第35話 決意
翌日、俺たちはロメオ王子、先遣隊の兵士たちと別れの挨拶を交す。
カリメル王子はアリスの一撃が効いており、一晩明けても未だに目を覚まさないため、先遣隊の兵士の一人が抱えて王都へ帰還する事となった。
「兄さんそれではお元気で!」
「正直、あれから城内がどうなってるか分からん。ごたごたするだろうが後処理は頼んだ。お前が王になると黙っちゃいない諸侯もいるだろう。大変だけど頑張れよ」
「尽力します。皆さん、兄さんをよろしくお願いします」
ロメオ王子は王族とは思えないぐらい腰が低い。
そう言えばカリメル王子もなんだかんだ言って丁寧な物腰だった気がする。
俺たちは互いに握手をして、日の出前に北へ向かった。
レメリアは姿を見せないが気配は感じる。
相変わらず俺たちから一定の距離を保ちついてきている。
その日は夕方から森の中で野営の準備に取り掛かる。
「このペースだと明日の夕方には着きそうですね」
「それなら明日は宿屋のベッドで寝れそうだ」
「…はい」
イリーナの言葉に返答するが、未だに関係はぎくしゃくしていた。
りこが俺の服の袖を引っ張り耳打ちする。
「マメはこれ以上ハーレムを増やしたいんですか?この世の女性全てがあなたに好意を持つと思ってるならすごく傲慢ですよ」
「別にそういう訳じゃないけど、関係がぎくしゃくしたままだと支障が出るだろ」
「それはハーレム生活に支障が出るってことですか?」
「いやいや、そうは言ってないだろ」
まったく痛いところをついてくる。
でも、転生後に異性から明確な好意を感じた事なんてほとんどないぞ。これをハーレムと呼ぶのならラノベ展開にしては甘すぎる。
とりあえずはレメリアとの関係修復を優先させるか。
まったく、俺は気にしてないってのに勝手に罪悪感を感じやがって。
気配を頼りにレメリアの居場所を探る。
レメリアは正直、気配を消すのが上手い。
隆二が不意を突かれたのも納得できるほどだ。
しかし、動画を観て気配を探る練習をした俺の敵では無い。
近くの木に飛び乗ると枝の上にレメリアが座っていた。
「マメ…ごめんなさい」
「レメリア、俺はそこまで気にしていないよ」
そう言いながらレメリアの隣に座る。
アーサーに転生した隆二も一度はレメリアに殺され、俺も昨日殺されかけた。
本来であれば気にすべき事なんだろうけど、
2度の転生を経て完全に死生観がバグってるのかも。
それとも、結果的に誰も喪っていないから、本当に身近な人の存在がこの世から消え去った時には何かを感じるんだろうか…。
レメリアは何も言わず押し黙ったままだ。
「あの時の事はレメリアだけのせいじゃない。スピカ王子の前にレメリアを連れていけば、ああなる事も想定していなければいけなかった。俺の考えが甘かった」
「マメ…ごめん…」
レメリアは謝るばかりだ。
「罪悪感を感じてるなら、今後、皆の命が脅かされそうになった時は必ず助けてくれ。ただし、身を呈してっていうのは無しだぞ。俺たちを助けてレメリアも生き残るんだ」
「ふふっ…マメは…むちゃな事を言うね」
「とにかく俺たちにはレメリアの力が必要なんだ。スピカ王子がいない今、お前が縛られる存在は無くなったんだぞ」
「…うん」
レメリアは少し寂しそうに頷く。
スピカ王子とレメリアは歪な主従関係だったかもしれない。それでもレメリアは奴に依存してた部分があるのかもな。
俺は思いっきりレメリアの頭をくしゃくしゃに撫でる。
「わわっ…マメ…やめてよ〜」
とりあえず俺も強くならなきゃ。
皆を守れるくらいに。
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朝霧が周囲に漂う中、俺たちは出発の準備を整える。
更に半日ほど進むと次第に周囲の霧が濃くなっていく。
「イリーナ、そろそろあれを使ったらどうだ?」
「そうですね」
イリーナはそう言うと右人差し指に
すると、リングが一瞬、光ったかと思うと、濃霧がトンネルのように道を空けた。
「へぇースゴイな。それもマジックアイテムか?」
「…はい。そうです」
相変わらずイリーナの反応が冷たい。
「サルーバはね。別名、霧の町とも言うのよ」
「アリスでも知ってる事があるんだな」
「何よそれどういう意味!」
「はいはい、痴話喧嘩はそれぐらいにしてください」
「なっ、痴話喧嘩じゃないわよ!」
アリスは照れながら、りこに対して声を荒げる。
「そうにゃ、アリスなんかより私の方が痴話喧嘩に相応しいにゃ」
「…なら…私だって…」
何故かメルルとレメリアも話に乗っかる。
レメリアはいつも通りに戻ったようだ。
他の皆はレメリアの事をどう思ってるのだろうか…。
ま、焦っても関係がすぐに改善される訳でもないか。こういうのは時間が解決してくれる。
…だが、前前世の俺はどれだけ時間が経とうが周囲との関係が良くなる事はなかった。
当然と言えば当然だ。
関係性はコミュニケーションを取らないと深まる事はない。
昔の俺は誰とも関わろうとはしなかったし、誰も俺と関わろうとはしなかった。
少しナイーブな気持ちになっていると、一気に霧が晴れた。
「到着しました。ここがサルーバの町です」
イリーナが目の前の光景を指差す。
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