【#29】unknown

『五英雄』


 それは、GHO前作に存在した最も強いボスモンスター五体を初めて討伐した者に贈られる名誉。


 パーティーを組んで討伐した場合は、その中の代表者に贈られる。


 五体のボスモンスターは超越種とも呼ばれ、その全てが四桁後半のレベルを持つ。



『"天翔ける龍"ソラノオホシサマ』を討伐したアンノウン。


 白く、蛇のような体を持つ巨大な龍。


『"永久凍土に棲う神獣"フェンリル』を討伐したサヤ。


 美しい白銀の毛をなびかせる巨大狼。


『"金色こんじきの究極体"ゼロ』を討伐したグラン。


 金色の体に、翼が八枚生える人型の龍のような存在。


『"楽園の番人"アダマンタイトゴーレム』を討伐したセブン。


 楽園への道を守る緑色を基調とした巨大ゴーレム。


『"殺戮さつりく魔人"アコジゴ』を討伐したサタン。


 黒い甲殻を全身に纏う魔人。

 アコジゴが君臨するマップには、他の生物は一切存在しない。



 前作でのサタンは、大魔王と呼ばれ、装備の影響で戦闘中のみセクシーなお姉さんになっていたな。

 男の子とは言われているが、一応魔王なので、正確な性別までは決めてないのかもしれない。


 以上が、五英雄、そして、超越種の名だ。




『声帯認証中……声帯認証99%一致 過去データ検索中……我々の世界を救った五英雄の一人"□□□□□"と断定』


『これにより、英雄名"□□□□□"の装備が召喚されます』


『一度限りとなりますが、宜しいですか? YES/NO』


『YES』


『承諾されました 英雄名"□□□□□"の装備が召喚されます』


 承諾した次の瞬間だった。


 空がピカッと光った直後、黒い稲妻が走り、俺へと直撃する。


 雷は鳴り続け、時間が経つにつれて全身が懐かしい感触で包まれていく。


『召喚完了 ご武運を』


 新たに左へ携えられた刀を抜き、右へ振り払う。


 覆っていた黒き雷は消え去り、一瞬、全てを斬り裂いたかのように音が止む。


 静寂の中、それはついに姿を現した。


 携えた鞘は黒く、右手には切っ先から兜金まで真っ白な刀。


 水色に光るラインが入り、筋肉の形を浮き上がらせた漆黒の近未来を彷彿とさせるパワードスーツを着用し、腰回りから翼を模した下に伸びる布。

 その背には、二枚生える漆黒の翼。

 顔全体を覆う漆黒の仮面、黒い髪が白く染まり、後ろ側へ逆立つ。

 

英雄名……『□□□□□』


武器……『天翔刀』

防具……『羽バタク堕テンシ』


体力……『不明』


攻撃力……『不明』

防御力……『不明』


〇 は!? え??

〇 レッ、ト、さん?

〇 この姿って……

〇 アン様!?

〇 アンノウンだ!?

〇 突然どうしたんだ!?

〇 え、あ、えあ、アンノウン!?

〇 どぅ、え、は、え、は?

〇 どゆこと!?

〇 分からんけど、これは紛れもないアン様だ!

〇 マジで!? うわ、やば、やばい

〇 見間違えるはずもない、本物だ!よな?


 ドローンカメラに映されたその者は、今作になり完全に姿を消していた伝説。


 そして、これがGHO前作においての最終装備だ。


『ログイン完了』


《よお、相棒! 久しぶりだな》


「ああ、久しぶりルシファー」


 『"堕天使"ルシファー』、白髪マッシュヘアに漆黒の鎧で身を包み、その背から黒き翼が四枚生えるENPCエネミーノンプレイアブルキャラクターの天使だ。


 □□□□□の防具、『羽バタク堕テンシ』はアシスト用の人工知能を持つ。

 それは、知能があり、尚且つ言語を扱うことができるエネミー装備一部のみに与えられる。


《相手は――成程、俺たちなら余裕だな》


「ノブナガは相当強いんだがな」


《ははっ! お前、もしかして苦戦してたのか!? 腕が鈍ったんじゃねーの?》


「そうだよ、悪かったな」


《ま、俺とアンノウンお前が揃っちまったら、ソラノオホシサマでさえ――》


「ああ、それは後にしてくれ。 今は前を見ろ」


《お? よく見たらサタンとエンラちゃんじゃねーか!》


「はあ、さっさといくぞ」


《了解だ》


 まずは様子見、といってもこれで第二形態まで体力ゲージを持っていける気がするが。


 刀を鞘に収めようすると、真っ白だった刀身は黒く染まっていき、収め終わった瞬間、刀を右上に向け引き抜く。


『抜刀"黒穴"』


 黒き狐月状の斬撃がノブナガ目掛けて飛んでいく。


 まず察したのは、サタンとエンラ、彼らはこの斬撃を知っている。

 だからこそ、何度もバックステップを入れ、大きく距離を取る。


 それを見て、すぐさま異変を感じたノブナガは、再びカランと絶望の音を響かせた。


 瞬間移動の先は恐らく俺だろう。


 だが、それは致命的な間違いだ。


 黒き斬撃は誰もいなくなった場所目掛けて進んでいく。


 そして、ノブナガが瞬間移動した先は"俺"ではなく、斬撃の目の前。


「なっ!?」


 転移されられたノブナガは避ける間もなく、最大火力が直撃した。


 初めて減少した体力ゲージは十割から一気に五割まで削られ、ピタッと止まる。

 第二形態になる条件の体力まで減少したのだろう。


「がっ!? ど、どういうことだ……俺は確かに、レットお前の背後に瞬間移動したはずだ」


 強力な一撃により、右膝と右手を地面についたノブナガは問い掛ける。


「引力、それだけだ」


「は?」


 天翔刀から放たれた黒き斬撃は"引力"を持つ。

 それは、別次元へ干渉するほど。


 普通に考えれば頭がおかしいと思うだろう、吸い寄せられるといってもたかが斬撃、しかも、別次元まで強制的に。


 そう、めちゃくちゃだが、これこそが装備が持つ最強能力の一つ。


 文字通りゲームの設定システムを破壊する能力、【設定破壊システムブレイカー】だ。


 例えば、GHOこのゲームにおいて、どんな場所だろうと暑さを感じたりはしない。

 だが、ある【設定破壊】を持ったモンスターが目の前にいると、暑さを感じるようになり、持続ダメージが入ってしまう。


 まあ、強すぎて、入手できるのは終盤以降だがな。


 それでも、超越種に対しては必須になるほどGHOこのゲームというもののレベルはイカれている。


《相棒、まずは上出来だ。 次が来るぜ》


「ああ」



「……ぐっ、俺、いや、儂の本気を見せることになるとは……」


 そして、『"戦国武将"ノブナガ』は第二形態へ突入した。

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