【#12】砂漠の守護者

「ノータ、この遅さどうにかならないか」


 歩みの遅さにより、セブンが凄く退屈していそうに見えるのは砂漠の街サウザを出た瞬間の出来事から始まる――。



砂漠ここなら好都合だね」


 そう言い放ったノータは街の外に出るや否やあるアイテムを使う。


 隠しクエストや隠しボスを探すことにおいてノータの右に出る者はいない、前作からそう思えるほど彼女はとても優秀だ。


 その点においては頭が上がらないし、口出ししようなどとは考えない。


 GHOゲーム内において彼女は唯一無二の存在と言っても過言ではないので、他プレイヤーから引っ張りだこになっていたな。


 しかし、今にも眠りそうな表情を活用してよく眠いから無理と断っていた。

 もちろんただ断っているわけではない。


 隠しクエストを見つけられる観察眼はプレイヤーにも作用し、しっかりと見極め信用出来る奴のみ手を貸していた。


 幸いお眼鏡にかなった俺は何度も手伝ってもらったな。


蜜蜂の道導みつばちのみちしるべ


 朧げな声でコールしたアイテムは花が咲いている場所に蜜蜂が飛んで行き、道を示してくれるというものだ。


 普段であれば花はそこら中に咲いていてあまり使用することはないだろうが一輪の花も咲いていないような砂漠ここであれば爆発的な力を発揮してくれる。


 例え数箇所あったとしても、たった数箇所だ。

 闇雲に探すよりも遥かに効率が良い。


 蜜蜂の道導などどうやって入手するかも見当が付かない。

 隠しクエスト探しを生業にするノータならではのアイテムだ。



 ――そして、道を示してくれるまでは良かったのだが、まあ、プレイヤーからすれば現実では結構速いはずの蜜蜂の速度は遅いようで。


「俺は早く戦いたいぞ?」


「この戦闘狂共が」


 少女の口から吐かれた毒はいつも通りのことだ。

 気怠そうな表情から放たれるそれは初見では驚くかもしれないが気を許してくれている証拠でもある。

 主にセブンと一緒な時に多い気がするが。


 ……戦闘狂? あれ、まさかそこには俺も入っていたりするんですかノータさん。と心の中で木霊する。


 蜜蜂を追いながらGHO2で再会した俺たちは他愛もない話を繰り広げた。


 何を狩ったとかガチャどうだったかなどここに至るまで通ってきたことを。



 ◇◇◇



「見えてきたね」


 何も見えないがとクエスチョンマークを頭上に浮かべた男二人を差し置いて、蒼く光った大きな瞳をさらにキラキラとさせながら彼女は一直線に走り去っていく。


 「おい、待て!」と少し遅れたロングコートと金色鎧は急いで後を追う。


「ノータ! 待て……って……」


 目の前に少女、その後ろからやって来た青年二人。

 彼らは一瞬言葉を失ってしまう。


 そこにはあった、本当にあったのだ。


「これが一輪の花……」


 しかし、ちょこんと咲いていたそれは黒く染まりつつあり元が何色だったか分からない。


 そして、お辞儀をするように斜めった茎。


 その花は今にも枯れつつあった。


 そこにいた者たちは思い描いていた光景とは明らかに違ったのか、悲しい表情を浮かべる。


 だが、そんな余裕もなさそうだ。


 ザッ、ザッ、と砂を踏み締める音がこちらに近づいてくる。


「明確な敵意があるね」


「10人か」


 そう、『人』とセブンが数えたのは迫ってくる脅威がモンスターではなく、NPCだからだ。


 街にいるような人とは違い、例え倒してしまってもペナルティを受けることはないモンスター扱いのNPC。


 通称『ENPCエネミーノンプレイアブルキャラクター』。


 普段のPvEよりも、どちらかというとPvPに近い立ち回りが要求される。


 そして、茶色のボロボロになったローブを着る人の形を成した黒いもやが姿を現す。


『砂の亡霊 Lv.200×10』


 おっと、レベルだけで言えば今まで戦ってきた隠しボス並みじゃないか。


 こんな序盤に出会うべき相手ではないが、俺、いや、俺達であれば問題ない。


 体を前のめりにしたその時だった。


「俺にやらしてくれないか」


 何とも余裕そうな表情で言うじゃないか。

 流石はセブン、仕方ない、ここは任せておくとするか。


「「了解」」


 亡霊が両手を前に出しながら、俺たちを囲むようにゆっくりと迫って来る。

 それは、軽いホラーだった。


 しかし、そのホラー映像を一瞬にしてバトルものへと変えた金色の男。


『形状変化』


体力……『1』


攻撃力……『9600』

防御力……『1』


 まったく何なんだこの攻撃力は。彼のステータスに赤い瞳と蒼い瞳を合わせながらため息をつく。


「分かってるよな!」


「「もちろん」」



「1.2の3!」


 3で下半身に力を込め、砂地を蹴った俺とノータは空中に高く飛ぶ。


 その瞬間赤い直剣から斧へと形状変化し、両手持ちのドス黒いオーラを纏ったそれはセブンとともに大きく一回転しながら、円を描く。


『満月』


 攻撃力9600から放たれる斬撃はLv.200であるはずの亡霊たちを一撃で塵と化す。


 「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔をこちらへ見せつけてきた馬鹿力を今にも着地しようとしている呆れた表情の者たちは少しだけ称賛することにした。



「凄かっただろ!」


 確かに凄いと言われればかなり凄いんだがな。

 前作を見てきた俺達からすると、セブンはこんなものではなかったのでどこか味気ないのかもしれない。


「あ、ちょっと⁉︎」


 ドヤ顔男の扱いを分かっているかのような彼女は朧げな雰囲気からは想像がつかないような声を上げる。


 どうしたんだと近寄っていくとその原因が視界に映る。


 どうやら先程、誰かさんの放った一撃で今にも枯れつつあった一輪の花は茎と花の部分がなくなってしまい、その周辺に散り散りになった黒い花弁。


 自然とその犯人を見つめていたが、本人は申し訳なさそうに右手の人差し指で顳顬こめかみあたりをぽりぽりと掻いていた。


 だが、犯人と呼ぶには時期尚早だったかもしれない。


 散り散りになった花弁を拾い上げていると、周りからザー、ザー、と何かが吹き荒れるような音がした。


 砂漠で吹き荒れるといえば、砂嵐。


 どうやら俺たちはいつの間にか砂嵐の中に閉じ込まれてしまっていたらしい。


「おい⁉︎」


 申し訳なさそうにしていた男が声を荒げ、掻いていた人差し指を前方に向ける。


 何もいなかったであろうそこには、砂漠色を纏う一人の騎士がいた。


 プレートアーマーを着用し、砂地に刺さる剣を左手、右手の順に添え目の前に佇む者。

 

 そして、ここで全てが繋がる。


 そこにいる者こそがこの地を守り続けてきた英雄だと確信に至った。


 三人は視線を向け思うだろう。


 これから激闘を繰り広げるのだと。


『"砂漠の守護者"デザーディアン Lv.1000』

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