【#48】園内

 巨大お化けに食べられ口の中を十歩ほど進んでいくと、歩みを一度止めさせる改札口を彷彿とさせる入退場ゲート。


 フラップドアは既に閉じた状態で入場に必要なものはどうやら入場料ではなく、GHO2この世界のプレイヤーであるということだけだ。


 囲まれた暗い空間から一気に解放されそこには広大で煌びやかな世界が広がっていた。


『ようこそ、幽霊の遊び場ファンタズマへ!』


 どこからともなく流れる爽やかな女性の声、出迎えるのはメンダコのようなデォルメされた白い巨大お化け。


 もしかすると、幽園地このマップのマスコットキャラクターなのだろうか。


 ゲートを越え最初に踏む園内の一角、エントランスの中央に置かれ、周辺には淡く光るカボチャランタンが足を引っ掛けない配慮なのか隅の方で点々と転がっている。


 その背後には、コーヒーカップ、メリーゴーランドなどあるが、一際目を引く観覧車。


 下から見ているからか満月に届きそうな高さだ。


 右手側には振り子のように揺れる船や棒に繋がれた空飛ぶ車、左手側には上に着くと急降下するフリーフォール系や遊園地の目玉と言っても過言ではないだろうジェットコースターがある。


 レールは様々なアトラクションの上やそばを走るようにうねり伸びているので、探索含めて最初に乗るのもいいかもな。


 どれくらいの速度を出すのかは知らないが。


 他プレイヤーは最初の街ルーポ砂漠の街サウザに比べれば多いとは言えないが、このマップの位置という視点で見れば多いのかもしれない。


 キャメロットに隣接するマップなので、まだ出会えていないが、例えばモンスターのレベルは小型でも高そうだ。


 アトラクション群の奥側、何本かそびえ立つビルはホテルだろうか。


 ここでふと一つの疑問が頭を過る。


 ……ファンタズマこのマップにはクエストが存在するのか?


 プレイヤーの観光専用マップかもしれないが、見て回らない限りは何も分からないよな。


 まずは、アトラクション間に見えた『SHOP』という看板が掛かった建物に入ってみるか。


 


「いらっしゃいませ」


 縦長で正方形の店内にベージュ色の木床、左右の壁一面には棚、中央には円形の両面棚が配置してある。


 左側の棚にはメンダコお化けのぬいぐるみ、初めましてのキャラクターぬいぐるみなどが並べられていて、右側は恐らく回復アイテムであろうお菓子や被り物なんかも。


 三百六十度商品を置ける円形の棚は、ピアスや用途不明のアクセサリー類が所狭しに陳列されている。


 そして、円形棚の横を通り過ぎると二台のレジカウンターが横並びにあり、そこには、耳が垂れた狼の被り物をした茶髪のお姉さんと同じく耳が垂れた黒猫の被り物をした黒髪のお姉さんが立っていた。


 ……レジカウンター……カウンターか、もしかすると、ダメ元だが声を掛けてみるか。


「すみません」


「どうされましたか?」


 狼帽子のお姉さんは商品を持たない俺を不思議な顔一つせず、にこやかな表情で聞き返してくれる。


 そのためか、言い淀みそうな言葉を間違えても問題ないと次の瞬間には自然と発していた。


「クエストはありますか?」


 ん? 言ってみて気付いたが、言い淀む方向性が違うの、か?


「クエストですね、ありますよ!」


 今回は間違えてしまったが、気分は清々しい。


 いくらゲームと言えど、これだけリアルだとNPCに対しても恥ずかしさというものがな、だが、店員のお姉さんのお陰で次もいけそうだ……って……あるの!?




「こちら、クエストリストです」


「あっ、あっ、ありがとうございます」


 危ない危ない、スカーレットではなく一彩ひいろが出てしまっていた。


 遊園地に一人で行くという現実にありそうでありえないシチュエーションがそうさせているんだろうか。


 ああ、これは俺自身の話であって、一人で行ける人は尊敬するというか…………。



 気を取り直したところで、クエストリストを確認しよう。


 本型のクエストリストか、キャメロットでは板に貼られていたな。


 『幽涅ゴーストスライム Lv.120×5の討伐』、『幽蝙蝠ゴーストバット Lv.340の討伐』、特殊なクエストを受けすぎて感覚が狂ってしまうが、でこのレベルはかなり高い。


 通常のレベルが高ければ、隠しボスのレベルもそれだけ高くなるので期待できそうだ。


 まだ何も手掛かりを掴んでいないが。


 受注可能クエスト数は空いてるし、取り敢えず受けられる分だけ受けておくか。


 必要になったら整理すればいいしな。


 一ページずつ詳細に書かれたクエストをタップすると受注され、それは自身のウィンドウへ転送、『クエスト』のバーからいつでも閲覧可能だ。


「ありがとう」


「頑張ってくださいね!」


 心地よい店内を後にし、早速受注したクエストを進める。


 クエストが一段落したら今度は何か買おう。


 しかし、そうなると一人であの漆黒を探索することになるのか……頑張れ、俺!


「ねえ、ハル、やめようよ」


「アメ、私たちは困ってるの!」


「だけど、忙しいだろうし、売名とか言われるだけだよ」


「はあ、あんたの登録者数なら売名にならない! はず!」


 ……何だ? おっとりした女性の声とハキハキした女性の声が聞こえる。


 揉めている、というか、此方に近付いて来ていないか?


「ねえ、あなた。 レットでしょ!」


 声の主たちは横を通り過ぎず、背後でピタリと止まった。


 体ごと振り返ると、そこには二人の女性プレイヤーが立っていた。


「……そうだが」


「私たちの、いえ、この子の護衛をしてほしいの」



〇 誰だ!?

〇 レットの知り合い?

〇 ファンガか!?

〇 ファンタズマにいる時点で強い、よな

〇 急展開

〇 レットも配信者らしくなってきたか

〇 あれ、この右の子って

〇 とつられた、感じでもないな

〇 何が始まってしまうんだいこれは

〇 女の子助かる

〇 俺くしもレットに守られてえよ

〇 いつもと違う展開来るか

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