【#49】晴と雨

「俺はレットだ。 呼び捨てで構わない」


「私はハル、宜しく。 そしてこの子が」


「あ、アメと申します。 宜しくお願いします」


 晴は明るいオレンジ色の髪で外にハネたボブ、力強いつり目、その瞳は黄緑色をしている。


 白のシャツと黒のパンツを着用していて、その上からは紺色のトレンチコートを羽織っている。


 雨は紺色の腰まで伸びるロングヘアー、おっとりとした目、その瞳は黄色。


 肩から足元まである青色のワンピースを着ている。


「宜しく頼む」



「まずは、突然ごめんなさい」


 真っすぐに此方を見ていた瞳は、申し訳なさそうに少し下を向いた。


「いや、大丈夫だ、気にしないでくれ。 話を戻すが、護衛というのは?」


「……レットは、ネットストーカーって知ってる?」


 晴は俯いた視線を上げ、真剣な眼差しで話し始めた。


「ああ、多少なら」


 ネットストーカー、"ネトスト"というやつか。


 文字通り、ネット上で後ろを追いかけたりとストーカー行為をすることだ。


「この子、雨がその被害に遭っているの」


 GHO前作ではあまり聞かなかったが、GHO2今作は人口増加、配信機能追加などがあり、そういった行為が起こりやすくなったのかもしれないな。


「ブロックや通報はしたのか?」


「それが、相手はプレイヤーネーム非公開で検索をかけられないようにしてた」


 確かにプレイヤーネームを非公開にされると検索には引っ掛からない……しかし


「周辺のプレイヤーからは?」


 周辺プレイヤー一覧からであれば、非公開プレイヤー含め表示されるはずだ。


「……範囲に入らないの。 しかも、最初に姿を見た瞬間から身を隠すモノまで使ってくるようになって」


 範囲に入らない、つまり、晴と雨の位置を常に確認しながら移動しているという点で配信をしていた場合ゴースティングも疑われる。


 それに加え、装備やアイテムで存在を認識しづらくしているとは。


「運営への問い合わせも終えたか?」


「それだけは実害を受けていないからやってないの」


 被害を受けているとはいえ、証拠になるようなものがないと運営としては対応しづらい場合がある。


 ストーカー行為に及んでいるプレイヤーはある意味、手練れというわけか。



「……分かった。 話してくれてありがとう」


 一GHOプレイヤーとして、晴と雨にはGHO2このゲームを心の底から楽しんでほしい。


 俺に何ができるのかは分からないが、少しでも力になれたのなら。


 ここで断れば、ノータに毒を吐かれ、サタンを悲しませてしまい、グランには失望されてしまうだろうな。


 そして、まだ出会えていないが、俺も初めて会った時のサヤのように。


「護衛の話、俺でよければ引き受けた」


「いいの? 私がレットを騙している可能性だってあるのに」


「ああ、何たって俺はレットだぞ? なんてな、「」といって雨を巻き込まないようにする晴を信用しない方が無理だろう」


「……ありがとう」


「ありがとうございます。 晴も私の代わりにありがとう」


「ううん、よかったね雨」


 晴と雨は涙ぐみながら、ホッとした表情を見せた。



 ◆



「俺は正面を切る! 晴、雨、左右を頼む!」


「分かった……って、何でこうなるのよ!」



 ――話が纏まり、まずは、お互いのステータス確認した。


――――――――――――――――

名前……《晴》


武器……《アンレイン》

防具……《晴天衣せいてんい


体力……《2600》


攻撃力……《1500》

防御力……《1600》


称号……【晴空】

――――――――――――――――

――――――――――――――――

名前……《雨》


武器……《アンサニー》

防具……《雨天衣うてんい


体力……《2600》


攻撃力……《1500》

防御力……《1600》


称号……【雨空】

――――――――――――――――


 これは、装備と称号を上手く絡めたGHO2今作ならでは、グランに似たタイプだろうか。


 晴は晴れにちなんだ装備、雨は雨にちなんだ装備一式で固めている。


「やっぱレットの装備は凄いね、凄いニヤニヤしてるけど……」


「ああ、すまない。 二人とも面白い装備をしていると思ってな」


「は、晴と一緒に作ったお気に入りの装備なんです!」


「それは、早くこの目で拝見したいもの……あ!」


「どうしたの!?」


「晴と雨は、ファンタズマこのマップに来てどれくらいなんだ?」


「き、昨日からで、丁度一日経ったくらいでしょうか」


「て、ことは……道案内を頼んでもいいか?」


「「え?」」


 

 ――てな感じで、クエストリストにあった《幽鳥ゴーストバード》の討伐に向かい、絶賛戦闘中だ。


「はああっ!」


 薄灰色をした三メートルほどの鳥、その体は幽霊のように揺らめく《幽鳥 Lv.360》。


 今まで戦ってきた鳥型モンスターとモーションは変わらないが、実体のない、幽体というのだろうか。


 背後が確認できるほど透明な体は厄介だ、恐らく攻撃がすり抜けてしまう。


 鞘を抑え柄を握る、腰を落とし前屈みになると、煌めくオーラが体に滲み出す。


 地面を蹴り、一瞬にして羽ばたく幽鳥の背後を取ると、スキル《抜刀"煌"》は、暗闇に自ら発した二本の煌めきの道を作り出した。


 上下に動いていた翼は停止し、空中に保てなくなった体は地に落ちる。


 頭上にあった横棒は、緑、黄、赤へと瞬時に変化し、幽鳥は光の粒子となり弾け、霧散した。


「……ちょっと! 私たちいらないじゃない!」


「いいとこ見せたかったのに……」


 空中で静止後、再び地面を踏んだ男の元には、左側に跳躍したオレンジ髪の女性と右側に跳躍した紺色の髪をした女性がじりじりと詰め寄る。


「す、すまない。 まさか、幽体まで斬れるとは……」


 お化けの弱点は聖属性だ。なんていうが、それなのか?


、私たちに花を持たせてよね」


「りょ、了解しました」


 《聖刀エクス》、もしかして、俺が思う以上の性能を持っているのか。

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