【#42】ゼロ

 ゼロ戦今回は零の輝きがある以上受け身になっては攻略が難しいだろう。

 であれば、此方から攻撃を仕掛け続ける。これでいくしかなさそうだな。


 左に携えた鞘を抑え、右手で柄を握り、腰を落としながらスキルモーションへ突入する。


 その瞬間、右隣に立っていたゼロ戦経験者のグランは隙を与えまいと先に動き出す。


 剣を抜き構え、草原を踏み締め飛び上がり、防具の固有アビリティと称号を用い、空中にて仁王立ちをしていた金色の龍の視線は光輝く男に釘付けだ。


 武器は砂漠ノ守護刀でもいいが、ヘシキリハセベこのままでいくか。


 真っ向勝負だ。


『抜刀』


 十メートル以上離れたゼロ目掛けて跳躍するが、一度では足りないな。


『固有アビリティ【浮遊】』


 踏み込んだ瞬間に発動することで、勢いそのままだ。


 金色の龍の左肩から右腰目掛けて直線状の一本の傷を付けながら、一瞬にして背後を取る。


 そこで上手かったのはグラン。


 次の瞬間、アビリティと称号を切る。


 ゼロ、いや、誰でもそうだ。


 傷を付けられれば無意識にそちらに視線を向けてしまうだろう。


 さらに、強制的に視線を向けていた影響か振り向く速度が尋常ではなかった。


 体ごと振り向いたゼロの背後に見えるは剣を右肩の上に振り上げた光鎧の男。


 此方を振り向いた一瞬を逃さず、振り下ろす。


 正面、背後から不意を食らってしまったゼロ頭上のバー、そのゲージは二割ほど減少していた。


 これなら――と思ってしまいそうだが、気を抜いてはいけない。


「くるぞ!!」


 声を荒げるグラン、彼にしか分からないモーションを読み取ったのだろうか。


 次の瞬間、金色の龍は八枚の翼と両手を広げ光輝かんとする。


 まずい、この近さは――急ぎ目を瞑るが、それでいても微かな隙間から差す金色の光。


 

 差し込んでいた光は途絶え、すぐに目を開こうとするが、意思とは裏腹にそのまぶたはゆっくりと開いていく。


「がっ!?」


 前方下からグランの声がする、グランは空中に居続けるアビリティやスキルはなかったはず。


「大丈夫か!?」


 すぐに瞼を押し上げると、視界に映ったのは――。


「なっ!?」


 な、何故ゼロが目の前にいるんだ!?


 塞がれた視界の端に見える微かな倒れた金鎧の影。


 グランを攻撃した後、まさか……いや、ゼロはそこまでの速度を持っていないはずだ。


 ……何だこの違和感、目の前にいるのはゼロのはずだが、少し違う感じもするような。


「もしかして、ランスロ……うっ!?」


 ゼロの右拳が腹を直撃し、左上の緑のゲージが三割ほど減少する。


「ハァ、ハァ、まだだ」


 表情を変えずに顔面へ繰り出される左拳の追撃、刀を手放し右腕を曲げ顔に持っていきガードするが、ゼロの拳の力は増していく。


 俺は耐えられず左へ体ごと弾かれすぐに体勢を立て直す。


 が、ゼロはその隙に体を時計回りに一回転させ放たれる強力な回し蹴りで追い打ちをかける。


 曲げた両腕を前に構え受け止めようするが、絶大な威力を誇る攻撃には無力だった。


 吹き飛ばされながら防具の急激な損傷に【浮遊】は一度切れ、その体は草原へ落ちていく。


 視界左上の体力ゲージは黄に変化し、残り三割といったところだ。


 地面に激突する瞬間、もう一度【浮遊】を発動し、ふわりと草に包まれた。


 GHO前作でのゼロはビームなどの遠距離攻撃と零の輝きを絡ませる攻撃方法だった。近距離攻撃、それも格闘なんて使ってこないはずなんだがな。


 それにあの回し蹴りは凄く見覚えがある、そうか、やはり。


 勝つのは俺たちだ。


 だが、お前を『"金色の究極体"ゼロ』としては終わらせない、『"円卓の騎士"ランスロット』として決着をつける。


 ランスロットを挟んだ先に見える起き上がった光鎧の男もどうやら同じことを思っているようだ。


「ランスロット、君が相手なんだね! 俄然がぜんやる気が出てきたよ!」


 しかし、以前頭上に表示されている名前は『"金色の究極体"ゼロ』、恐らく正式にランスロットと戦えるのは"第二形態"か。


『アイテム"回復薬"×2』


 アイテムボックスから右手のひらに現れた二本の試験管、その中に入っている緑の液体を飲み干すと左上のゲージは全快する。


 よし、まずはゼロの体力ゲージを半分以下にするところから始めようか。


 目の前を人差し指と中指で二度タップし、メニューウィンドウの上から二本目のバー『装備』を開く。

 表示されたウィンドウ右半分、装備ボックスの中から『砂漠ノ守護刀』を左半分に表示されている武器と入れ替えるようにドラッグ。


 頼んだぞ、砂漠ノ守護刀。


 この空間の広さと脅威的な素早さを手に入れたゼロに対して形状変化で捕らえるのは難しいだろう。


『砂刃』


 柄を握り、力強く鞘から引き抜くと発生する砂の刃。


 右上へ引き抜いた刀を左下に振り下ろすことでそれは二つ、また振るえば三つと数を増す。


 狐月状の刃は金色の龍目掛けて飛んでいく。


 此方を向くゼロは体を左にずらし躱そうとするが、意思に反してその視線は背後に注目してしまう。


『固有アビリティ【挑発】+称号【モットオレヲミテ】』


 光鎧の男の輝きは零の輝きに勝るとも劣らない。


 そして、ゼロが次に取る行動は――。


 八枚の翼と両手を広げ放たれる金色の光。


 その場の全てをリセットするかのように放った輝きは周囲を包む。


 砂刃は切り捨てたか。まあ、ゼロであればさほどのダメージはないのだろう。


 次の瞬間俺は刀を鞘に収め、目を瞑りながら地面を蹴り


 

 目の中へ微かに差し込む光が途絶え、再び瞼をゆっくりと持ち上げていく。


 そこにあった光景は未だ強制ヘイトを発動させる騎士、そして、その男の顔面を右拳で思い切り殴るゼロ。


 輝きが小さくなっていく金色の龍の背後に立つは、黒いロングコートを纏う冒険者。


『抜刀』


 鞘から引き抜いた刀は左腰から右肩目掛けて斬り裂いていく。


『砂漠斬』


 さらに、右手で握られた柄に左手を追加し、それは斬り裂いた箇所を逆になぞる。


【砂の主】


 砂が全てを教えてくれた。例えば、相手の位置とかな。


 二種の斬撃を背中に受けたゼロの頭上にあるゲージは黄になり、五割のところで停止する。


「レット、グラン、ありがとう」


 爽やかなその声にはどんな感情がこもっていたのだろうか。


「ぐっ」

「うわっ!?」


 ゼロから放たれる光りながら激しく吹き荒れる光風。


 それは、強制的に位置をリセットさせるかのように周囲の全てを吹き飛ばす。


 近くにいた者、足元に広がる草原でさえも。


 

 飛ばされた俺、グランの直線状、その中心に佇む先ほどまでの姿を残しながらも明らかに異なる風貌。


 その姿は、人間なのか、龍なのか、はたまた。


 第二形態となった『"金色の究極体"ゼロ』だった者の頭上にはこう表示されている。


『"超越騎士"ランスロット零』



〇 ん?あれ??

〇 ついていけないぞ?

〇 ゼロがランスロット??

〇 え?

〇 超越種のランスロットってこと?

〇 かっこよ

〇 これどうするの!?

〇 ランスロット零!?

〇 何だ、どうなってる

〇 こんなの初めて見た!

〇 超越騎士ていいな

〇 絶対やばいやつじゃん

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