【#21】自称"魔王"

 自称魔王と名乗る人物に見つかってしまい、現在、その魔王様が驚くや否やすぐに駆け寄ってきた。


「お、お主は誰だ!? あ、そうか、自己紹介がまだだったな」


 小学校低学年よりも少し身長が高いくらいのとても小柄な男の子、銀色がかった白髪ロングに左の瞳が赤、右の瞳が黄のオッドアイ。

 耳はエルフのように尖っていて、服装は金で装飾された黒いコートを腕は通さず両肩に乗せている。

 黒い長ズボンにも金の装飾が施されていて、靴は厚底のブーツ。

 他の服装とは相反するような白いTシャツを着ていて、胸からお腹の部分にまでかけて縦に大きく"魔王"と墨で書かれている。


 声は子供特有とでもいうのだろうか、女の子と間違えてしまいそうだ。


「刮目せよ! 我こそは偉大なる魔王、サタンである!!」


「……ああ、俺はレットだ」


 もし初対面であればこの魔王と名乗る男の子に圧倒されてしまうだろう。

 そう、それは初対面であればの話だ。


 つい昔の癖で流してしまったが、彼は『サタン』、名を呼んでいるこっちが恥ずかしくなるのはさておき、前作トッププレイヤーの一人だ。

 今作も姿は全く変わっていないのですぐに気付けた。


 まあ、こんな感じだが、実力は本物で戦闘中においては魔王と呼ぶに相応しいと半分だけ思ってはいる。


「なあ、お主」


「どうしたんだ?」


「何故そんなに"unknownアンノウン"と似ておるのだ? 凄く懐かしい感じがするぞ」


 え、めっちゃ鋭いですやん。

 

 ノータ、とまではいかないかもしれないが、彼もまた鋭い観察眼を持つプレイヤー、ノータが隠しクエスト専門ならサタンは人を見極める天才かもしれない。


「って、そんなわけないか! すまぬ、我の早とちりだったみたいだ」


「探し人ではなくてすまないな」


 「多分それ俺です」とは言えない。


「我と唯一肩を並べた存在だったのだがな。 今作はプレイしているのかさえ分からぬ」


 うぅ、そんな曇った表情を見せられると申し訳なさが凄い……。


「また会ったら頭なでなでしてもらうのだ! unknownは特別だからな! 急にすまぬ、あまりにも似ていたものだからつい」


「ああ、ありがとう」


 ……その、ごめんサタン、全部聞いちゃった。

 そんなことを思っていてくれてたなんてな、unknownとして嬉しい限りだ。


〇 サタンちゃんだ!

〇 可愛い

〇 これが母性か

〇 可愛い

〇 サタン!?

〇 レットさん、トッププレイヤー遭遇率高くない!?

〇 何故いつもそんなに親しげなんだ

〇 unknown……だ、と!?

〇 言われてみればプレイスタイル似てはいるけど

〇 サタアンてえてえ

〇 サタンちゃんの表情可愛すぎ

〇 ここでunknownの名前が出るとは



「サタンはここで何をしていたんだ?」


「お? ああ、我はノブナガこの地の謎を解いておるのだ」


「奇遇だな。 俺もその真っ最中だ、もし良かったら一緒にやらないか?」


「おお! 良いぞ! 一人より二人の方が謎を解ける可能性が上昇するからな!」


「宜しく頼む」


 目の前を二つの指で二度タップし表示されるメニューの上から六本目のバーをタップし展開したコミュニティ内にあるパーティーを選択。

 近くにいるプレイヤー『サタン』に申請を送り、承認後パーティーが組まれる。


 あと一つだけサタンに謝らなければいけないことがある。


 自分で言うのもなんだが、俺は別世界で先生に叱られるくらいには謎が解けないからな。




「サタン、お互いのステータスを確認しておいてもいいか?」


「ああ、もちろんだ。 見るがいい、我n」


 サタンに視点を合わせ、数秒視線を送るとそれは出現する。


名前……『サタン』


武器……『魔王の手鏡サタンミラー

防具……『魔王の外套サタンコート


体力……『1800』


攻撃力……『1』

防御力……『2300』


称号……【未来眼】


 ノータと同じ攻撃力"1"の武器か。

 基本的に体力は防御力を上回るが、体力補正が小さい防具なのだろう。


 そして、【未来眼】、文字通りであればこれは相当強い称号のはずだ。



「助かった」


「うむ。 お主、いや、レットは強いのだな!」


「サタンもだろ」


「そうか~?」


 ニコニコと微笑む魔王はまるで天使のようだった。


 今回もパーティー戦だ、称号は【竜殺し】に切り替えておこう。



 ◆



「レットよ、その疾風狼ライドモンスターってガチャ産か?」


「ああ、そうだな」


「いいなあ、我もそっち系欲しいなあ」


「確かに世話になっているが、サタンのその翼竜もとても良いじゃないか」


 サタンのライドモンスターは空を飛ぶ翼竜。

 真っ黒で手と翼が一緒になっていて、スマートな顔に長い尻尾のワイバーン種というやつだろう。


「そうであろう! 我の愛竜『ブラック★ドラグーン』だ!」


 ネーミングセンスが壊滅――人のことは言えないか。

 だが、心なしかそのブラック★ドラグーンとやらは楽しそうな表情をしているので本人も気に入ってそうだ。


 現在は、サタンが位置を確認だけしていた祠へ向かっている。

 どうやらその祠には狐の形をした石が祀られていたらしい。



 恐らくは狐種のボスモンスター、そして妖、であれば対象は自ずと絞られてくるな。

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