【#41】原因

 俺の名はランスロット、スラム街出身の孤児だった。


 キャメロットこの街はとても栄えているが、それは、陽の当たる場所だけだ。


 少し道を逸れればそこには、盗みや暴力などが当たり前の世界が広がる。


 家と呼べるのか怪しい建物、廃墟、使えるものは何でも使っていく。


 空は明るいのに薄暗い、そんな中忘れもしない。


 あれは、七歳だった頃、俺はスラムで盗みを行っていた。


 スラムでの盗みは日常茶飯事、その日も生きるため一所懸命にパン屋の店主から逃れようと走る。


 捕まれば終わりだ、とにかく必死で、例え足が傷だらけになったとしても。



 走るのに必死で気付かなかったが、どうやら街に出てしまったようだ。


 そこは見慣れた薄暗い場所ではなく、晴天の下に広がる煌びやかな街。


 知ってはいたが、まさか、こんなにも輝いているだなんて。


 しかし止まってはいられない、店主の影は近付く、道なんて分からない、それでも走る。


 本当の街を駆け回るのは、最高の経験だった。


 そして、そこで俺は人生を変えるほどの運命の出会いを果たす。


 背後を追う影が見えなくなった頃、振り返り確認をする。


「よし、撒いたか」


 その時、振り返りながら歩いていたため、前方から現れた人影に気付けなかった。


 ガシャンと金属物とぶつかるような音を立てた瞬間、顔を前に戻す。


 目の前には金鎧の足、見上げるとそこには、そう、アーサーがいた。


 当時の俺はその人物がアーサー、王様だなんて知る由もない。


「あ、あの、ご、ごめんなさい」


「何だ、スラムのガキか」


 この時、アーサーから向けられた冷ややかな視線は忘れもしない。


「それは、盗んだのか、はあ、早く去れ」


 ここまでであれば、ただその場を去るだけだ。


 しかし、現実はそこでは終わらない。


「まあ、スラムの……」


「本当に汚いですわね」


「何でここにいんだよ」


「気持ち悪い」


 どうやら、スラム街出身者は、想像していたよりも嫌われているようだ。


「かーえーれ」


「かーえーれ」


「かーえーれ」


 子供には堪えられるわけもなく、その目からは涙が溢れた。


 体ごと振り返り、逃げるようにスラムに引き返す。


 走りながら俺の思いは、沸々と湧き上がる。


 アーサーへの怒りではない、この街全体への怒り。


 どうして、スラム出身というだけで……。



 ――そうか、全部一緒にしてしまえばいいんだ!


 そうすれば、これ以上俺と同じ思いをする人はいなくなるじゃないか。


 そこから俺は、強くなるために努力をした。


 八年後には、あのアーサーの下、見習い騎士として働くことができた。


 アーサーは気付いてなかったが、騎士として名を上げれば、自ずと力が手に入るだろう。



 レット、グランという必ず俺を超えるであろう冒険者とも出会った。


 ついに聖杯の話が持ち出され、俺の計画が最終段階に入ったとはいえ、彼らには申し訳ないことをしたな。


 もっと違う形で出会っていれば――。


 パーシヴァル、ガウェイン、ベディヴィア、トリスタン、モルドレッド、こんな俺と同等に接してくれてありがとう。


 ごめん、本当の俺はこの街を壊してこわしてコワシテ――。



 ◆



 人間より一回りほど大きい『"金色の究極体"ゼロ』、GHO前作では超越種と呼ばれ、確かレベルが八千オーバーだった。


 俺も戦ったことはあるが、その恐ろしさはグランの方が身に染みているだろう。


 出現してから空は金色に染まりつつあり、ここが別空間だとしても恐らく、時間が経てばその影響は他のマップにまで広がる。


 演出に近いだろうし、別空間といっても同じゲーム内だからな。


 これもゼロの影響か、先程から明瞭度が勝手に上昇し、眩しいというほどではないが、いつもと感覚が変わり違和感を拭えない。


 そして、ゼロといえばの有名な攻撃方法がある。


 正式名称は『零の輝き』だったか、円卓の騎士六人の体力がゼロになった理由はこれだ。


 文字通りゼロが輝きを放つ、それを視界に入れた者は、『攻撃力』、『防御力』、厄介なことに『体力』までもがゼロになる。


 基本的な対策として、目を瞑ることが有効。


 『体力』、『攻撃力』、『防御力』がゼロ状態、もし、パーティー全員が喰らえばGAMEOVERとなり、そこで全滅だ。


 レベルシンクが発生したとしても、どうやらその効力は変わらないらしい。


 さて、そんなゼロと今まさに戦うわけだが――。



 空を飛ぶゼロ、GHO前作と同じであれば、俊敏に駆け回るようなことはしてこないはずだ。


 動きながら『零の輝き』は使用できないので、急にその場で止まり出したら警戒しよう。


「グラン、いけそうか?」


「もちろん、大丈夫だね!」

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