第28話 友

 オルバ村には神様と五郎と未だ意識が戻らない、ばあちゃんが残ることとなる。


 出発前に俺と神様で不在の間の方針を話し合っていた。


「ダンジョンの魔物に関しては、おおよその座標がわかったから、出てこれんよう儂が抑えとく」


「へぇ〜そんな事できるのか?さすが神様というべきか」


「ただ…魔とやらが復活したらどこまで抑えれるか…」


「できるだけ早く戻ってくるよ。それと、ばあちゃんはどうして目を覚まさないのかわかるか?」


「うむ、見た感じダンジョン内の魔瘴ましょうに当てられたのじゃろう」


魔瘴ましょう?」

 

「濃度の高いマナのことじゃ。ダンジョン内には濃いマナが滞留するからのう。濃いマナは人体には毒になるのじゃ」


「さすがと言うべきか神様はいろいろ知ってて助かる」


「あと、儂はもう神様じゃないからの、名はシャルルネ・ルルリカじゃ」


「シャルルでいいか。よろしく頼むな」


「雑な略し方じゃが好きに呼んでくれて構わん。くれぐれも気を付けるようにの」


「そっちこそ。できるだけ早く戻る」


 各自、準備を整え、俺、アリサ、りこ、メルル、レメリア、イリーナ、隆二と先遣隊の兵士たちと王都エルミナに向けて出立した。

 いつの間にやら大所帯になったものだ。


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 オルバ村を出て2日ほどが経過した。

 清涼感のある風が吹き抜ける草原を俺たちは進んでいた。



「アーサー、王都に行ってからはどうされるんですか?」


「そうだな。とりあえず王位継承権を取り戻せないか掛け合ってみる」

 イリーナは隆二が元のアーサーの体に戻ってからはアーサーと呼んでいる。というか、俺以外の全員がアーサーと呼ぶようになっていた。

 俺だけは何となくだが、未だに隆二呼びだ。


「あの腹黒ワカメ王子のことだからいろいろと手を回してそうな気もするが」


「元はと言えば貴方が王位継承権を破棄したせいですけどね」


 イリーナは俺がマメオに戻ってからやけに対応が冷たくなった。

 アーサーの体で記憶喪失と偽っていたことが理由だろうが、美少女に冷たくされるのは少々傷つく。


「マメオ様、疲れてにゃいですか?キツかったらいつでもおんぶするにゃ」


 獣人イーマであるメルルは膂力が人の数倍はある。


「ホントか?ならお願いしようか…なっ!」


 アリスが無言で俺の足を踏んできた。


「にゃにするにゃ、この暴力女」


「ふんっ!」


「何だか急に賑やかになりましたね」

 喧嘩する二人をりこが微笑ましく見守っている。


「メルルが…ダメなら…レメリアがおんぶする」


「レメリア、止めときな。そんな奴に触れると変態がうつるわよ」

 アリスも何故かマメオの体に戻ってからツンツンしている。


「うつらねぇよ。ってか変態じゃないし」


「へぇー、りこりん像を作って、その足を舐めるのは変態じゃ…もがががが」

 とんでもない事を口走るアリスの口を慌てて塞ぐ。


 女性陣からの視線が痛い…。


「りこりんって、りこの事か?」


 空気を読めない隆二が掘り下げなくていい話を掘り下げようとする。


「隆二、その話は今度にしよう。そろそろ野宿の準備に取り掛からないか?」


「なんだ?まだ昼の3時だぞ、少し早くないか?」


「ふふっ…私も疲れてきましたし、少し早めに拠点の設営に取り掛かりませんか?」


「そうか、ならここいらで野宿するか」

 りこが機転を利かせて話題を逸らしてくれた。


 こうして少し早いがテントの設営に取り掛かる。

 五郎がいた時には即座にいや家が出来ていたが、今はそうもいかない。ここにきて五郎の有り難みが身に沁みてわかる。


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 夜も更けた頃、見張りを交代するためテントの外にいる隆二に声を掛けた。


「隆二、交代の時間だ。後は俺が見張っとくからゆっくり休め」


「おう、ありがとう、と言いたいところだが少し話せるか?」


「…ああ」


 後ろめたさからか、何となく隆二との会話を避けていた。


 俺は腹を括り、隆二の隣に腰掛ける。


 子どもの頃の他愛ない話から転生後の話まで休むのも忘れ語らいだ。


「マジかよ、アリスとりこって元女神なのか。…そういえばそんな話をしてた気がするが、そこんとこ詳しくは聞いてなかったわ」


「この世界って意外と転生者が多いよな。そのせいで女神の仕事が大変なんだろうけど」


「そういえば最近、女神の面談ってないな。俺の担当はミリカって別の女神だったが…」


「なんか人手不足のあまり、面談は廃止されて、AIロボットとタッチパネルで転生のみの対応になったって言ってたな」


「エーアイロボット?」


「そう言えば隆二が死んで日本は約20年は経ってるんだぜ。それならVTuberとか知らないんじゃないか?」


「ぶいちゅーばー?」

 隆二は言葉を繰り返すだけのBotぼっとのようになっている。


「てかお前、俺より20年も長生きしてんのかよ。…でも不思議な話だな」


「なにがだ?」


「真芽夫って確か18だっけ?」


「ああ」


「俺も18だ。俺ら転生した時期は全然違うのに、こうしてまたタメで巡り合うとはな」


「確かに腐れ縁を通り越して因縁すら感じる」


「なんだそりゃ」


 少しの間、沈黙が流れる。


 俺と隆二は中学校からの付き合いだ。

 俺が不良グループにイジメられていたところを隆二が助けてくれた。


 ただ、今度は隆二が不良グループに目を付けられていたが、隆二の先輩がそれを助けてくれた。


 その時に一緒につるまないかと隆二に誘われたが不良系とは肌が合わないと断ってしまった。


 それから隆二は高校には進学せずに助けてくれた先輩を慕って鳶職とびしょくを始め、次第に俺とは疎遠になっていった。


 隆二の先輩は喧嘩っ早く、周りにとにかく敵が多かった。漫画みたいな話だが、隆二は不良グループの襲撃から先輩を庇い命を落とした。


 …俺は高校卒業と同時になんとなく隆二に会いたくなって隆二の実家を訪ねたが、その時既に隆二が亡くなって1年は経過していた。


 きっかけは俺がイジメられたこと。

 そのお陰で隆二とは親友になれたが、そのせいで隆二は死んだ。

 なのに俺は1年も隆二が死んだ事を知らなかったんだ。


 その後何もする気が無く気付けばニートになっていた。


「りゅう…」

 そこまで言いかけたところで隆二が俺の言葉を遮って話し始めた。


「別に俺が死んだのはお前のせいじゃねえよ。俺の道を突き進んだ結果だ。別に後悔はねえよ」


「でも…」


「1つ、悔やまれるとしたら俺の事をお前が引きずっていたことだ。お前はお前の道を進め。お前は今、何がしたい?」


「俺は…みんなと平和に暮らしたい」


「はははっ、真芽夫らしいな。俺は国を平和にしたい…ってことはだ。俺とお前の願いは奇しくも同じようなものだ。前も言ったが過去のことなんざ水に流してさっさと前に進めよ。もたもたしてっと置いていくぞ」


 そうだコイツはこういう奴だった。

 隆二らしい激励に何か言葉で返そうと思ったが、涙と嗚咽しかでなかった。


「男が泣くなよ」


「今は…ジェンダーレスの時代…だぞ」


 こうして、何十年にも渡る心のおりが一晩にして消え去った。













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