第17話 邂逅

 無機質な白い空間が広がっている。

 …どこか懐かしいような感覚に襲われながら、目の前に立つ白装束の少女、いや幼女を見据える。


 小麦色の肌をした銀髪の幼女は呆れたような顔でため息をつく。


「まったく…せっかく2度目の人生を与えてやったというのに前世よりも早く退場するとは」


「やっぱ、ここは死後の世界か?それでアンタは女神か」


「女神ではないわ。女神はお主のせいで人手不足じゃ。まったくどんな色男が女神を2人もたぶらかしたかと思えば…とんだブ男ではないか」


「まあ、男は包容力っていうしな」


「というか…お主は何故そんなに達観しておる。まるで後悔はないと?」


「そうだな…トータルでいい人生だったよ。ほら、天国に導いてくれるんだろ。早くしてくれ」


「まったく何を言うかと思えば、天国なんぞに行けるわけが無かろうが」


「いや、さすがに前科も前前科ぜんぜんかも無い俺が地獄に堕ちるのはあり得ないだろ」


「えらく傲慢な人間じゃのう。安心しろ、地獄にも行かんわ」


「それなら3度目の転生か?」


「うむ、まあ出来なくは無いが正直、輪廻転生に近いぞ」


 本音を言えばどっちでもいい…なんだか人生に疲れた感もある。


「ゆっくりできたら何でもいいさ」


「正直、お主には少し申し訳ないと思っていてな。アリスが適当な手続きをしたから少し不公平じゃったと思ってな」


「それは一理あるが、既に2度目の人生ってだけで儲け物みたいなもんだからな」


「まったく枯れとる奴じゃのう。今回は完全なるランダム転生じゃ。どうなるかはわからん。あとチートアイテムも無しじゃ。それじゃあ準備は良いか?」


「待ってくれ、最後に聞かせてくれアリスたちは無事か」


「それは、


 どういう意味か問い正す前に、見えない力で背中を引っ張られた。

 転生の瞬間は、小学生の頃にプールに溺れた時の感覚に近いな。


 そんな些末なことを考えていると俺の視界が色味を帯びてきた。


「いっ!」

 腹部に走る激痛で体を思うように動かせない。

 目を覚ますと俺はどこかの一室に仰向けに倒れていた。


「坊ちゃま。大丈夫ですか!」

 青髪の女性の顔が間近に飛び込んできた。

 キレイな顔が涙で歪んでいる。


 …まさか転生してすぐに死ぬ羽目になるとは、人生はほんとに理不尽だ。


 そんな悲痛の叫びと共に俺の意識は途切れた。  


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「いてててて」

 再び腹部の激痛で目を覚ます。


「坊ちゃま!」

 先程の青髪のメイドがベッド脇で俺の手を握っていた。彼女は淡い水色のショートボブで左髪をピンで留めている。

 正直、めちゃくちゃ可愛い。3Dモデルの方のりこりんほどではないが。


「キミは?」


「坊ちゃま…まさか記憶が…」


 その後、青髪の美少女メイドから詳しい話を訊いた。


 俺のこの体の持ち主はアーサー・リューイ・レイン。

 ルシアン王国第二王子。眉目秀麗びもくしゅうれいで文武両道。

 鏡で自分の顔を見たが金色の長髪で、切れ目のイケメンだ。


 正直、オルバ山に住んでた頃は鏡なんて無かったから自分の容姿なんて気にならなかった。


 まさか、既存の異世界人に転生するとは。

 俺の意識が入ってるってことは、コイツは本来ここで死んでいたんだろうか。


 他人の体を借りるというのはあまりいい気がしないな。むしろ、その方が燃えるというマニアックな性癖の持ち主もいるのだろうが俺はむしろ真逆だ。


 それにしても転生ガチャ的には大当たりなんだろうけど、スーパーマンが故に第一王子から疎まれているらしい。


 今回、刺客の襲撃にあって腹部を刺されたらしい。自分の事だというのにどうしても他人事になっている。


 一番近しい存在っぽい青髪メイドはイリーナというらしい。


 幸いにもここは王都エルミナ。前世と同じ異世界に飛ばされた訳だが、まずはアリスとりこ、メルルと五郎、そしてばあちゃんの安否を確認するのが先だ。


 国王は床に伏してるらしく、後継者争いの真っ最中のため王子たちは自由に国を離れられないらしい。


「イリーナ、第一王子と会うにはどうすればいい?」


「ふふっ」

 イリーナは何故か笑っていた。


「どうした?」


「なんだか、いつもの凛々しい王子とは別人のようで可笑しくてつい…」

 そこでイリーナはハッとした顔をして突然謝罪を始めた。


「申し訳ございません。王子、ご無礼をお許し下さい」


「別にいいよ。それでどうすれば会える?」


「まさか報復されるおつもりですか?さすがに危険かと思います」


「いや報復はしない。むしろ逆だよ」


「逆…ですか…」

 イリーナは不思議そうな首を傾げ俺を見やる。

 あまりにも美少女過ぎて顔を直視できない。


「よし、直接乗り込むか。イリーナ案内して」


「えっ…えっ…」


 彼女は終始戸惑いながらも第一王子がいる宮殿の一室まで案内してくれた。


宮殿に着くころには既に日が沈んでいた。


 西洋の城を思わす、白を基調とした石造りの建造物。何十メートルもある長い廊下に真紅に金箔の模様があしらわれた豪奢な絨毯が敷かれていた。


「この先がスピカ第一王子のお部屋です。でも王子の近衛兵が通してくれませんよ」


「大丈夫」

俺は城にあった適当な木剣を拝借していた。そのまま木剣を抜き、扉を護る兵士たちに歩み寄る。


「アーサー王子、これ以上は王子であろうともお通しできません」


「知ってるよ。別に君らの許可なんて必要無いから大丈夫だよ」


 次の瞬間、俺は木剣で近衛兵達を鎧ごと斬り伏せる。













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