【#51】支配人
「雨、レット、絶対驚かさないでよ!」
「晴、分かってますよ」
「あ、ああ」
現在俺たちは、次なるアトラクションお化け屋敷に来ている。
入り口から少し進んだが、登場するお化けは幽園地のコンセプトだからだろうか、リアルではなくデフォルメされたメルヘンな見た目をしているので恐怖を覚えることはない。
だが。
「きゃきゃきゃきゃきゃ」
「きゃあああああ!?」
「うわあああああ!?」
――――――――――――――――――――――――
〇 うわあああああ!?
〇 びっっっくりしたあ
〇 一人称だからマジで怖い
〇 ドローン視点だとまだマシか
〇 マジびびった
〇 ぎゃあああああ
〇 横かいいいいい
〇 モンスターよりこええよ
〇 緊張感やばい
〇 前に晴ちゃんと雨ちゃんいるのが唯一の救い
〇 晴、雨、後ろ姿もかわええ
〇 あれ?レットさんびびってた?
――――――――――――――――――――――――
四方八方から突如出現してくるのは、お化けが可愛かろうと驚くという点においては関係ない。
怖くは、ない、んだがな?
「雨、その表情、分かってたでしょ!」
「晴、ネタバレはよくないから黙ってたの」
「ていうか、レット、私に紛れて驚いてたでしょ」
「い、いやあ?」
「そう、なら次はレットが先頭で」
ん?
「レットさん、前、どうぞ」
んん?
「あれえ? もしかして怖いんだ?」
晴は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら口元を手で覆う。
「ち、ちがっ!? 俺は二人の護衛だから一番後ろの方がいいだろう?」
「レットなら先頭でも変わらないでしょ」
「ぐ……」
暗がりの狭い通路、いつ何が現れるかも分からない状況で、俺は先頭に
「晴、雨、どうやらこの先の通路が二手に分かれているらしい」
突き当りで分岐した道、これは今後に関わる重要な選択だ。
「うーん、私は右で」
「わ、私も右がいいと思います」
即答。
「……右、だな」
安全確認のため二人から少し離れた先を歩き、右手側の通路に差し掛かる。
よし、何もないな。
「二人とも、大丈……なっ!?」
その瞬間、ガタンと音がしたと思えば、視界は低くなり地面に近付いていた。
視線を下へ向けると、そこには、先の見えない暗闇が広がる。これは、落とし穴か!?
《固有アビリティ【浮遊】》
ふう、間一髪だった、これで晴、雨と合流できるな。
開いた床に落ちていた体は、徐々に元いた通路へ。
「……逃がしませんよ」
声?
「ぐわっ!?」
足首に指の感触!? 地上へ戻りたいという意思に反し、体は落とし穴の奥へと向かっていく。
引っ張る力は【浮遊】の出力では到底抗えないほど。
一体、何が起きているというんだ。
体勢を崩した俺はそのまま暗闇に飲み込まれていった。
「…………ここは」
落下ダメージは地面に激突する直前、【浮遊】を発動したことで回避できたが、そもそも、足を掴んできたのは誰なんだ。
「イヤー、パチパチ。 まさかあの高さから落ちても生きてるなんてねえ」
「誰だ!?」
ドーム状のピンクを基調とした広い室内、その中心に立つ、白黒赤の菱形が連なった模様の赤い衣装を着用し、その首元にはフリルがついている。
顔は白いピエロマスクで全体を覆い、先端が上に尖ったシューズを履く。
頭上に表示されるのは、体力を示す緑のバー、そして、エネミーネーム。
《"ファンタズマの支配人"ピエリオット Lv.4000》
おいおい、いきなりとはな。
エネミーネームとレベル的に恐らく、
鞘を抑え、柄を握り戦闘体勢に入る。
「お、やる気ですか、いいですね」
ピエリオットが右手のひらを上に向けると、そこにリボンで括られた箱が出現した。
「では、死んでください」
括られたリボンを解く動作をすると、箱は一瞬にして武器へと変化する。
「……嘘だろ」
構えた手に収まったのは、機関銃、ミニガンというやつだ。
その色は黒ではなく、白い水玉模様が散りばめられたピンク色。弾がぬいぐるみなんてことは。
キュイーンと音が響き、次の瞬間、ドゥルルルルルという音とともに実弾が発射される。
……ないよな。
俺は地面を蹴ると、丸みがかった壁を沿うように横へ走り出した。
追うように放たれた弾は、ピンク色の壁に穴を開け焦がしていく。
途中、壁面を疾走する目がぱちくりとした謎の生物が無残な姿に変えられていく様に心を痛めたが、今は
「逃げているだけでは無駄ですよ」
逃げるだけでは無駄か、だが、見た感じ弾が無限ということはないだろう。
そして、それは、そろそろ。
「……あら、弾切れですか」
今だ、この瞬間しかない。
腰を落とし、体勢を低く、その後地面を蹴ることで、スキル《抜刀"煌"》は発動する。
刀身は手持ち無沙汰となった者を捉え、斬る。
その全ての動作が終えるのは一瞬だ。
……本来であれば。
「そりゃ、そう来ますよね」
「ああ、そうでなくてはな」
振り上げられた刀は、ピエリオットが新たに出現させたサーベルと交わった。
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