【#15】超大型
「あれ? 俺、何かやっちゃいました??」
「ん、全部セブンのせい」
視界の左下に現れた普段はあまり見慣れないログ。
どうやら俺たちでデザーディアンを討伐したことが原因らしい。
一体これから何が起こるというんだ。
ノータとセブンはまだ言い合っているし……セブンがボケて、ノータがツッこむ、二人は初めて出会った数年前から本当に変わらないな。
しかし、そんな思い出に浸っている場合ではないらしい。
「おい! あれ!」
いつの間にか砂嵐は晴れ、一面青空が広がる砂漠の景色。
視界を上にやると突如として出現した空中に浮かぶ真っ黒な紫色のオーラをこれでもかと纏っている相当大きな卵。
その周りをクロスを作るように巻かれている厳重な鎖。
次の瞬間、パキパキと音を響かせながらヒビが入っていく。
早く出たがろうとしているのか、割れる速度が尋常ではない。
「来るよ」
甚平の少女がすぐに警戒するよう伝えてくれている。
時間が経つたび、何か唸るような声が大きくなってきた。
真っ二つにひび割れた卵は役目を終えたかのように電子の波に消えていく。
ついにその姿を現したのは、燃え盛るようなオレンジ色と全てを飲み込みそうな黒色のラインが体中に流れている巨大な鳥。
卵同様、紫色のオーラを纏っている。
鎖に縛られ窮屈そうなそれは、大きく二枚の翼を広げ、弱まっている封印をいとも容易く解いた。
「ガアアアア!!」
長年の時を経て解放された災厄は此方を見るや否や黒炎を体の周りに滞在させる。
その巨大な炎の玉をこれでもかと放ってくるが、既に準備は万端だ。
目の前の未知なるモンスターに興奮している男、気怠そうな少女とそれとは相対的な元気な男はお互い健闘を祈るかのように散った。
ギリギリ視界に入るくらいか、同じ世界を冒険しているであろう者たちは近付いて来ている。
お前のレベルがどれだけ高かろうが、それを相手取るのはGHO2プレイヤーだ。
『"封印されし災鳥"ディザスターフェニクス Lv.3000』
『【全体ログ】超大型ボスモンスター討伐戦を開始します』
〇 でっか
〇 きたあああああ
〇 今すぐ向かいます!
〇 GHO2、粋なことをしてくれるじゃねえか
〇 お祭りお祭り!
〇 急げえええええ
〇 合法的に生レットさん見れるぞおおおおお
〇 サウザにいてよかったあああああ
〇 行きます!
〇 皆でやれるとか最高やん
〇 後方支援は任せろ!
〇 救護班行きます!
〇 Lv.3000だあああああ
〇 うおおおおお
〇 何だよこれは!!
まずは小手調べと行こうか。
頭上にある緑のバーは一本の上にさらに四本乗っていて、合わせて五本のバーを削り切らなければいけない。
今作から追加されたコンテンツ、まさに大人数を前提としたボスモンスターだ。
『形状変化(ディノスコート)』
二枚の翼で空を切り、災厄へと立ち向かう。
対象の十メートルほど離れた位置でピタリと止まり、腰を落とし前屈みになった。
近付いてきた蝿を落とすかのように大きな鳥は右翼を左に動かし薙ぎ払う。
『抜刀"暴食"』
その存在を前に小さく見える銀の龍は翼を一度羽ばたかせ一直線に喰らっていく。
体を貫き、背後についた捕食者は振り返るが、五本あるバーの一番上のゲージはピクリとも動いていない。
これでは例えこのまま百回当てたとしても一本分にすら届かないだろう。
しかし、当て続ける意味はある。
上空からだとよく見えるな。
そこには百人を優に超えようかというプレイヤー達が今にも駆けつけそうだ。
「これならいける」
そう呟いた俺は、つい不敵な笑みを浮かべてしまった。
その隙に直撃寸前の左翼が裏拳のように襲い掛かる。
災厄よ、残念だったな。
この戦いは一人じゃないんだ。
完璧なタイミングで隣に咲いた大きな花弁を持つ桜色の花。
その中から現れるは金鎧の男。
まるで示し合わせたかのようにその手には変化済みの赤い斧。
『形状変化(暴食刀)』
変化させた赤い鎌を両手で持ち、何も言わず渾身の一撃を同時に叩き込む。
『月喰らい』
『満月』
技の名を声に出し、上から下へと縦上の一直線で斬り裂く孤月状の斬撃と上から再び構えていた位置へ戻ろうとする一回転した満月状の斬撃。
まったく同じタイミングで放たれたそれは、巨大生物の態勢を大きく崩す。
ただで倒されるわけにはいかないと炎の玉を飛ばしてくるが、花に包まれた二人の姿は既にない。
これにはまったく動かなかった緑のゲージも動かざるを得ない。
一本分の二割程度だが、十分すぎる結果だ。
そして、ここで終わりではない。
空を飛ぶ大きな鳥が前方を俯くように態勢を崩している今がチャンスだと言わんばかりに全方位の遠距離から様々なものが放たれる。
投擲物、弾、まだ見ぬ力などが次々に直撃していく。
あのテコでも動かなかった体力ゲージが目に見えて減少する様は恐怖すら感じた。
その圧倒的な攻撃に堪らず地面へと落下したが、そこに待っていたのは刃、鈍器、何でもござれの激しい近接武器の猛襲。
同情はしない、何せ相手は昔
五本あったバーはそのうち二本が消滅し、残り体力六割といったところか。
態勢を立て直した燃え盛る不死鳥は近くにいた者を吹き飛ばし、怒るように声を荒げた。
吹き飛ばされたプレイヤーはその一撃で瀕死になり、再び起き上がるため蘇生待ちの状況だ。
瀕死になったプレイヤーはそのまま死ぬか、他のプレイヤーに起こしてもらう他ない。
救助に向かう者、攻撃を続行する者はそれぞれだ。
それでも、遠距離組には何の影響もなく体力を削り続けている。
止まない攻撃もあり、体力は今にも五割を切ろうとしていた。
しかし、次の瞬間には強者を選別するかのように、その場に立っていたプレイヤーは十名に満たないのであった――。
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