキムキのゴリラッス!」


 ゴリラ⁉︎ 賢者と書いてあるから肉弾戦が得意な魔術師とばかり――そうか、梟なんかもそうだが、ゴリラは森の賢者って言ったりするもんな。


 よし、これで準備は万端だ。




 ここからは残り三宇の祠主をそれぞれ担当する。


 レット、第一の祠。

 サタン、第四の祠。

 エンラ、第五の祠。


「皆、この祠でいいか?」


「うむ!」


「大丈夫ッス!」


 結局、着くまではどんなモンスターが相手になるか分からない。

 だが、このメンバーであれば大丈夫だ。


 パーティーはエンラを加え、お互いの体力が見えるようにしておく。


「よし、行くぞ!」


「「おう!」」



 ◆



 ここが第一の祠の場所だな。


 第二、第三と同じ木造りの祠でその中には、翼を広げている鳥を模した石が置いてある。


 今回は鳥類のモンスターか――左に携えた鞘を左手で抑え、右手で刀の柄を握り引き抜く。


 キラキラとした砂漠のような銅色の刀身がスラリと姿を見せ、刀を縦に構える。


 脱力後、体全体に力を込め、右上から一気に振り下ろすと、祠はその切り口通り斜めに真っ二つとなり、祀ってあった鳥の石の上半身は左へと滑り落ちた。


 その瞬間、光に包まれた石は、右斜め前方約十メートルの場所に大きな鳥の形をした光を形成し、形取られたそれは一度翼を広げながら姿を現す。


 石の光は収まり、役目を終えたかのように粉々に破壊された。


 視線の先には、前足が二本、後ろ足が一本の計三本の足を持つ大きなカラス

 全身黒い体は、その黒の深さから漆黒と呼ぶに相応しい。


『"第一の祠主"ヤタガラス Lv.670』


 今回は最初から全力でいかせてもらうぞ。




 ヤタガラスは此方の様子を伺っているが、反撃の隙など与えずに終わらせてやる。


『形状変化(砂漠ノ守護刀)』


 構えた銅色の刀身はみるみると砂に変わり、形を保たなくなっていく。

 

 そして、その場から誰も逃さまいと吹き荒れてくる砂嵐はデザーディアン戦を彷彿とさせる。


 漆黒の鳥は危険を察したのか飛び立ち、逃れようとするが、既にドーム状となった砂の牢獄に阻まれてしまう。


 一割にも満たないが、逃れようとした鴉の頭上にある緑のバーは僅かに減少した。


 全てを察したヤタガラスは、目の前に立つ砂嵐の原因を排除しようと動き出す。


 しかし、もう遅いんだ。


 砂嵐この中は俺の独壇場、そう、【砂の主】と合わせることで、全てが矛となり盾となる。


 流石に何も無しとはいかない、維持するためには俺の体力が必要だ。


 それは、自動的に減少していく――持って、数分。


 だが、それだけあれば十分だ。


『砂刃"無限"』


 二十、三十なんて生温い数ではない、孤月状に生成された一振りの砂の刃は黒き鳥目掛けて放たれる。


 体を上手く逸らし躱すが、その刃は砂嵐へと潜り、再び生成の時を待つ。


 軽い挨拶をしたところで、次に襲いくるは全方位から放たれる無数の刃。


 避けたっていい、だが、無駄だ。


 結局、その数を全て躱すことなど不可能なのだから。


 

 一、ニ、三と数を増しながら迫り来る刃をヤタガラスは避けて避けて避ける、が、それは次第に限界を迎えていく。


 やがて尾を掠め、腹を斬り裂き、翼に直撃し羽を撒き散らせるへと変化し、無慈悲にも砂の刃は数秒単位で数を増す。


 先程まで九割以上あった体力ゲージは五割となり、形状変化を迎える。


 しかし、形状変化中の無敵時間などお構いなしに砂の刃は散っていく。


 鎧を着た漆黒の鳥は自らの翼を剣へと変化させ、飛びながら、器用に三本の足を使い剣を持つ。


 今の時点で既に俺の体力ゲージは黄色から赤色に変わろうとしている。


 捨て身で向かわれれば、危ないかもしれない。


 だが、一つ忘れてはいないか、俺自身が動けるということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る