【#2】隠しボス

 ソラノオホシサマが去った後、俺は鍛冶屋に来ていた。


「いらっしゃい。 どのような装備をご所望で?」


 先ほど入手した黒長狼ブラックエルダーウルフの素材をアイテムボックスから取り出す。


「これで刀を頼む」


「かしこまりました。 少々お時間をいただきます」


 待っている間、街中でも散歩するか。




「おらあっ!」


「ひいいい」


 何やら騒がしいな。

 声のする方へ振り向くとそこにはつちを持った男と槍を落として震えている男がいた。


 初日からPvPをしてる奴がいるとは。


 一方的な試合だな。


 今のところやるつもりはないが、PvPは配信として人気が出そうだ。



 さて、そろそろ武器が完成している頃か。




「こちら『黒狼刀こくろうとう』です」


 黒い刀身がキラキラとしていて綺麗だ。

 これは支給刀より何倍も斬れそうだ。


「ありがとう」


「またいらしてください」


 新しい武器が完成したことだし、また森へ行くか。



 ◇◇◇



 ボスモンスターを狩りたい、出現しそうな場所をあたるか。



 開けたところに出たな。


「ゴケエ‼︎」


 おっ、いた。

 初めて見るモンスターだな。

 今作から追加されたのだろう。


虎似鶏トラコッコ Lv.20』


 虎のような見た目に鶏のトサカがついてる。

 一応羽も生えているが、飛べるのか?


 刀を抜くと、虎似鶏がドスドスと音を立てながら走ってくる。

 羽を広げているが飛び立ちはしない。

 

 突進か。

 これなら左側に大きく飛んで一撃入る。


 虎といっても、モーションは鶏なのかもな。


 黒狼刀の初陣だ。


 刀を構え、右上から左下へと振り下ろす。

 キランッという音とともに右の背と腹を順番に斬っていく。


 今の音はクリティカルダメージが出たな。

 クリティカルが発生するとは、良い刀だ。


 体力ゲージが目に見えて減っている。


 今の一撃で警戒しているのかこちらの様子を伺う。


 ……どうするか。


 俺はモンスターに背を向けた。

 すると、ゴケエ‼︎ と叫びながら再び突進してくる。


 これだけモーションが単調なら全て躱せるだろう。




 クリティカルもあり、体力ゲージはあっという間に残り三割といったところか。


 終わりだ。


 俺は黒狼刀になり進化したスキルを使用するため姿勢を低くしながら刀を鞘に収め、もう一度突進してくるところを狙う。


『抜刀"三連"』


 ズバンッ! という音が三回響き、三本の傷がつく。

 虎似鶏は静止した後その場に倒れ消滅した。


『虎似鶏の素材を入手しました』


 虎似鶏こいつの素材は何に使えるか分からない、また鍛冶屋に寄ろう。


 その前に虎似鶏の肉という素材を入手していたので、焼いて食べることにした。


 味がするわけではないが、料理には一時的なステータス上昇などの効果がある。


 ちなみにGHOの調理には自信がある。

 前作では狩りの前によくしていたからな。


 ゲームを始めた時の支給でもらえる肉焼き道具を使い、焼いていく。


 ジュワアと音がなり、自然とよだれが垂れてくる。



 良い色に焼けてきた。


 後はタイミングよく肉焼き道具から離せば完成……今だ‼︎


 


 前作から勘が鈍っていなくて良かった。

 早速食べよう。


「いただきま……ん?」


 左下にログが出ているな。


【隠しボスモンスターの条件を達成しました】


 これはまさか……。


【暴食龍が飛来します】


 どうやら俺は、隠しボスの条件を達成してしまったらしい。

 空からとてつもない勢いで何かが降ってくる。


 それは、俺の目の前に降り立ち叫び出す。


「グラアアア‼︎」


『"つがいを喰らう"暴食龍グラトニードラゴン Lv.150』

 

 黒長狼の十倍のLv……また新規モンスターだ。


 銀色の体に四本足の肥えている龍。

 背に大きな二枚の翼を持つ。


 しかも『番を喰らう』という称号持ち。


 ボスモンスターにつく固有の名称なのだが、称号を持つモンスターは例外なく強力。


 暴食龍こいつとは初めましてだが、龍種のモーションならいける。


 四本足で地面を蹴り、暴食龍は凄まじい勢いで噛みついてきた。

 

 いきなり喰らおうとしてくるとは、一発でも当たったらアウトかもな。

 

 モーションは龍種俺の知るものとは違うが、単調だ。

 これなら簡単に躱せる。


 左側に避けるが、体が大きいためいつもより大きく避けなければいけない。

 暴食龍の右の懐に入り、右前足へ一撃入れる。


『抜刀』


 下から上へと思いきり斬るが、ギィン! という音とともに弾かれてしまう。


 硬いな……って、何だと⁉︎ 一撃入れただけなのに耐久値の減りが異常すぎる。


 耐久値がなくなると、手入れするまで攻撃力が著しく落ちてしまう。

 

 確かに弾かれると耐久値の減りは多くなる。

 しかし、この減り方はただ硬いだけじゃない……まさか、固有アビリティ持ち。

 そのモンスターだけが持つ能力だ。

 

 暴食龍こいつの場合、名前通りなら何でも喰らってしまいそうだ。


 耐久値も例外じゃないということか。

 

 しかし、そうなるとどうすれば……。

 

 うーん、一箇所だけ斬れそうなところはあるが、これはかなりのリスキーになる。

 それしか思いつかないし、やるしかない。

 

 暴食龍が力を溜めた後、地面を蹴り再び噛みついてくる。

 

 よし、ぎりぎりまで引き付けろ。


 狙うは口内。

 攻撃するときに口を大きく開けてくるところを、すかさず狙う。


 今だ‼︎


 キランッ! と音がした瞬間、刀を横に振る。


 深く斬れた感触がした。

 

 やはり口の中は柔らかい。

 耐久値がいつも通りの減り方だ。体力ゲージが目に見えて減少している。


 俺はこの戦法で、着実にダメージを稼いでいった。




 残り体力三分の一と言ったところか。

 

 その時だった。


「グオオオオオ!!」


 暴食龍は叫びながら体の形状を変化させ、肥えていた体は先ほどより明らかに細くなっていく。

 

 称号持ちは、出会った時の第一形態から条件下で第二形態へと変貌する。

 

 そして、第二形態は強さが増し、モーションが変わる。

 

 暴食龍はノーモーションで飛び上がり、炎の玉を吐いてきた。


 おっと⁉︎ 地面を蹴り右へ大きく躱すが、掠ってしまう。


 背後の地面は燃えているが、俺は大丈夫だ。

 

 空中でブオン! と翼を羽ばたかせ一直線に突撃してくる。


 これでは、口の中を斬ることが困難だ。


 ギリギリのところで右へローリングし、ピカン! と体が光る。


 危なかった。ジャスト回避を決められた。


 一発もらったら死ぬのにゾクゾクが止まらない。


 このヒリヒリ感……たまらない。


「行くぜ」


 刀を鞘に収め狙いを定める。今の俺には『抜刀"三連撃"』を当て続けるしか勝ち目はない。


 暴食龍は一度地面に降り立った後、炎の玉を足元に吐いてくる。


 俺はバックステップで躱し、下がりながらスキルモーションに入った。


『抜刀"三連"』


 少し前屈みになり着地した瞬間、左腰に携えた鞘から刀を振り抜く。

 それは一度に三回の斬撃だ。


 一瞬で暴食龍の背後につく。


 しかし、体を横に回転させ斬撃が当たろうがおかまいなしに突っ込んでくる。

 右前足を振り下ろし、次に左前足。


 これは、避けられない。


 俺の体を捉えようとした瞬間、まるで当たりにいくかのように左へジャスト回避した。

 続く左は地面についた右手と両足に力を込め、バックジャンプで躱す。


 避け続けたためか、暴食龍の攻撃モーションがさらに単調に感じる。


 そこからは俺のペースだった。




 ふう……体力ゲージ残り一ミリというところまで減らしたぞ。

 どこでもいい、あと一撃。

 

 口内が電子の傷だらけで白くなっている。

 疲れているのか、その速度は第一形態並みだ。


 お互い見合った後、先に動いたのは暴食龍。

 最後の力を振り絞り、全身全霊の突撃をしてきた。


「お前に俺は喰えなかったな」


『抜刀』


 顎から頭にかけクリティカルの斬撃が入り、振り上げた刀は弧を描く。


 上を向いた暴食龍は膝から崩れ落ち、消滅した。


 長かった戦いで刀の耐久値がギリギリだ。


『"番を喰らう"暴食龍の素材を入手しました』

『称号【龍殺し】を獲得しました』


〇 上手いですね

〇 チャンネル登録しました

〇 えっ⁉︎

〇 そんな条件で隠しクエスト出るのか

〇 参考になります

〇 初日でやば……

〇 これ無理だろ

〇 上手すぎ‼︎

〇 頑張れ

〇 参加いいですか?

〇 抜刀の視点えぐい

〇 うおおおおおおおおおお


 こんなにコメントが……嬉しいな。


 視聴者と登録者が増えている。



【#1】初配信

 100人が視聴中 

 『レットチャンネル』 10

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