【#36】兆し

「依頼のゴブリンを討伐してきたんだが」


「僕もね!」


「お疲れ様です。 では、討伐証明として、素材をお貸しいただいても宜しいですか?」


 アイテムウィンドウの中からゴブリン(ジェネラル)の素材を選択し、ピンク髪の受付のお姉さんに渡す。


 これは、耳の部分か。


「これでいいのか?」


「はい、随分とでかいですね?」


「耳だけ異様に発達したゴブリンだったんだね!」


「そうなんですか……あまり聞いた事はないですが、確認して参ります。 少々お待ちください」


「ああ」




 受付カウンターの横で待機していると、お姉さんが戻ってきた。

 しかし、先程とは様子が違い、とても驚いた表情をしている。


 まさか、依頼を失敗してしまったのだろうか……。


 俺達は再び受付の前に立ち、少し焦りを見せながら説明を聞いた。


「……え、えっと、あ、あの」


「もしかして、依頼を達成できなかったのか?」


「えっ⁉︎ 僕達は確かにゴブリンを討伐したよ!」


「え?」


「ん?」


 どうやら俺とグランには、依頼内容について相違があるようだ。


 グランは、ジェネラルがそもそもゴブリンだと思っているみたいだな。


 ゴブリンジェネラルあんなのが何十体も現れたらかなり面倒だが、GHO前作でレベル四桁後半を狩っていれば、疑問には思わないのかもな。


「いいですか?」


「ああ、すまない。 続けてくれ」


「レットさんとグランさんが討伐したのは、確かにゴブリンでしたが……素材これってジェネラルのですよね⁉︎」


「そうだね! ジェネラルだと何か問題があるのかい?」


「い、いえ! ゴブリンジェネラルといえば、Bランク冒険者がパーティーを組んで受ける依頼ですよ⁉︎」


 おかしいとは思っていたが、まさか、Eランクから三つ上の依頼だったとは。


「そうなると、俺達は依頼を失敗したということか?」


「い、いえ! ごく稀にいらっしゃるのですが、今回の場合はゴブリンの上位種ジェネラルということで、問題はないです」


 ふう、よかった、これでEランク依頼のゴブリン討伐を達成できたな。


「問題ないと言ったが、他に何かあったりするのか?」


「まずはこちら、今回の報酬になります」


 あれ? 急にNPC感が増したな。

 既に、会話のルートが確定しているのかもな。


「これ、依頼達成金1000ゴールドより、明らかに多くないか?」


「はい、ジェネラルを討伐されたので上乗せさせていただきました」


「そうなのか、ありがとう」


 さて、依頼を達成したことだし、次の依頼でも探すか。


「そして」


 俺達が受付から離れようとしたその時だった。


 まだ何かあるというのか……。


「特例により、Eランク冒険者レット及びグランは、Cランク冒険者へと昇格します」


「なっ!?」


「わおっ!」


 EからCまで飛び級するとは、それだけゴブリンジェネラルが脅威だったというわけか。


 これは嬉しい誤算だ。


 冒険者ランクが上がれば、それだけ強いモンスターと出会いやすくなるからな。



「おいおい、さっきから話を聞いてりゃゴブリンジェネラルを討伐しただあ?」


 振り返るとそこには、スキンヘッドで無精髭を生やした筋肉質の男性NPCが歩み寄ってきていた。


「Eランク冒険者如きがよお、どーせ、汚い手でも使ったんだろお?」


 ……これは面倒だな、まあ、関わらないのが一番だろう。


「グラン、行こうか」


「そうだね!」


 俺達はその男の横を素通りし、ギルドを出ようとした。


「無視すんなよ、ガキが!」


 顔を右に向けると、視界の端には怒号を上げながら、大きく拳を振り上げているのが見える。


 ……素手でそのまま殴るのか⁉︎


 いくら何でもそれは無理があるだろう。かと言って、俺から手を出すわけにもいかないしな。


 すまない、ご愁傷様だ。


「うおらあああ!」


 振り下げた右拳が直撃した瞬間、衝撃は一切伝わることなく、ゴンと鈍い音のみが響いた。


「ぎゃあああ⁉︎ お、俺様の右手があ⁉︎」


 そりゃそうだ。

 防具を何の強化もない素手で殴るなど、普通ではありえない。



 完全なる自業自得なので、特にそれ以上は関わることなくギルドを出た。


「何なんだったんだろうね!」


「さあ、色んなNPCがいるんだろうな」


 あ、依頼受けるのを忘れたな。


 今は自業自得男あいつがいるし、一度街でも探索するか。


 冒険者ランクを上げることは隠し要素の近道になるかもしれないが、他のアプローチもあるだろう。


「レット、俺達にお客様みたいだよ?」


「どういうことだ?」


 グランがそう言うと、明らかに視線を此方へ向けながら、建物の屋根伝いに走る男。


 そして、一番近くの屋根を蹴ると、目の前に着地する。


「すまない、君達がゴブリンジェネラルを討伐した冒険者かい?」


 何故ゴブリンジェネラルを討伐した事を知っているのかは気になるが、この際置いておこう。


 黒髪ショートヘアで身長は平均くらい、穏やかな目をした爽やか好青年という印象。

 首元から足先まで水色の鎧を纏っているその姿は、この地がキャメロットということもあり、まるで――その答えは頭上に表示されていたようだ。


『"円卓の騎士"ランスロット』


 この人はノブナガ以上の実力を持つのかもしれない。


〇 誰!?

〇 かっこよ

〇 強そう

〇 かっけえええ

〇 イケメンが三人も!?

〇 会いたい!

〇 条件何だこれ

〇 これから一体何が……

〇 円卓の騎士ということは!

〇 レト×グラ×ラン期待

〇 NPC熱いな

〇 キャメロット楽しそう

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