【#14】英雄よ、永遠に眠れ

 迫り来る砂嵐を極限まで凝縮させたようなそれは強風を放ち、立っているのがやっとだ。


 最初に狙われたのは俺だった。


 残り距離十メートルほどとなったところで復讐の騎士は加速する。


「なっ!?」


 第一形態では一歩も動かなかったためか体感速度はかなり速い。


 思わず声が出てしまうが、そこは落ち着いて対処をした。


 鞘に収めていた刀を下から上へと振り上げる。


 発生した赤い狐月は対象を捉えるが、まったく手応えがない。

 どうやら、斬れたのは纏っている砂だったようだ。


 元砂漠の守護者はその隙を見逃しまいと振りかぶっていた直剣を左斜め上から右斜め下へ。


 その瞬間視界に映ったのは、今にも直撃する銀色に輝く――ではなく、緑色の木々。


 足元から体を覆うように数本生えてきたそれは、振り上げた刀を持ち直し、次の攻撃モーションへと入っていた者を包む。



 木々が砂地へ潜っていき、次に見えた光景は甚平の少女に称賛を送るほかなかった。


 そこにはまたやられたと言わんばかりの憤りを見せる英雄。


『形状変化』


 これくらいしないと攻撃は通らないだろう。


 赤き刀は赤き鎌へと変化し、自分自身を喰らい殺傷力が増す。


攻撃力……『6700』


 完全に背後を取った暴食龍は静かに、そして正確に獲物を狙う。


 一歩、また一歩と。


 プレートアーマーの金属音を響かせ、後ろを振り向くがもう遅い。


 命を刈り取る形をしたそれは、騎士を首元から横線を描くように斬り裂く。


 音を立てず、その刃は復讐を止める――はずだった。


 その瞬間、命を刈り取られるはずだった者は金色の鎧を輝かせている男の背後にいた。


 一体何が起きたんだとトッププレイヤーでさえ一瞬、ほんの一瞬だったが理解が追い付かない。


 その時間は元気が取り柄の男を死においやるには十分すぎた。


 腹に剣を差し込まれ、輝き続けていた鎧は光を失い、まるで輝きをも抜き取られたかのように膝から崩れ落ちた。

 緑のバーは黄へと変化し、赤に到達しようとしている。


 その足元から生えてきた木々はこれ以上勇姿を見せた者を晒すわけにはいかないと、男を包み連れ去る。

 その時、無理矢理何かを飲まされたようだった。


 戦士は少女の隣へと移動し、優しく寝かせられる。


 幸いだったのは、何かを飲まされた影響か体力ゲージが赤色でことだった。


 回復すればすぐに復帰出来るかもしれないが、ダメージが身体だけでないのは痛いほど伝わってくる。


 だが、俺はセブンお前を信じている。

 きっと大丈夫だ。


 手応えは確かにあった、その証拠か体力ゲージは一割にも満たないが減少してはいる。

 デザーディアンあいつが消え、次の瞬間、移動していた。


 まさかとは思うが、ノータの能力を!?


 学習そんなことまでしてくるとはな。


 このまま戦っていてもジリ貧になるだけだ。

 一撃で決めたい。


 はは、ははは、何でだ、何でこんな状況なのに楽しくなってきているんだ俺は。


 暴食龍戦は、あの頃のようにとか思ったっけな。

 

 じゃあ、これからはあの頃ではなく、unknownあの時だ!


「ノータ、ここは頼んだ」


「ああ、何だよその眼は。 それではまるで――」


 騎士は何が起ころうと待ってくれるはずはない。

 既に残り二人に狙いを定め動き出している。


 さあ、復讐の英雄さんよ、最高に楽しもうぜ!!


『形状変化(ディノスコート)』


 ロングコートの背の部分から黒き翼が一枚、二枚と生えてくる。

 

 ここからは砂一粒でさえ命取りだ。


 空に舞う黒き男、それに応えるかのように砂漠の騎士は砂の翼で空を泳ぐ。


 お互い目掛けて羽ばたき、再び鎌と剣を交えた。


 熱い火花を散らした後、バックステップで距離を取る。


 騎士は砂の槍を三本生成し放ってくるが、読みが正しければ砂で出来たものはもう効かないだろう。


【洗浄】


 これは汚れを落とすアビリティだが、もしも、砂を汚れと認識したのなら。


 飛んでくる槍など意にも介せず、一直線に翼を羽ばたかせ命を刈り取りに向かう。

 

 一本、二本と当たろうとするが、それは全て洗われていく。


 それを察したのか、英雄自ら剣を構え突撃してくる。


 数秒後、振りかかる刃は俺を斬る――わけもなく、ヒラリと体を回転させジャスト回避を入れた。


 回避とともに一太刀入れるが、一瞬の手応えがあっただけで砂へと変わる。


 背後の空を斬り始めた音を頼りに、バック宙をし、さらにジャスト回避。


 背後の背後を取り、次は二回斬り刻むが同じことの繰り返しのようだ。


 着実に削れてってはいるが、まだ二割以上のゲージが残っている。


 このままの装備では――と考えていると、その思考を読み取ったかのように、空中で桜色の花が咲く。


 そこに入っていたのは、セブンの装備一式とノータの防具。


 すぐに花に包まれ直したそれを見て状況を察した俺は仲間の元へと方向を変え空を疾走する。


 その後ろからついてくる砂漠の騎士。


 待っていたのは勝利を確信した目をしている甚平の少女と既に全快し勝利を譲ることに不満そうな金鎧の男。


 にこやかに笑った黒き翼を持つ男は次の瞬間、目の前にいたその者たちを振り上げた鎌で斬り裂いた。



 そして、復讐の英雄の方へと体ごと振り返った男が右手に持っていたのは、今にも全てを喰らいそうなドス黒く、赤いオーラを纏った鎌。


 その攻撃力は実に『21800』というとてつもない数字。


 バチバチと雷とようなものまで纏い、左手を添え、渾身の力で振り払う。


 それは暴食龍の第三形態とでも言おうか、銀色の体に四本足が空を掴む細身の龍。

 第二形態からは想像も出来ないほど悍ましく、鳥のような口先に赤黒い瞳、至る所に大きな棘が生えている。


 その遥かに巨大な龍は砂粒一つも逃さまいと大きな口で空間ごと喰らう。


 つい先ほどまで激戦を繰り広げていた復讐の英雄は一欠けらも残さず平らげられた。


 その終わり方はあっけなかったかもしれないが、上には上が存在するということだ。



『"復讐の英雄"デザーディアンを討伐しました』

『"砂漠の守護者/復讐の英雄"デザーディアンの素材を入手しました』

『称号【孤独の英雄】を獲得しました』


 左下にログが流れ、俺たちは「終わったんだな」と一息ついた。


「やったな!」


「ん、ほとんど僕のお陰」


「お疲れ」


 今回はノータとセブンがいてくれたからこそ勝てた戦いだ。

 二人には感謝しないとな。


〇 は!? え!?

〇 やばやばやばやば

〇 倒……しただと!?

〇 うわああああああああああ

〇 お疲れ!!

〇 終始何が起きたんだ??

〇 もう上手すぎとかじゃないんよ

〇 マジでやばくね?

〇 ありがとおおおおおおおおおお

〇 最高でした

〇 ナイス!!

〇 Lv.1000討伐しちゃった……

〇 連携凄すぎ!! 初めてレベルじゃないよこれ!

〇 観ててよかったあああああ

〇 レットさん、ノータさん、セブンさんは神!!


 最高の戦いだった。


「みんな、ありがとう」


 そして、孤高なる英雄よ。

 ありがとう、ゆっくり休んでくれ。


「うちのコメント大盛り上がりだよ!」


「僕のところもいつもと違う雰囲気」



 喜びもつかの間、俺たちは重大な事を忘れていたのであった。


『【全体ログ】"砂漠の守護者"デザーディアンが討伐され、封印が解かれました』

『【全体ログ】これにより、災厄が飛来します』


『【全体ログ】全プレイヤーは速やかに至急 x○○.y○○. までお集まりください』

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