【#20】英雄の力
「うーん、どうしたものか」
町を出て探索を続けた俺は、現在木で建てられた祠の前にいる。
道なき道を進み発見したまではいいんだが、何かありそうで何も起こらない、ただ眺めている状態だ。
扉の隙間から石で造られた蛇が見えてはいるんだが……。
「困った……な、あ」
祠から視線を一度上に戻すと、また赤白い熊さんと目が合った。
それは餌を見つけたかのように一目散に襲い掛かってきた。
柄を握り抜刀したまではいいんだが、このまま直線上に来ると破壊されてしまう物がある。
左へステップし、まずは自分の安全を確保しようとする。
しかし、既に止まりそうな気配はなく視線の先で無残にも祠は破壊されてしまった。
鬼熊は雄叫びを天高く上げて体を右にずらし狙いを定めてくる。
雄叫びを上げていたその瞬間だった。
倒壊した祠から白い光が溢れ、それは巨大生物の形を成しやがてその姿を現す。
足元にいた熊は左前足に潰され、祠の怒りを買ったかのような無残な姿になっていた。
蛇の頭が八つ、ニョロニョロとそれぞれ
蛇の尻尾が一本長く生えている全身紫色の生物。
『"第三の祠主"ヤマタノオロチ Lv.560』
ヤマノオロチ、現実では神話に出てくる伝説の生物か。
祠に祀られていたが、これは倒してしまっても
そもそも、あちらさんはやる気満々のようだし。
これは正当防衛。
そう、正当防衛なんだ。
都合のいいよう自分に言い聞かせ、内心楽しみにしていることは神様にバレないよう他の誰かに祈った。
Lv.560だが、高レベルになってくるとレベルよりどちらかというとモーションの複雑さが重要だ。
例えLv.1000の相手がいても、戦ってみればLv.900の方が圧倒的に難しいなんてこともざらだからな。
出現する際に距離を取り、十メートルほどは離れている。
まず『砂刃』で様子見を――ぬわっ!?
安心しきっていたところへ、地面にめり込んできた一本の頭。
咄嗟のバックステップで避けられたが、十メートル以上は首が伸びてくるのか。
それがまだ七本。
まあ、これくらいであれば大丈夫か。
俺が現在選択中の称号【孤高の英雄】、これは自分が一人であることと相手が称号持ちの場合のみ発動するのだが、攻撃力1.3倍上昇と破格だ。
【龍殺し】と同じ倍率だが、対象が称号持ちなので使い勝手がいい。
あれ? ヤマタノオロチって龍なのか?
蛇――のはず。
刀を振るうほどその数は増す。
『砂刃』
正直勝つだけなら一定距離で攻撃を躱しながら当て続けるだけでいい。
ある程度のモンスターには通用するだろう。
だが、これでいいんだ。
モンスターに思考があるか分からないが、パターンはある。
きっと、対策を講じてくるはずだ。
ヤマタノオロチは二本目、三本目と首を伸ばし攻撃を仕掛けてくる。
しかし、それを容易く右、左と体ごと躱し、蛇を中心に反時計回りで走り回る。
巨体なため動きは鈍く、体力が高めだとしても砂刃は無慈悲にも緑のゲージを削っていく。
それはやがて黄に変わり、第二形態へと変貌を遂げる。
「シャラララララ!!」
先程まで何もしてこなかった尻尾に蛇の頭が現れ、その数は二本、三本と増えていき最終的には頭と同様八本、計十六本の頭が
想像すらしたくない。
もうどちらが頭か知りえないが、流石に気持ち悪い。
こうなったら使うしかあるまい、【砂の主】。
砂漠の守護刀の固有アビリティ【砂の主】、これは砂を操れるというものだ。
しかし、ここは砂漠ではない。
そう思っていたのだが――この
『砂刃』は文字通り砂の刃だ。
当たる当たらないにしろ、地面に散らばるは『砂』。
今までの攻撃が後々さらに脅威となる。
『【砂の主】砂刃"二十ノ刃"』
今にも土と混ざり合おうかという砂は息を吹き返し、空中で再び狐月状の刃へと変化した。
これが今の力、そして、デザーディアンの力だ。
砂漠の守護者――敵としてこれほど恐ろしい奴はなかなかいないだろう。
『砂刃』として放たれた二十の刃は全方位から迫り、それを避ける速さを持たないヤマタノオロチにはどうすることも出来ず全て直撃した。
第二形態になりこれからだっただろう、すまないな。
黄のゲージは赤に変わり、対策を講じる暇もなく勢いそのまま頭上のバーは消滅した。
『"第三の祠主"ヤマタノオロチの素材を入手しました』
『称号【祠主(このままでは使用できません)】を獲得しました』
〇 ナイス!
〇 祠主とは一体……
〇 強すんぎ
〇 終始圧倒してた
〇 ナイス~
〇 ナイスゥ!
〇 デザーディアン武器ほすい
〇 デザ倒してきます
〇 武器の性能かっこよすぎ
〇 レットさんつえええ
〇 何かありそうだな
〇 Lv.560討伐は普通におかしいからね??
◆
ヤマタノオロチは"第三の祠主"だった。
恐らく、最低でも第一と第二もいるはずだ。
次の祠を探してまばらな自然の中を駆け回っているのだが――そう簡単には見つからない。
「――――だ、――――じゃない」
ん? 左前方から何やら声が聞こえてくるな。
プレイヤーもしくはNPCか?
離れていて聞こえなかったので、その声の主の近くへと駆け寄った。
「だーかーらー、我はショタじゃない! 魔王だ!!」
あれ、あの姿はもしかして――。
「ん? 背後? ドローンは我しか映していないぞ?」
「わ、我はそ、そんな脅しには屈しない……え」
「あ」
どうやら背後にいた俺がドローンカメラに映ってしまい存在がバレてしまったらしい。
「うわあああああああ!?」
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