【#39】諦めない心

 ウナルケモノあいつの全てを恨んでいるような目を見れば既に討伐するしかなさそうだが、さて、どうしたものか。


 まずは、その縦に生える長い脚を斬り崩してみるか。


『抜刀"火縄"』


 鞘に収め直した刀を引き抜き、火縄銃の如くそれは、左前脚目掛けて放たれる。


 弾丸状の黒い斬撃は何にも邪魔されることなく直撃するが、体力ゲージの減少は一割にも満たない。


 硬いな。これは、体力が多いのか防御力が高いのか早めに見極める必要がある。


 取り敢えず次のスキルを――。


「レット! 上だ!」


 背後にいるグランは焦り混じりの声で言う。

 見上げると、そこには蛇の口を裂けそうなほど大きく開き、紫色の玉状が何かを溜めて放とうとしている。


 何だあれは……。それは、思考する間もなく無数の光線ビームとなって降り注ぐ。


 何本もの棒状の光線には対象などなく、周辺に存在するもの全てを破壊していく。


 木々、地面、そして、プレイヤー。


 一つ避けるとその先に二つ目、三つ目と攻撃へ転ずる隙を与えない。


 なかなか終わらないが、降り止むまで待つしかないのか。


 大きく開いていた口は徐々に閉じていき、光線の終わりを知らせるようだ。


 次の溜めモーション時にスキルを叩き込んでやる。


 だが、その考えはすぐに打ち砕かれ、閉じかかっていた口は再び大きく開くと、紫の玉は復活する。


「なっ⁉︎」


 無尽蔵までとはいかないと思うが、いつ止むかなど分からない。


 近付きたい場所があるが、そこまで無傷で辿り着けないだろう。

 そもそも、体力が保つのか。


 一瞬雨は止むが、再び降り始める。


「レット! 僕がいるよ!」


 そうか、グランであれば、光線の矛先を全て自分に向かせることができる。

 

 そして、グランであれば、その光線を全て躱すことができるだろう。


「ああ! 頼む!」


『固有アビリティ【挑発】+称号【モットオレヲミテ】』


 金鎧が輝き出すと、降り続く雨はグランへの集中豪雨に変わり、俺の頭上には晴れた空が広がる。


『固有アビリティ【浮遊】』


 地面についていた足は、空を踏み、ふわふわと無防備なウナルケモノの頭上まで浮かび上がる。


 金鎧の男は横に降り注ぐ光線を躱しながら、躱しきれないものを剣で弾き返し、一のダメージも受けていない。


 獣は俺など眼中になく、その視線はグランに釘付けだ。


 頭上に立った俺は、開いた口を閉じるようにスキルを放つ。


『刺突"火縄"』


 狙いを定めたところに両手で持ち上げるよう構えた刀を突き刺す。


 強い衝撃とともに、蛇の上顎に当たる部分はがくんと下に閉じ、蛇の頭は俯く。


 だが、口が閉じても、光線は未だ降り続けようとする。


 頭上を蹴り、離れると、口いっぱいに膨らみ行き場を失った力は爆発した。


 紫玉の弱点は、一度放たれると光線は打ち切るまで止まらないということだ。


 常に無数と降り注ぐので、口を開き直そうとするまで待ってはくれない。


 そして、体力ではなく防御力が高いが、顔と尾、蛇の部分はそうでもないみたいだ。


 緑だったバーは黄へと変わり、ゲージの五割以上が削れただろうか。


 もう一押しだ、このまま蛇の部分を攻撃し続ければいける。


 次の瞬間、ウナルケモノは大きく口を開き、再び溜めモーションへ入り、紫の玉を生成していく。


 それであれば、もう一度同じことを繰り返すのみだ。


 頭上に戻り、両手を持ち上げるように刀を構え、スキルモーションに入る。


 終わりだ。


『刺突"火縄"』


 強力な一撃が蛇の上顎を突き刺す――はずだった。


「おわっ⁉︎」


 学習したのか、首を素早く引き躱すと、突きは地面へと一直線に向かっていく。


 避けられたが、ウナルケモノこいつは先程から何故光線ビーム


 躱せるのであれば、既に放っていても問題は――まさか⁉︎


 その瞬間、紫の玉が光り出し、一瞬にして一本の光線が放たれた。


 まだ、挑発をしているのであれば……。


「グラン‼︎」


「ああ、油断していたよ。 ……右腕が持っていかれたね」


 反応はしていたが、紫色の光線はグランの右腕に直撃し、腕を覆っていた鎧は砕かれ、中に着ていた黒いインナーウェアの袖はボロボロに破けて素肌を見せる。


「くっ、すまない」


「右腕の鎧は砕けてしまったけど、僕はまだ戦えるよ!」


 まったく、頼もしい限りだ。


 刀を右上に構え、振り下ろすと発動するスキル。


『飛刃"火縄"』


 蛇の開いた口目掛けて弾丸状の斬撃が放たれる。


 獣は斬撃を撃ち落とすために一発の光線を放ち、相殺された位置で煙を上げる。


 だが、煙の中であれば一撃入るはずだ。


 刀を鞘に収め、左手で鞘を押さえ、右手で柄を握りスキルモーションに入る。


『抜刀』


 その一振りはただ力を込め敵を斬る。


 それ故に、威力は武器依存になるがヘシキリハセベこの武器であれば絶大だ。


 煙の中を突き進み、抜けたところで顔を斬――。


 目の前に待っていたのは、大きく口を開けた蛇の顔。


 ……何故だ……蛇……まさか……ピット器官か⁉︎


 赤外線を感知するという蛇が持つ器官か。


「これは、直撃だな」


 光り出していた紫の玉は光線を放つ、これだけ近ければ、挑発は意味を成さないだろう。


「まだだよ!」


 瞬きを入れると、紫の光線が見えていた視界は剣で遮られる。


『称号【妖術操作】』


 通り過ぎようとしていた剣を妖術で包み込むようにその場で止め、光線は剣を弾くとともに自分自身も弾かれていった。


「今だ‼︎」


「……ああ‼︎」


 俺の周りはもれなくとんでもないセンスを持っているな。


 ありがとう。


 どうやら、俺も諦めてはいなかったらしい。


 握り続けていた刀を引き抜き、紫の玉を狙い、一瞬にして頭部まで斬り裂く。


 頭部から離れつつ振り返ると、強大な力の塊は、外部から力を加えられ、爆散しようと膨らむ。


「グゥゥゥゥゥ⁉︎」


 紫の玉は爆発し、ウナルケモノは巻き込まれ、頭上のバーは黄から赤に変わり、やがてゲージはなくなった。


 大きな体は、無数の光の粒となって消え、戦いは終わる。


『"悲劇の結末"/"成れの果て"ウナルケモノの素材を入手しました』

『クエスト進行専用称号【見守る者】を獲得しました』



〇 お疲れ!

〇 乙

〇 ナイス!

〇 うおおおおお

〇 おつ

〇 神連携

〇 全然動かないのに脅威だったな

〇 あんなビーム避けられないよ!

〇 クエスト進行専用称号⁉︎

〇 結局ウナルケモノ倒さないとなのか?

〇 これ倒さないとマジか

〇 さあさあさあ、次は何が起きるんだ!

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