第四章

【#47】幽園地

 人差し指と中指で何もない眼前を二度タップすると、紫に近いピンク色をした十九インチほどの長方形ウィンドウが表示される。


 左端から連なる文字を読んでいくと、一番上には『アイテム』と書かれたバー、そこから下に積まれるように一段下『装備』、二段下『スキル』、さらにその下『ステータス』をタップ。


 すると、既存ウィンドウの上に一回り小さなウィンドウが重ねられる。


 ここまでの動作を省きたい場合、周りの目が気にならないのであれば『ステータスオープン』、そう唱えることで一連の流れをショートカットすることも可能だ。


名前……『レット』


武器……『聖刀エクス』

防具……『サムライコート(階級:武将)』


体力……『4100』


攻撃力……『8500』

防御力……『3200』


称号……【円卓の騎士】

切り替え可能:【龍殺し】【沼の王】【砂漠の英雄】【孤高の英雄】【妖を祓う者】【妖術操作】【Sランク冒険者】


 『"超越騎士"ランスロット零』との戦いで手に入れた新たな武器と称号、『聖刀エクス』、【円卓の騎士】、【Sランク冒険者】。


『聖刀エクス』

・攻撃力+8500

・固有アビリティ【煌めき】

・形状変化(【円卓の騎士】により解放)


 この前は表示すらされていなかった『形状変化』だが、称号【円卓の騎士】によって解放され使用可能となった。


【円卓の騎士】……自身の攻撃力を1.05倍する(他のパーティーメンバーの中に【円卓の騎士】を持つプレイヤーが存在する場合、自身ではなく【円卓の騎士】を持つプレイヤーに変わり、この効果は重複する)。聖剣を装備している場合、秘めた力を解き放つ。


【Sランク冒険者】……この世界の全区域に行ける。


 【Sランク冒険者】は戦闘面においてはまったく役に立たないが、こと探索面において絶大的な力を発揮するだろう。使用してみないと分からないが、クエスト進行のみで解放される区域なんかも手順を無視して入れるのだとすれば俺にとってはとても助かる。隠しボスまでの流れに重きを置くノータに見せたら怒られるだろうな。


 形状変化はまだ使用していない。その時までのお楽しみだ。


 と、まあ、ステータスの紹介はこんな感じか。


 ウィンドウの枠外を二度タップすると、表示されていたプレイヤー情報が閉じられ、その視界は目の前にある次のマップを見据える。


「いよいよか」


 そう呟き、期待に胸を膨らませながら一歩、また一歩と地面を踏み締めていく。


 マップの境界線を通過すると、天から垂れる透明のベールには水面を叩いたような波紋が広がり、草原だった足元は土に青空は満月の夜空へとその景色を大きく変化させた。


 俺が最初に立っていたのは、月明りと街灯に照らされ十分な視界が確保された石畳の街道。


 それに加え、暗い場所では視認性を保つためゲームシステムが自動的に協力してくれる。


 暗がりを楽しみたいのであれば、設定をオフにすることもできる。


 街道と言ったように、街灯は前方微かに映る、恐らくこのマップの拠点まで等間隔に続いているようだ。


 周辺は右も左も漆黒が続き、葉のない木がまばらに生えていて、道を逸れるのはとてもじゃないが気が進まない。


 もしかして、マップの入り方によっては街道ではなく何もない漆黒からスタートなのか? そ、そんなことない、よな?


 そんなことを頭に浮かべながら、「よかった」と心の中でホッと溜息をつく。


 決して暗がりが怖いというわけではない、モンスターが現れるのであれば万々歳だ。が、この雰囲気は非常に嫌な予感がするんだ。


 お、化け、なんて、非科学的……そんなものは……。




『ライドモンスター召喚』


 ショートカットを行うと、地面に映し出された灰色の魔法陣、そのサークル内から頭部、背中と次々あらわになっていく灰色の影。


「アオン」


 プレイヤーが乗れるよう通常の狼よりも一回り大きい風を纏う体、移動用ライドモンスター『疾風狼スピードウルフ』。すまないが俺を早くこの場から移動させてくれ。


 左手で疾風狼の背を抑え、地面を蹴り軽く跳躍し、跨る。


「宜しくな」


 街道を駆け、拠点を目指す。



 ◆



「ありがとう」


『戻れライドモンスター』


 街道が途絶え、目の前には白く巨大なメンダコ、のようなお化けがギザギザの歯並びを見せ口を開けている。


 開いた口は大人三人が並んだとしても縦横ともに余裕がありそうだ。


 その先は月明かりにも負けないほどの煌びやかさで眩しいくらい。


 口を開けたお化けからそれらを囲むよう横に伸び連なる黒い柵、そこから生える上を向いた矢印が真っすぐだったり斜め、S字と歪に並ぶ。


 視界を上に向けると、宙に浮かぶ看板。ポップな文字がネオンに光り、『PANTASMA』と書かれている。


 ここが、このマップの拠点。


 そして。



幽園地ゆうえんち ファンタズマ』



 怖くなければいいが、一体何が待ち受けているのだろうか。



〇 新マップだあああ!

〇 ファンタズマきたあああ!

〇 知らない、初めて観るな

〇 遊園地楽しそうだ

〇 ホラーですか?

〇 お化けって身構えたけど、メルヘンでよかった

〇 う、後ろ! なんて

〇 た☆の☆し☆み

〇 また誰かと出会うんだろうか

〇 はい、今日も長丁場になりそうです

〇 今までのマップとは全然雰囲気違うぞ

〇 頑張れえええ!

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