第27話 リスタート

 気が付くと室内は暗く、俺は寝室のベッドに寝かされていた。


 隣にはメルルが座ったまま寝ていて俺の手を握っている。


 そして、隣のベッドでは肩口まで伸びるサラサラ金髪のイケメンアーサーが…。

 俺は慌てて自身の顔を触る。濃いめの眉に顎の無精ひげ。手に馴染む懐かしき骨格。


 間違いない。俺はようやく真芽夫まめおに戻ったのだ。


 俺はメルルを抱えベッドに寝かす。そして上から掛け布団を被せた。


 部屋を出るとレメリアが扉の前に立っていた。

「あれ、レメリア、なにしてんだ?」


 レメリアは俺に対していぶかしげな目で見てくる。


「今はアーサー…ではなくマメオさん…と呼んだほうが?」


「そうか、レメリアはアーサーの見た目の方が馴染み深かったな。あんま覚えてないんだけどあれから何があったんだ?」

 確か、俺は隆二に刺されたはず。


「隆二さんが…アーサー…いやマメオさんを刺した後に自身の…心臓を貫いて2人とも死にました。その後、イリーナが…慌てて蘇生魔法を2人にかけて…」


 なるほどな隆二は俺とアーサーが入れ替わった時の状況を再現したのか。まったくアイツは…自分が正しいと思ったら突っ走るのは相変わらずだな。それが隆二の長所でもあり短所でもある。


「レメリアはこのまま隆二に着いて行くのか?」


「私…を解放してくれたのは…マメオ。それに…アーサー、いや隆二さんを手にかけてしまったのは私だから」


 確かにな隆二からしても殺そうとしてきた奴が傍にいるのはいやかな。アイツなら気にしなそうな気もするが。というかさっきの様子を見るにレメリアに殺された事は覚えて無いだろう。


「そうか、なら今後ともよろしくだな」


「これから…どうするの?」


「そうだな。荒療治とはいえ元の体に戻ったんだが、肝心のオルバ山の魔とやらに関しては、何も解決してないからな。とりあえず、夜が明けたらあのちびっ子神様に訊いてみるさ」


 会話が一段落着いたところで、もうひと眠りしようとしたところで、レメリアが何か話したそうにもじもじしている。


「ん、どした?」


「マメオは…どうしてスピカ王子から…私を引き離したの?」


「あーあ、それね。あの時は少しでも戦力が欲しかったからかな。後はレメリアの事情が透けて見えたから何となく助けてくなって」


 と言ってもレメリアの事情が分かったのはアーサーもとい隆二の特殊な目のお陰だろう。

 機会があったら目の事を聞いてみるか。


「スピカ王子のところが…よかったかもしれないんだよ?」


「そうなのか?なら戻ったらいいさ。別に俺はお前を奴隷のように扱う気はないぜ」


「もう…戻れないよ」


「そんな事はないさ。あのワカメ王子も虐める相手がいなくて寂しがってるかもよ」


「そうじゃなくて…戻れないの」


「どういうことだ?」


「初めは…スピカ王子から離れるのが…不安で嫌だった。でもアーサー…いや、マメオとイリーナと過ごしてたら…2人とも優しくて…だからここにいる」


「そうか、ならこれからもよろしく」

 レメリアが頷くと、彼女の頭を優しく撫でた。


「さあ、問題は山積みだが、とりあえずは寝るぞ」


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 翌日になって、今後の方向性を決めるため再び話し合いを再開した。


 とりあえず隆二には昨日の事について軽く苦言をていした。

 ついでに、俺がアーサーになっていた時の行動を隆二に掻い摘んで伝えた。


「おい、何で王位継承権を破棄したんだよ!」


「仕方ないだろ!王位継承者が決まるまでは城の外に出られないって言われたから」


「…にしてもだなあ。いや、俺も元の体に戻るためとはいえお前を殺したから…悔しいがチャラにしてやる」


「王位継承権と俺の命が釣り合うってのか?」


「釣り合わねえな。王位継承権の方が大事だ。あのスピカが王になったら間違い無く奴隷制度が普及される。人攫いが蔓延はびこり、奴隷商も盛んになる。そんな事は絶対認められない」


「相変わらずアツいやつだな」


「お前が冷めてんだよ」

 俺と隆二の言い争いに誰も割って入ろうとはしない。俺にとってはいつもの流れだが、俺たちの関係を知らない皆は気まずい雰囲気を感じてるかもしれない。


「ま、今更うだうだ言っても仕方ねえ。とりあえず俺は王都に戻るからな」


「それなら俺たちも当初の予定通り王都で魔について調べるか。ちびっ子神様は魔について何か知らないのか?」


「誰がちびっ子じゃ!魔については本来マメオににえになってもらう予定だったからのう」


「やっぱり神様は知っててマメオを生贄にしようとしたのね!」

 アリスが憤慨して神様に掴みかかる。


「アリス、俺は平気だから抑えて」

 できる限り穏やか口調でアリスを諭す。


「でも、贄って具体的にどうするのにゃ?」


「うむ。本来は今意識を失ってる婆様が導く予定じゃったんだが」


「もしかして神様もよく知らないんですか?」

 りこ神様を見やる。


「うむ。儂が生まれたのが1500年ほど前じゃったから実際に魔とやらを見たことはないんじゃ」


「何だ?神様ってのはもっと万能かと思ってたが、案外役に立たないもんだな」

 五郎が歯に衣着せぬ物言いでつっこむ。


「むっ、チクチク頭め相変わらず無礼な奴だな」

 神様は頬を脹らませる。


「そうですよ。他の神様はもっと凄いんですから、比べたら失礼ですよ」

 りこがフォローをするかと思いきや、さらっとディスる。


「なんじゃ、りこまで、儂をもっと敬わんか」


「神様、他には何か情報は無いんですか?」


「マメオが死んだ時に、ダンジョンの魔物がここいらで出現しとったろ?オルバ山には広大なダンジョンがあって、その中に魔が封印されとるのじゃ」


「やっぱり、この前洞窟で見た変な紋様が刻まれた通路はダンジョンの内部だったのか」

 俺はアーサーの体でアリスたちを助けた時の事を思い出す。


「そうじゃの。最近は封印が弱まってるため入口から魔物が這い出て来てるのじゃ」


「なんか、お前らの話を聞いてたら、俺の王位よりも大事おおごとだな。それなら魔とやらを先に倒すかね」


「倒すのではなくて封印するのじゃ」


「なんでだよ。封印するにはマメオが犠牲にならなきゃいけねえんだろ?なら倒した方が早いじゃねえか」


「お前なあ、魔が何かもよくわかってないんだぞ」

 隆二は相変わらずだ。この強引さや素直さが羨ましくもある。


「とりあえず何にせよ王立図書館で情報を調べよう。隆二、よろしく頼む」


「ああ、昔のことは水に流して、今度は協力してやるか」


 こうして数十年ぶりに隆二と手を組む事となった。
















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