【#13】連携

 砂漠色の騎士デザーディアン、砂漠の街サウザの隠しイベントクエストであり、砂漠の頂点に立つ者。


「行けそうか?」


「ん、問題ない」

「楽しそうじゃないか!」


 どうやら気圧されるどころかやる気十分のようだ。かくいう俺も先ほどから興奮が止まらないんだがな。


 砂漠の騎士様は一歩を動かず、まるで攻撃してこいと言わんばかりに挑戦者を見つめている。

 其方がその気なら行かせてもらおうじゃないか。


 俺たちは何も言わず、目を合わせコクリと頷き各々の配置につく。


 GHO2今作では初のパーティー戦だ。

 久しぶりだが、何でだろうな負ける気がしない。

 周りを見渡さずとも伝わって来るこの気迫。


 思うところはあるが、今は過去を偲ぶ余裕などない。


 まず動き出したのは刀を腰に携える者。

 砂地だが、足場はしっかりとしているな。

 喰らえる分だけ喰らっていくぞ。


『抜刀"暴食"』


 そこにはかつて相見えた銀の龍が通り過ぎる。

 一歩も動かない騎士を喰らおうとした龍の如きそれは、砂漠から抜刀した剣によってギィンッ! という音とともに止まってしまう。


 刀と剣が斜め十字の形を成し、金属音を撒き散らしぶつかり合う。力を込めると自然と首が伸び顔は前に出ていく。

 その顔は今まさに剣を交えている者の数センチ程度まで近づく。


 無表情な騎士に対し、刀を交えている者は歯を食いしばり、その白い歯並びを見せる。


 後方から放たれたであろう迫り来る斬撃を刻一刻と待ち、紙一重で刀を弾きバックジャンプを入れる。


 その強力な赤い斬撃は対象を完璧に捉えるが、剣を構え直した騎士に弾かれ宙に舞った者へ直撃した。


「がっ⁉︎」


「なっ⁉︎ すまん!」


 いや、セブンのタイミングは完璧だった。おかしいのはデザーディアンだ。あの斬撃を弾いただけでなく、俺に直撃させるとは。


 その時、視界の左上に映る体力ゲージが三分の一程度減少していた。


 感心をしながら、ならば次はどうするかと考える。

 

 何とか空中で態勢を立て直し、地面に足から着地した。


 その瞬間まるでそれを分かっていたかのように砂地からギュルギュルと緑の木が渦を巻き生えてくる。

 その先には試験管が置いてあり、飲めと言わんばかりに差し出してきた。


 ナイスタイミングだ。

 コルク栓をキュポンと抜き、中に入っている液体を飲み干す。

 空になった試験管は役目が終えたかのように電子の波に消えていく。


 すると、減少した体力ゲージはあっという間に満タンになった。


 本人は何も言わないが、恐らくこの能力はノータのものだろう。

 しかし、サポートが的確すぎて少し恐怖すら覚える。


「セブン! 次は同時だ!」


 賛同したかのようすぐに動き出した金鎧の戦士は一直線で砂漠の騎士へと走っていく。


 その動きに合わせるため、腰を落としスキルモーションを行う。


 騎士に斬りかかる瞬間――今だ‼︎


『抜刀"暴食"』


 左から迫る横向きの銀の龍、右から迫る縦向きの銀の龍。

 砂漠の守護者よ、どうする。


 正解を導き出したかのように騎士は左から右へ剣を横向きに振り対処しようとした。


 そう来るよな。


 しかし、突如足元から生えてくる緑の触手のような木に一瞬気を取られ、両腕をぐるぐる巻きにされてしまった騎士を目掛けて二匹の龍が直撃した。


 上から喰らう龍と既に食事を終え、背後につく龍。


 体力ゲージはみるみると減少し、三割ほど削れただろうか。


攻撃力……『2200』


 刀の固有アビリティ【暴食】によって、かなりの力を喰っているな。

 泥恐竜ディノスワンの五倍か、単純計算でLv.1につき攻撃力が1増えることになる。


 騎士様は三割削れてもこれでも動かないんだな。

 何を考えているのか理解出来ないが、それならもう一度行かせてもらう。


 空を縦、横の順に斬ることで発動される赤い斬撃。


『十字斬"暴食"』


 その瞬間、視界左側に見える金鎧の男はニョキニョキと足元から生えてくる木々に包まれた。


 描いた十字はまるで、横回転しながら突進する銀の龍。

 口を大きく開け、その場に佇む者を背後から喰らおうとする。


 しかし、此方を振り向き、その斬撃をいとも簡単に弾き返す。

 返り討ちにあった龍は砂嵐の中に消えていった。


 そして、初めてだろうか。

 ここまでまったく動じなかった騎士は右、左と周りを見渡す。


 そう、金色に輝く男がいないのだ。

 

 すると、砂地から生えてくる人一人が入っていそうな木々。

 距離を取るため、バックステップを入れた俺からは砂漠の守護者はほっと溜息をしたかのように見えた。


 警戒した自分が馬鹿だったなと感じさせるように、孤高なる者は思いっきり木々を横に伐採する。


 油断したな、騎士様よ。


 真っ二つに斬れた木々の中には誰もいない。


 それを嘲笑うかのように人を包んでいるような木々は、一つ、二つと周りを取り囲むように六つ生えてくるではないか。

 流石の騎士もこれには焦りを見せたのか、すぐに大きな溜めモーションに入った。


 登場させる暇など与えんと円を描くように全ての木々を一瞬にしてバラバラにする。


 だが、その全てに誰もいない。

 

 では、金色の男は何処に。


 砂漠の守護者の頭上に咲く、大きな花弁を持つ桜色の花。

 砂漠ここには、似つかわしくない神々しささえ感じさせるほどだ。


 ゆっくりと開いていく花弁の中に居たのは、これまた似つかわしくない金鎧の男。


 まるで手品だな。


『形状変化』


『満月』


 まったく気付くいていない騎士の頭上から繰り出されるは、剣から斧へと変化した武器の攻撃力10600はあろうかという無慈悲な斬撃。


 流石に気付いたようだが、もう遅い。


 銀の龍は大きな赤い円を描き、"砂漠の守護者"デザーディアンへと直撃した。


 その勢いで舞い上がった砂埃、それが去っていくとそこには右膝をつき、うつ向いていた一人の英雄。

 体力ゲージは丁度三割のところで止まっている。


 そりゃ、あるよな。


 パキンと割れたヘルメットの左目部分、中は漆黒で数秒後に目の形をした黄色い光が開眼する。


 心なしか砂嵐が強まり、金色の男と甚平の少女がギリギリ捉えられるくらいだ。


 剣を砂地に突き刺し直し、立ち上がる騎士はついに一歩、二歩と歩き出す。


 まるで砂漠そのものが味方をしているかのように、砂の翼が生え、全身を守るかのように砂を纏う。


 歩くはやがて走るに変わり、先ほどの借りを返すかのように直剣を振りかぶり此方目掛けて向かってくる。


 黄色となった体力ゲージの上には、こう表示されていた。


『"復讐の英雄"デザーディアン』

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