【#52】希望

 っ、強いな。このままでは力負けしてしまう。


 ピエリオットに時間を掛けている暇はない、俺の失態で晴と雨を危険にさらしてしまった。


 今この瞬間にも、ストーカープレイヤーが襲ってくるかもしれない。護衛失格だ。


 押し負けまいとさらに力を込めると、聖刀エクスの煌めきはより一層強くなっていく。キラキラと刀身を立ち上っていた金色の菱形はギラギラと。


「いいですね、その刀。 キラキラと輝いていて美しいです! 私のコレクションに相応しい一品ですね、くださいよ」


「悪いが、聖刀エクスこれは渡せない」


「何故ですか? 貴方のお仲間、私のコレクションの一つを奪っていったではないですか? なので、私が貴方のその刀を頂く、当然の権利ですよね?」


 拳銃? 俺はピエリオットに会ったのはこれが初めてで、そもそも拳銃を持ったことなど…………そうか、あったな。向けられたことなら。


 ぬらりひょん、面倒事を押し付けやがって。


 そうなると、俺が狙われた理由は装備がからか。そして、あの人物は恐らく。


「それは、すまない、なっ!」


 振り払った刀はピエリオットを弾き飛ばし、距離ができる。


「ぐっ、貴方、この状況で何故そんな笑顔ができるのですか?」


「そうだな、死んだと思っていた人が生きていたら嬉しいだろ?」


「はっ、だからこの状況で何を! 頭でもおかしくなったんですか!」


 刀を鞘に戻し、腰を落として前屈みに構える。その体勢からさらに体を左側に捻ると、スキル《極抜刀"煌"》のモーションが完成する。


 一瞬にして地面を蹴り、距離を詰め、刀を引き抜く。着地地点は相手の背後。


「それは先ほど見ましたよ、無駄です」


 サーベルを再び構え、受け止める姿勢を見せるピエリオット。それが最悪の選択だとも知らずに。


 スキル《極抜刀"煌"》は


 それは、体の正面、腰から肩にかけて斬り裂いていく。


「…………え? がっ!?」


 振り返ると、頭上に表示された緑のバーはその四割ほどが減少していた。


「痛い、イタイ、イタイイタイイタイイタイィィィィィ…………この私に傷を……てめえぇぇぇぇぇ」


 ピエリオットは手のひらに箱を出現させ、リボンを解く。


 現れたのは突撃銃アサルトライフル、それを見境なしに四方八方へ撃ち尽くす。


 弾を避けるため、二回バックステップを入れ、詰めた距離を離していく。


「あ"あ"……すみません、取り乱してしまいました。 お詫びに園内で偶然拾った最強のゴーストを貴方にプレゼントさせてください」


「最強のゴースト? 急いでるからお断りしたいんだが」


「拒否権はありません。 では、今度こそ死んでください」


 そう言って手のひらに出現させた箱は今までの赤色とは異なり、白色だった。


 青いリボンを解くと、人間サイズの煙が立ち込め、やがてその姿を現す。


「御覧あれ! 最強のゴースト《白いおじさん》です!」


 酷く汚れたローブに身を包み、足元は足袋に草鞋を履いていて、フードを深々と被る。


 ……やはり、最強のゴーストとはあんただったか。


 そして、今は確信がついている。


 ウィンドウを出現させ、素早く操作する。聖刀エクスをしまい、装備ウィンドウから選択したのは、《ヘシキリハセベ》。


「受け、取れっ!」


 新たに握ったヘシキリハセベをピエリオット目掛けて投げつける。


「……えっ!? 先ほどとは違いますが、刀、頂けるんですか! ま、どうせ後で全部頂きますけど」


「何を言っているんだ? それは」


 白いローブの男がピエリオット寸前だった刀を右手で掴む。


「……へ?」


 その瞬間、目にも留まらぬ速さで振るわれた刃はピエリオットの首元を掻っ切る。


 それとともに舞い上がったフードは、黒髪で爽やかなツーブロック、パチリとしたつり目に赤と黒が混在する瞳、顎には三角形に見える立派な髭が生えた男を覗かせた。


「そのヘシリキハセベは"ノブナガ"のだ」



《"戦国武将"ノブナガ》見参。



「助かったぞ、青年」


「いやあ、ノブナガあんたが強すぎるだけじゃないか」


ヘシキリハセベこの刀は、まだ必要になるだろう」


「ああ、そうだな」


 ノブナガがヘシキリハセベを投げると、俺は砂漠ノ守護刀を投げ返し、空中で交差する。聖刀エクスでもよかったが、今のノブナガにどんな影響を与えてしまうか分からないしな。


「じゃあ、頼む」


「ふっ、この俺にそんな口を叩くとは、頼まれたぞ」


 この場はノブナガ一人で十分すぎるだろう、俺は一刻も早く晴と雨の元へ向かう。




「……はあ、はあ、やっと地上に戻ってこれた」


 晴と雨がお化け屋敷から遠のいてなげればいいんだが。



「……や、めて、来ない、で」


 雨の声。俺は急いで周りを見渡す。


「どこだ! あ、め……」


「雨ちゃん、僕だよ? ねえ、どうして逃げるの?」


 そこには、座り込んだ雨、そして、その隣で倒れ込む晴の姿。


「雨えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 くっ、距離にして数十メートルはある。抜刀で届くのか……迷ってる暇などない、早くしないと晴と雨が!!


 鞘を抑え、柄を握り、スキルモーションに突入する。


「届け、届いてくれ……」


 いや、違う、「ヘシキリハセベこの刀は、まだ必要になるだろう」。ノブナガが言っていた意味はもっと他にあるはずだ。


 ノブナガ、刃を交えたのはぬらりひょんだった……が……そうか、そういうことか。俺は見落としていたようだ。


「晴、雨、今助ける」


 刀を引き抜き、すぐに収める。一見何も意味がないように見えるが、これは、歴としたスキルモーション。


「キンッ」


 ヘシキリハセベの《固有アビリティ【ノブナガ流】》、それはノブナガが会得した技を全て使用できるというもの。



 かつて響いた絶望の音は、今、希望の音に変わる。



 迫り来る男を押しのけるように"瞬間移動"したのは、二人の目の前。


「ぎゃあっ!? な、なんで、お、お前がここにいるんだ!?」



「遅れてすまない、晴、雨」

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