第18話 王位

 俺は行く手を遮る近衛兵を片っ端から倒していく。

 そしてついに第一王子がいるであろう王室の扉を開け放つ。


「何事だ!無礼者」


 王室のベッドにふんぞり返って寝ている金髪でワカメみたいな髪型の青年。白のローブを纏いその両脇には下着姿の美女を抱いていた。


 こいつがスピカ第一王子か。  


「よう!お兄様」

 軽く手を上げてスピカ王子に挨拶をする。


「貴様はアーサーか…まさか報復に来たのか、そんな事をしてただで済むとでも…」


 精一杯強がってはいるが、目の奥に宿る恐怖心が透けて見える。コイツは虚勢を張ってるだけのただの雑魚だろう。


 俺は木剣を持ったままジリジリとスピカ王子の元へ歩み寄る。


「待て、許してくれ、頼む…。おい、レメリア!貴様の失態だぞ!何とかしろ」



 いつの間にか、レメリアと呼ばれた赤毛にそばかすをたくわえたメイド服の少女が怯えながらも部屋の隅の暗がりから俺の前に出る。


「なぜ…生きてる?あの時確かに…」


 コイツ…どこから湧いてでた。まったく気配なんてしなかったぞ。


「スピカ第一王子!」

 俺の一声ひとこえで王子の体がびくっと震える。


「な、なんだ!」


「俺は王位継承権を放棄します。その代わり1つお願いがあります」


「えっ?」

 その場にいた全員が突然の宣言に唖然とする。 


「ちょ、ちょっと待ってくださいよアーサー王子。あれだけ固執していた王位継承権をあっさり捨てるのですか。貴方を指示している諸侯も大勢いるのですよ」

 これまで状況を見守っていたイリーナが背後から

 反論する。


 俺は後ろ手に手を伸ばし、イリーナの発言を制す。


「お、俺は騙されんぞ!お前の二枚舌にこれまでどれだけ苦汁を飲まされた…」


 なるほど、このアーサーという男は中々に曲者だったらしい。彼には申し訳ないが、この体の持ち主は俺だ。好きにさせてもらうさ。


「そこのそばかす娘に殺されかけて俺は記憶を失ってしまった。今の俺にはどっちにしろまつりごとは無理だ。そこで兄様、提案なんだが、俺は王都を出る。このまま死んだ事にしておいてくれ」


 横目でそばかす娘の反応を見ると図星のようだ。先程の失言と、只者ではない足運び、彼女が俺を殺した張本人で間違いないだろう。


「なっ…俺はそれで構わんがホントにいいのか?」

 スピカ王子は未だに俺の言動が信用出来ないようだ。当然と言えば当然なのだが。


「その証拠に今夜ここを経ちます。俺が抜けた穴をよろしくお願いします。それともう一つ、王位を譲る代わりといってはなんですが、そのそばかす娘を俺に下さい」


「レメリアのことか?こんなそみすぼらしい奴など一向にくれてやって構わんのだが、そんな条件でいいのか?」


「なっ…スピカ王子…私を捨てるのですか」

 レメリアは弱々しい口調で反論する。


「黙れ!誰が喋っていいと言った!元はと言えば貴様が仕留め損なったのが原因だろうが」

 スピカ王子の怒声でレメリアはびくっと萎縮する。


「彼女には殺されそうになった恨みがありますので、俺のはけ口になってもらいます」


「おお…そうか、コイツは見てくれはあれだが、嗜虐心しぎゃくしんをくすぐられるからな」


 もうスピカ王子は俺を暗殺しようとした事を隠す気は無いようだ。


「こんな能無し一人で王位が手に入るのだ。安いものよ」


「ありがとうございます兄様。それではお元気で」

 俺は手向けの言葉と共にレメリアとイリーナを連れて宮殿を後にした。


「アーサー王子の事ですから何か考えがあると思いますが後で説明して下さるのですよね?」


「まあ、おいおいな。それよりイリーナお前地理には詳しいか?」


「すみません。私は王都からほとんど出たことがありませんので…」


「じゃあレメリアは?」


「はい…多少でしたら」


「よし!なら案内を頼む」

 夜も更けて来た頃、俺は自室に戻り王都を出る準備を始めた。


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 既に夜明け前が近いが、スピカ王子との約束もあり金貨と食料と野営道具、アーサー王子の愛用していた細剣レイピア深紅ルージュを携え、俺たちは王都エルミナを後にする。


 一応、身分がバレると厄介なので長い金髪を切り、茶焦げた縁の大きな帽子を被る事にした。


日が高く昇る頃、俺たち3人は街道を歩いていた。


「それよりもイリーナは別について来なくてもよかったんだぞ」


「なっ!王子酷いです。私には王子の傍に以外で行けるとこなんて無いんですからね」

 イリーナは頬を膨らませ顔を背ける。


「王子…この先…右に曲がります」

レメリアは突然慣れない環境に入れられ、ただのカーナビボットと化している。


レメリアの案内でとりあえずオルバ村を目指していた。





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