【#19】城下町

 一面砂漠の景色は、いつの間にかまばらに草木が生い茂っている場所へと移り変わっていた。


 かろうじて道と呼べるような形をしている無造作に並べられた石。

 周りには倒壊した家屋があり、まるで上から潰されたようなものや巨大生物に引き裂かれたような跡がある。

 ここには人が住んでいたのだろうか。


 考察と呼べるほどのものではないが、軽く考えながら奥へ奥へと駆けていく。


 後方に広がっていた砂漠はやがて懐かしく感じるようになり、新たな景色に染まっていく。

 前方にはまだまだ遠いが、城の上部分のような影が見える。

 その姿は西洋というよりかは東洋に近い。


 何となくだが、この区域のコンセプトというものが分かってきた。

 それは、俺ですら生きていく中で自然と覚えているほどだ。


 そう、ここは日本だ。


 詳しい時代までは分かりかねるが、一番に1500年代というのが頭に浮かんだ。


 正直ここまでで一番興奮しているかもしれない。

 だって昔の日本だぞ? しかも侍と呼ばれる戦士がいた時代に近い可能性が大いにある。


 西洋の騎士と戦った後は東洋の侍。

 もちろん刀を交えるわけではないかもしれないが、それでも嬉しい。


 流石GHO、楽しませてくれるじゃないか。


 そして、先ほどまでは気付かなかったが、ふと空を見上げると暗い空に満月の明かり、静まり返った夜というものはとても不吉だ。

 視界はどれだけ暗くても視認性を保つゲームシステムが救いか。


 その高い視認性の影響で先ほどから見えてしまっているんだがな。


 道を塞ぐように座り込む背丈の二倍はありそうな白い熊が。


 ホッキョクグマかよ! とツッコみたいところだが、どうやら返り血で毛が赤く染まっている。

 大きさ的に家屋を引き裂いた犯人で間違いないだろう。


 仕方ない、やるしかないか。



「お疲れ」


『戻れライドモンスター』


 左足を逆時計回りに大きく回し疾風狼スピードウルフの背から飛び降りた俺はこの地で初めての戦闘を行う。


『鬼熊 Lv.140』


 最近とんでもない奴らと戦ったせいかレベルが低く見えてしまうが、こんなボスモンスターが当たり前のようにいる現状がおかしいのは分かる。

 そして、ここで確信した。


 この地に生息するモンスターは所謂『あやかし』というやつだ。

 妖怪とも言ったりする。


 成程な、そう考えるとこの区域の世界観にピッタリじゃないか。


 赤白い熊は近付いてきた存在を確認したのかゆっくりと立ち上がろうとする。


 鞘を左手で抑え、右手で柄を握り刀を抜く。

 行くぞ、砂漠の守護刀。


 中距離までとはいかないが、ある程度離れた位置でその刀を右上から左下へと一直線に振り切ると発生する新たなスキル。


砂刃さじん


 その斬撃から放たれた砂の刃は空を切り飛んでいく。

 左下から再び右上へ、右上から少し下にずらし、次は右横から左横へと。


 この刃は振るえば振るうほどその数を増して対象を何度も斬り裂く。


 例え立ち上がり襲い掛かってこようがもう遅い。


 距離を保つように後ろへ下がりながら高速で刀を振るい続ける。


 さすれば、頭上にある緑色のバーはすぐに黄色、そして、赤色へと変化する。


 そこに存在していたはずの残り体力を示すバーは瞬く間に消滅していた。



『鬼熊の素材を入手しました』


 鞘にゆっくりと刀身を収め、気分は既に侍だ。


 拙者の勝ちでござるな。



 ◆



 無造作に置かれていた石の道を辿り終えるとそこはまさに――。



 町の一番奥にそびえるは現実にあらば必ず観光名所となり人を呼ぶ絵に描いたような日本のお城。

 そこへ連なるように建ち並びびを感じさせる木造の家屋。

 視界に入る暖簾のれんには分かりやすく団子の文字や定食屋の文字。

 受付と書かれているところも見えるな。


 多少違いはあれど、教科書で何度も眺めたようなあの景色が広がっている。


 その名は和の町ノブナガ、ついに来たんだな。


〇 え!? やば!?

〇 行きたい行きたい行きたい

〇 日本だ!

〇 何だここ、良すぎるだろ!

〇 マジで早く行きたいんだけど

〇 景色凄すぎ

〇 はっ!? もはや旅行やん

〇 レベルが高くてすぐには無理だ

〇 この区域良すぎないか?

〇 レベル上げに励みます

〇 戦国武将とかいるのかな

〇 めっちゃ良いやん……



 まずは町の中を歩き、その風景を楽しむ。

 細部まで作り込まれて、自然と世界に引き込まれていく。

 時間が出来たらゆっくりと回りたい。


 プレイヤーはちらほらとは見えるが、そこまで多くはない。


 さて、この町を攻略するといっても何から始めればいいのかは分からないんだよな。



 お団子食べよう。




「いらっしゃい」


「三色団子二本とお茶をください」


「かしこまりました」


 う~ん、この雰囲気たまりませんな~。


 黒髪お団子ヘアーの女性NPCに注文を入れ、店の前にある赤い布を被った木で出来たベンチに腰掛ける。

 背後には持ち手の長い和傘が立て掛けられているザ団子屋。


 もちろんこれも情報収集の一環だよ。


「お待たせしました」


「ありがとうございます」


「ごゆっくり」


「あの、すみません」


「はい?」


「最近何かあったりしませんでしたか?」


「ああ、特にないけど、ノブナガ様が妖の退治が追い付いていないと嘆いてらっしゃたね」


「そうですか、助かります」


 取り敢えず、妖を狩っていけば何かに繋がるかもしれない。


 右手に持った残り一つの団子にかぶり付き、最後にお茶をすする。


 食べ終えて役目を失った串は電子の波へと消え、席を立つ。


 暫くはモンスターとの戦闘が続きそうだ。

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